床に座ったリリアが目の前にある膨らみをそっと撫でるとベッドに腰掛けていたマレウスが唾を飲み込んだ音が耳に届く。その青臭い様子に小さくほくそ笑みながらスラックスのファスナーを前歯で噛んだ。焦りと確かな興奮を隠しきれない声色でリリアの名前を呼ぶマレウスを無視し、わざとゆっくりとファスナーを下ろして下着を露出させた。
こんもりと膨らんでいる性器に布越しのまま頬を擦り寄せ、その際に甘えるみたいに上目遣いでマレウスへ視線を向ける。目が合った彼はぐっと唇を噛みしめているが顔は紅潮しており一筋の汗が首筋を流れた。
マレウスが己の行動の一つ一つに興奮しているという優越感と年下の男にいけないことを教え込んでいる背徳感にぞくぞくとした感覚が背筋を走る。はあ、と熱の籠もった吐息を零しながらリリアは下着の上から性器を揉みしだく。
「ぅ、あ……、リリア……っ」
思わずといったように艶やかな声をもらしたマレウスはシーツを握り、与えられる快感に負けまいとこちらを睨みつけてくる。いかにも快感を必死に耐えていますといった様相にリリアの胸がぎゅっとしめつけられた。
「ふふ……可愛いのう、マレウス」
くふふと笑みを浮かべながらリリアは下着から性器を取り出して先端にキスを落とす。赤黒い性器はすでに硬くなっているためにはっきりと血管が浮き出ており、大きさも相まってグロテスクなものに見えなくもない。だが凶暴な性器もリリアはとっくに見慣れており、またこれが己に深い快感をもたらすものだと思えば愛しさが募るというものだ。
性器に唾液を垂らして滑りが良くなるように指で塗り込むように扱いていく。びくん、と体を震わせたマレウスに気分を良くしながらリリアは大きく口を開けて性器を咥える。
「────っ!」
声を出すことは耐えられても荒い呼吸までは隠せなかったマレウスを尻目にリリアは喉奥まで性器を飲み込んでいく。鈴口から溢れているカウパー液が口の中にひろがり、その苦さに少しだけ眉を寄せるが構わず最奥まで到達させる。長いため咥えきれなかった根元の部分に手を添えてからリリアは焦らすかのように顔を引き上げていった。
口内の柔らかい肉や舌で性器全体を愛しながら、しかし尖った歯で傷つけないように慎重に行為を進めていけばマレウスの手がリリアの頭を撫でる。掠れた声を上げる彼はもう余裕がないのだろう、触れた手は微かに震えていた。
そんな可愛らしい態度を見せるマレウスにリリアは目を細めながら口角を上げ、一層愛撫を激しくする。舌全体を使って血管の一つ一つをなぞるように舐め上げ、添えていた手で陰嚢を優しく転がすように撫でた。口の端から垂れる涎が性器を伝いマレウスの下着に濃い染みをつくるのも気にせず夢中でむしゃぶりつく。
「んぐ、ぐ、ぅ、ちゅぷ、ぅんん……っ! ぢゅ、ぢゅっ、むぅ……!」
喉奥まで咥えた性器を吸い上げた後に裏筋から亀頭まで涎を塗り込むように舌を動かし、先端に辿り着いた唇で次はカリ首を重点的に攻め立て射精を促していく。
「リリア、もう……っ!」
ぶるりと腰を揺らしたマレウスにリリアは口淫を中断し、性器の根元をぎゅっと握りしめる。射精を阻止された彼は強い眼差しで無言の抗議を見せるがそんなのはただただ可愛らしいだけだ。可哀想なほどにカウパー液を零す性器を慰めるため──苛めるためでもあるが──に亀頭を吸い上げて体液を飲み込んでからリリアはその場で立ち上がった。
マレウスに見せつけるように一枚ずつ服を床に脱ぎ捨てていく。触れられてもいないリリアの体はすでに火照っており白い肌はほのかに赤く色づいていた。すっかり性感帯となった乳首は立ち上がり、また下着は性器から溢れた体液でぐっしょりと濡れている。
期待で生唾を飲み、熱い視線を送ってくるマレウスを優しくベッドに押し倒してからリリアは己の下着を投げ捨てた。部屋を訪れる前に準備をしていたおかげで後孔はこのまますんなりと性器を受け入れられそうだ。
真っ裸な己と性器を露出している以外に着衣の乱れがないマレウスという対比にリリアは高揚感を覚える。ふ、ふ、と笑いを堪えずに肩を震わせる己に彼は身動ぎして服を脱ぎたいと言う。一人だけ服を着ているのが恥ずかしいのだろうがリリアはマレウスの口元に人差し指を当て、首を横に振った。
「ダメじゃ。今日はこのままわしが上に乗る」
宣言したとおりにリリアはマレウスの性器の根元に手を添え、そこに腰を落としていく。後孔を解したといっても性器の出っ張り部分を挿入するのは少しだけ手間取り、中を割り裂いて入ってこようとする質量に小さく喘ぐ。
「あ、あっ、う、うあ……っ! ああっ……!!」
カリ首を越えれば後は簡単に性器を受け入れることができる。すっぽりと根元まで飲み込んだ性器から与えられる陶酔感にリリアはうっとりとした吐息を零す。体を貫く熱さにくらくらと頭がふらつき、目の前のこと──マレウスのことしか考えられなくなる。
マレウスに目を向ければはー、はー、と獣のように荒い呼吸を繰り返し、それでも理性を断ち切れないのか腰を動かすのを必死で耐えているようだった。射精を中断させられたのだから無理矢理に動いても構わないのに──乱暴なマレウスもリリアは好きである──、こうしていじらしく我慢している姿を見せられてしまうとリリアの胸は自然と高鳴ってしまう。
「好き、好きじゃ、マレウス。ふ、っ、んんっ、あんっ、ふ、ふっ、可愛いのぅ……あっ! あっあっ、ああああぁ……っっ!」
可愛いと口にした瞬間にマレウスが腰を突き上げ、リリアの喉から零れた嬌声が部屋中に響く。そのまま上半を起こしてリードを取り戻そうとする彼に反発心が芽生え、負けじと自ら腰を回すように動かした。
途端に動きを止めて射精を耐えるように歯を食いしばったマレウスに勝ち誇った笑みを見せつけながらリリアは性器の先端付近まで腰を浮かし、そしてまた根元まで受け入れていく。彼の性器の形を覚えてしまった内壁は精液を搾り取るためにぴったりとくっつき、吸いつくようにしめあげる。
「ふ、ぁ、今日は、わしが、んぁ、はっ、動くと言ったじゃ、ろっ!」
そのためにわざとベッドの端で口淫をし、そのまま押し倒したのだ。マレウスの足をベッドからはみ出させたまま腰に乗りマウントポジションを取れば態勢の不安定さから、彼がリードを取り戻すにもタイムラグが生じる。そしてその隙を逃すほど己は甘くはない。
リリアがリードを取ることにマレウスが苦手意識を持っていることは気づいているが、こちらも年上の矜持というものがある。それに彼が思うよりもずっと己は相手を愛しているからなんでもしてあげたく、可愛がってあげたいのだ。
「あっあっ、ああぁぁ……っ! す、き、好き、マレウスっ、ぅ、うあっ、んんんっ、あっ、あああぁっ!!」
マレウスに覆い被さるように抱きつき、無我夢中で快楽を追う。ぐちゅぐちゅと体液が混ざり合った淫靡な水音が響いて二人の汗がシーツを湿らせていく。
性器が最奥に当たるように腰を揺らすと同時にマレウスが突き上げ、ごり、と音を立てながら一番奥を穿たれる。
「ひあああっ! ひっ、ふ、ぅうう……っ!! あっ、んんんっ、んーーーーっ、んん、んむ、ぅ……っ!!」
「はっ、リリア……っ!」
甲高い悲鳴のような嬌声を上げたリリアの唇をマレウスが塞ぐ。快感に意識を飛ばしていた間に彼は上半身を起こしてこちらを抱きしめたらしい。そのままリリアの腰を軽々と掴んだマレウスは最奥まで到達した性器をぎりぎりまで引き抜き、今度は前立腺を狙って肉壁を掻き分けていった。
「あ、あああぁぁ……っ! ひ、ぅ、あっんんっ! はっ、も、ぅ、いく、いっ……!! マレウス、いっちゃ、っ、ひんっ! いく、いく……っっ!!」
「リリア、リリア……っ、僕も、もう……っ!」
リリアはマレウスの首に手を回して体を密着させながら口づけを交わし、眉を顰めて必死に射精を堪えている彼の表情を間近に見つめる。
翻弄されても必死に抗おうとする姿やぎりぎりまで快感に耐えようとする様子が可愛らしくてたまらない。マレウスの全てがリリアの彼に向ける愛おしいという感情を象っているようにさえ思えてしまう。誰よりも大切な、愛しい人。
「すき、好き、あっ、あああぁああ! んっ、ふぁっ、ひぅ、すき、ぃ、んああぁ……っ!!」
リリアの言葉にマレウスはさらに性器を大きくしてより一層攻め立て、互いに絶頂へ向けて駆けていく。
マレウスがぶるりと体を震わせて小さく呻いたと同時に己の中に熱い精液が注ぎ込まれ、ぎゅっと相手にしがみつきながらリリアもまたオーガズムを迎えたのだった。
「ああぁ……っ、あああぁ……っ! あ、あぁ……ぅあ……は、ぁ……っ、ひっ、ふ、ぅう……!」
絶頂の余韻で痙攣したようにびくびくと震える体を心の中で叱咤しながらリリアは腰を浮かせて性器を引き抜く。マレウスの性器を受け入れていたばかりの後孔は少しだけ彼の形に拡がったままで、暫くすると注ぎ込まれた精液が滴り落ちる。内壁を伝う感覚に熱い吐息をもらせば、ふと目の前の人物が生唾を飲み込んだことに気づいた。
にんまりと口角を上げたリリアは太腿を伝う精液を掬い、それを再び後孔へ戻すように指を挿入する。中で掻き混ぜているうちに精液は白く泡立ち、淫猥な水音が聴覚を犯して思考を狂わせていくようだった。
「ん、んぅ、んんんぅ、ふ、あああぁ……っ!」
良いところを掠めた指に一際大きな声で啼けばリリアの肩をマレウスが痛いほどに掴む。そのままくるり、と赤子の手をひねるかのごとく簡単にベッドへ投げ出され、その拍子に後孔から指が離れてしまった。
こちらに覆い被さるマレウスの呼吸は荒く、興奮しているのが見て取れるがそれでいて行動は起こさずじっとリリアを見ている。
ああ、やはり可愛らしい。そう思いながら両手を伸ばしマレウスを受け入れるリリアは、彼の瞳の奥に隠された決意に気づくことはなかったのだった。
前の情事から数日が過ぎたある日のこと。リリアは軽音部の活動を終えてディアソムニア寮に戻ろうと鏡舎に足を踏み入れ、そこで寮の鏡の前で立ち止まっているグリムを見つけた。隣には監督生の姿はなく、たった一人で手紙のようなものを持ってきょろきょろと周囲を見渡しているようだ。一体なんの用だろうかとリリアが足を進めて近寄ればグリムは青い炎を纏った耳を猫のように動かしてこちらに視線を向ける。
「おおっ、漸く来たんだゾ!」
ぽてぽてと小動物が歩くような音を響かせながらグリムはリリアの前に近づき、手紙を差し出す。
「ツノ太郎からリリアに渡してくれって預かって来たんだゾ! 全く、子分もツノ太郎も仕方のないヤツなんだゾ!」
「おお、そうか。ではさっそく中身を確認するとしよう」
えっへんと胸を張るグリムを一撫でした後にリリアは躊躇いなく手紙の封を切る。手紙からは確かにマレウスの魔力が染みついており、誰かが彼の名を騙ったということもなさそうだ。
オレ様も見る! とその場でぴょんぴょんと跳ねるグリムのためにしゃがみ込んで一緒に手紙の内容を読むと、差出人はマレウスだったが文頭は監督生の挨拶から始まっている。目を通した後、内容を要約すればオンボロ寮でちょっとした実験を行ったら──自分は見ていただけで実行犯はマレウスだ、と監督生の弁明も書かれている──厄介なことになったので迎えに来て欲しい、とのことだ。
「子分のヤツ、オレ様をのけ者にしてツノ太郎と楽しそうなことしててずるいんだゾ! リリア、今すぐオンボロ寮に戻るんだゾ!!」
グリムは地団駄を踏みながら今にも炎を吐き出しそうなほどに息巻いている。仲間はずれにされたのがそんなに悔しいのだろうか、彼はさっさとリリアを置いて鏡舎を去ってしまった。恋人が絡んでいる以上、当然己の選択肢もオンボロ寮に向かう以外存在しないのだがどうにも嫌な予感が止まらない。マレウスのことだから滅多なことにはならないとは思うが、彼は時折突拍子もない考えに辿り着くことがあるから心配なのだ。
そして、長年連れ立ったリリアの勘が言っている。今回のマレウスはその突拍子もない考えで碌でもない出来事を起こしている、と。
深いため息を吐きながらリリアも歩き出し、メインストリートで追いついたグリムを腕に抱えながらオンボロ寮の扉をノックしたのだった。
「こんにちは、リリア先輩。ツノ太郎はゲストルームにいますので、どうぞ中へ」
扉を開けた監督生はリリアの腕の中にいるグリムを受け取りながらマレウスの場所を伝えてくる。その表情は何処か引き攣っているように見えて嫌な予感が的中したことに肩を落とした。
「マレウスがなにをしたのかわからぬがすまぬな……」
「いや、今回は一概にツノ太郎だけが悪いとも……。リリア先輩にも原因はあると思います」
「わしが?」
「まあ、なんというか……。とにかく二人で話し合って下さい。こっちは馬に蹴られる趣味はないので」
監督生は右手をひらひらと振ってゲストルームではなく談話室へと歩を進める。どうやら本当にマレウスと二人きりで話し合わせるようだが、リリアには現状なにが起きているのか全くわからず、そして原因がこちらにもあると言われても皆目見当がつかなかった。
とにかく言われた通りゲストルームに辿り着いたリリアがノックの返答も待たずに部屋の中に入れば、監督生が用意したであろうソファーに座っているマレウスと目が合う。
「リリア」
「は……? マレウス……?」
視線が交わったマレウスはソファーに座ったまま穏やかな笑みを浮かべてリリアの名前を呼んだ。その声色や容姿も全ていつもと変わらない様子だった。けれども、リリアの本能が目の前にいるマレウスが自分の知っている“マレウス”ではないと警鐘を鳴らしている。
ぞわぞわと毛が逆立つ感覚にリリアは思わず一歩だけ後ずさりし、警戒心を露わに“マレウス”らしき人物を睨みつけた。
「フフッ、流石リリアだな。僕が“僕”じゃないとわかってくれるか。これでも魔力は完璧に抑えたつもりだったんだが」
左手を口元に当てくすくすと笑う“マレウス”は看破されたことを嬉しがり、先ほどの言葉の通り隠していた魔力を誤魔化すことを止める。その瞬間、ゲストルームに溢れる膨大な魔力にリリアは酸素が薄くなったかのような息苦しさを覚えた。全盛期の自分でも勝てない魔力量とどこか──そう、マレノアに近い魔力の濃さに目の前の人物が“未来”のマレウスなのだと直感的に理解する。どうして、どうやって、本当に? などと頭の片隅にある冷静さが抱いた疑問さえも直感に勝ることはなく、ただ導かれた答えだけがリリアの胸にすとんと落ちたのだった。
「とにかくこちらへ来ないか。事情も話さないといけないだろう」
座っているソファーの隣を軽く叩きながら自分を呼び寄せる“マレウス”に、リリアはまだほんの少しの警戒心を抱きながら大人しく隣に腰を落とす。困惑と疑いの目を向けられ苦笑いを浮かべる彼は長ったらしい前置きもなしに単刀直入に言った。
「この時代の体を借りている僕は未来の“マレウス・ドラコニア”だ。そうだな、大体500年ぐらい先だろうか。この時代の僕と未来の僕が一時的に精神を交換しているんだ」
“マレウス”の言葉を聞いて思わず口を開けたまま呆けてしまったのは仕方のないことだろう。精神体を交換だけならまだしも、交換相手が未来の人物だなんて今まで聞いたことも、おそらく試そうとした人物もいないはずだ。少なくともマレウスのように桁外れの魔力量を保持している者でなければ成功することはないだろう。
「本当は精神体を交換する予定はなかったんだが、僕の“リリア”が面白がってこの時代の僕を上手く乗せてしまってな。交換する羽目になってしまった」
「……なんて言えば良いのか……お主も大変なんじゃな……」
リリアはずきずきと痛む頭に指を当ててため息を吐いた。簡単に乗せられて精神体を交換するマレウスの迂闊さや確かに未来の自分なら面白がるだろうということがありありと目に浮かぶ。
現代のマレウスが帰って来たら説教をするべきだろう。そもそもなんの目的で未来の自分と交信しようと思ったのか。それを未来の“マレウス”は知っているだろうか、と視線を向ければ彼は穏やかに笑いながら言った。
「それにしても、僕が“未来の存在”だとよく簡単に信じたな」
「わしが恋人のマレウスをわからないわけがなかろう。誰よりも傍にいたんじゃぞ? それに、お主が“未来のマレウス”だと言うならその懐かしい膨大な魔力にも納得がいく。そしてそんな魔力を持っている者がこんな嘘を吐く必要も思いつかん」
「フ、フフッ……恋人、か。随分と素直に口にするんだな。この時代の僕には素直な気持ちを照れくさくて言えないのに?」
「は!?!?」
面白くて仕方がないとばかりに大口を開けて笑う“マレウス”は驚愕した表情で固まっているリリアの頬を撫でつつそっと耳元に口を寄せる。
「恋人になれたのが嬉しくて嬉しくて仕方がないんだろう? 僕のことが大好きでたまらなくて、でも素直に言うのは抵抗があるから可愛いという言葉で誤魔化して、セックスのときに余裕ぶって好きと伝えるしか出来ない」
可愛いな、と揶揄を含んだ静かな低い声で囁かれたリリアは見透かされたことによる羞恥で頬を真っ赤にさせた。吹き込まれた言葉の熱に体がぞわりと震えたのを気のせいだと否定しながら、“マレウス”の胸元を押しのけて距離を取ろうとする。
だが未来の“マレウス”は一枚上手で押しのける手を逆に掴み、そのままリリアを引き寄せて腰に手を回す。触れたところから伝わる体温に思わず小さな悲鳴を上げてしまったのはやむをえないことだろう。
体はリリアの知っているマレウスだが、雰囲気やしゃべり方、動作の一つ一つが自分の知らない時間を過ごした”彼“なのだと理解させられてしまった。隠してきた気持ちを看破し、あまつさえからかってくるなど今のマレウスでは到底考えられないことだ。
「ぅ、ううぅ…………っ!」
噛み殺しきれない笑い声を零す“マレウス”に顔を見られないように俯きながらリリアは恥ずかしさで呻く。
そう、マレウスと恋人になれたことが嬉しくて毎日幸せで、こちらを見つめてくる彼と視線が合う度に好きが溢れてくるくらいリリアは相手にベタ惚れだった。けれど好きだと素直に口にするには小さなプライドや年上という立場、従来の性格が邪魔をする。他人をからかってきた性格が仇になり今更真っ正直に愛の告白が出来ないなど、少なくともリリアが知っているマレウスに言えるはずもない。
「可愛い」
「~~~~っっ!! み、みみっ、耳元で囁くな!! そもそもどうしてそんなことがお主にわかるんじゃ!」
「昔に“リリア”が言っていた。今のリリアにしてみれば“未来のリリア”になるがな」
「未来のわしはなにしてるんじゃ……っ!!」
恥ずかしさが頂点に達したリリアはぎゅっと目をつぶって羞恥に耐えていれば、ふいに強く抱きしめられる。
「……難しいかも知れないが、今の僕にも素直な気持ちを告白して欲しい。このときの僕はまだ子どもで、リリアの言葉の裏まで考えられないんだ」
「マレウス……?」
先ほどまでとは違う真摯な声にリリアは彼を見つめた。どこか困ったかのような表情を浮かべながらこちらの髪を掬い上げ、キスを落とす。
「リリアに愛されているのはわかっている。けれど、可愛いと子ども扱いされるのはまだ対等ではないのかと不安になるんだ。僕は庇護され、可愛がられたいわけじゃない。お前を愛しているただ一人の男として見て欲しい。……未来の“僕”にどうしたら良いのか相談するくらい今の僕は余裕がないんだ」
「…………」
「このときの僕は思い込むと一直線だからな。このままだと世界を巻き込んだ痴話喧嘩をするかもしれないな」
「は、まさか。流石に冗談じゃろ?」
リリアの言葉に未来の“マレウス”は笑みを深くするだけで沈黙を保つ。その顔が冗談ではないと教えているようで、現在の彼が事態を引き起こした原因がわかったというのに全く頭に入ってこなかった。未来の自分達は一体どんなことをしでかすというのか。冷や汗をかくリリアを尻目にマレウスはこちらの体を横に抱きかかえながら口角を上げる。
「さて、この体に本来の僕が戻るまでは残り2時間ぐらいだな。それまでなにをしようか、リリア」
「は? い、いやいや、まてまてまて。お主なにをしようとしている?」
「最後まではしないさ」
「最後も最初もないわ! う、浮気はせんぞ!? いくらこの体がマレウスのものだとしてもお主はわしの知ってるマレウスじゃないんじゃからな!?」
「……リリア、よく考えて欲しい。もしもリリアが未来の“リリア”だったとして、過去の“僕”が現れたら可愛がらないと僕に誓って言えるか?」
「そ、それは……」
最後までは手を出さないとは誓えるが可愛がらないかと問われると自信がなかった。今でさえマレウスのことが好きでたまらないのだ。未来で過去のまだまだ初心な可愛らしい彼が現れて、自分のことをちゃんと男として見てもらいたいなど相談されたら少しはからかってしまうかもしれない。
視線を逸らすリリアにマレウスはため息を零しつつマジカルペンを胸元から取り出す。
「まあ僕の“リリア”のことだ。おそらく手を出したりはしないだろうが、目の前で自慰行為をして自分の好いところを教えたりはしているだろう」
「未来のわし変態では!??!?! というか、それとこれとは話が別じゃろ!? 向こうが、その、じ、自慰行為を見せつけていたとしてもそれは未来のわしの責任であって、わしがお主になにかされる謂われはないんじゃが!?!?!!」
「過去の僕を浮気者とは言わないんだな。おそらく過去の僕は今頃未来のリリアの痴態を目に焼きつけていると思うが」
「それは未来のわしが変態過ぎるだけで、マレウスは悪くはない……いや、こんな事態を起こしてる時点で少しぐらいは悪いかも知れぬが……」
それでも事故のようなもの──といって良いのかはわからないが──を浮気したと責めたくはない。というかそもそも本当にそんなことが起きているのかどうかなどリリアには確かめる術はないのだ。もしかしたら未来のマレウスが嘘を吐いている可能性だってある。
「……全く、本当に昔からリリアは僕に甘いな。僕だってそんなリリアを甘やかしたくなる」
ちゅ、っと唇で軽く項に触れたマレウスはリリアを股の間に後ろ向きに座らせるように抱えなおして抱きしめる。そのまま彼は持っていたマジカルペンを振り上げて魔法を発動させた。
次の瞬間にはオンボロ寮のゲストルームからマレウスの部屋──しかもベッドの上だ──に移動させられており、揺れの一つも感じさせないスムーズな転移とベッドの上に到着するといったコントロールの正確さに驚愕する。
リリアが驚きで声を忘れているのをこれ幸いとばかりにマレウスは耳元に唇を寄せた。
「ひっ……!」
「可愛い、リリア。可愛い、愛してる」
耳に直接言葉を吹き込むように囁かれ、リリアの体が震える。いやだと抵抗するように身動ぎすれば腹部に回った腕によって引き寄せられて二人の体がさらに密着してしまう。片方の空いている手はリリアの手を握って指を絡ませてくる。
「あっ、ぅ、ぅうう……っ!」
「……リリア、僕を甘やかしてはくれないのか? いつもみたいに可愛いと、好きと言ってはくれないのか? 未来の僕は、もう好きじゃないのか?」
「そ、その言い方は卑怯じゃろ……っ!!」
未来だろうが過去だろうが、マレウスがマレウスである限りリリアは彼を愛するだろう。出会った時から、ずっとその想いは変わらない。だがだからといって未来のマレウスとそういうことをするのはリリアが知っている彼に悪いと感じてしまい、倫理的に歯止めがかかってしまう。
「フ、フフッ……こんなに可愛らしいリリアは随分と懐かしい」
皺の一つ一つを確かめるように指を撫でながらマレウスはリリアの耳介を唇で甘く食む。
優れた聴覚を持つリリアはマレウスが唇を開いたときの音や甘噛みした音さえも正確に拾い上げてしまい、背筋に身に覚えのある感覚が走った。は、と漏れた呼気に少しの熱を含ませてしまったのを悟り、じわりと涙が滲む。
「マレウス、もう、これ以上は……っ!」
「ああ、これ以上は手を出さない。ただ名前を呼ぶだけだ。それは許してくれるだろう?」
「っ、ぅ、あ……み、耳元、っ!」
「可愛い、僕のリリア」
「ひぅ……っ! んっ、ぁ……!」
ぴちゃり、と淫猥な水音を立てながらマレウスの舌がリリアの耳の縁を舐める。彼の舌が動く度に体が震えて力が抜けていくと同時に胸の奥に熱が灯っていく。
「あ、ぁ、ああぁ……! て、手を出さないって、んんっ!」
「“手”は出していないだろう?」
「へ、屁理屈……っ!! あっ、あ、あっ、ま、待てっ、ふっ、はっ!」
「このときから耳が弱かったんだな、可愛い」
耳の中へ舌をねじ込まれ、ぐちゅぐちゅと反響する音が脳天にまで響く。聴覚を犯されながら時折交じるマレウスの可愛い、好き、愛しているという言葉にリリアの思考回路が蜂蜜のように蕩けてしまう。小刻みに痙攣する体を止める術もわからずにリリアは涎を垂らしながら嬌声を上げた。
「あ、はっ、はっ、んぅ……っ!! んぐっ、んんっ、んんぅ……あああぁ……っ!」
指を撫でていただけの動きが段々と速くなり、それがまるで挿入の動きを彷彿させるようでリリアの腹の奥がきゅうう、と切なく疼く。それと同時に背中に当たる硬いものの存在に気づいてしまった。
マレウスも興奮し、熱を昂ぶらせている。その熱がどんなにリリアを気持ち良くさせるのか覚えてしまった体はそれを欲しがり、後孔がひくひくと収縮してしまう。
「んああぁ……っ! んっんっんんっ、あ、やっ、ひぅ……っ!!」
だが、ここにいるマレウスはリリアの“マレウス”ではない。どんなに体が快楽を求めようとも彼が欲しいわけではない。リリアが欲しいのはいつだって隣にいたともに歩んできた“マレウス”だ。
「マ、マレウス……っ、マレウス……っ!!」
子どものように涙を流しながらリリアはマレウスの名前を呼ぶ。その必死さに己が呼ばれたわけではないとわかった彼はフッと笑いながら愛撫を止める。途端に脱力し倒れそうになるリリアを胸元で支えながらマレウスは言った。
「タイムリミットだ、リリア。過去の僕をよろしく頼む」
「は、ぁ……」
荒い呼吸を落ち着かせつつマレウスの方へ顔を向けると彼は最初に見たような穏やかな笑みを浮かべている。
「“僕”のことをちゃんと見てやってくれ。それから、大事なことは“僕”にも伝えてくれ。一人で決めないで、ちゃんと“僕”と話し合って……」
眠りに落ちるかのごとく語尾が小さくなり、瞳を閉じたままもたれかかってくるマレウスを慌てて抱き留めた。見た目の変化はないが溢れていた膨大な魔力が消え失せ、どことなく目をつぶっている彼の表情も幼く見える。戻ってきたのか、とリリアが思うのと同時にマレウスの瞼が開いてこちらと視線が合う。
まだ状況が掴めていないのかマレウスはきょとんとした様子で何度か瞬きを繰り返し、それからじわじわと頬を赤く染め上げる。その表情を見てこやつは一体未来でなにがあったのだろうか、と一抹の不安と嫉妬が沸き起こった。
もっとも、その件に関してはリリアも同様──むしろベッドの上で呼吸を乱し、紅潮している表情を見せている自分の方がなにがあったのか思われそうだ──だろう。
「……」
「……」
「あー……その……体調に変化はあるか?」
「……ない」
「そうか、それは良かったのう……」
「…………」
「…………」
魔法を行使したマレウスの体調に変化がないのは幸いだったが、互いに相手と視線が合ったら顔を背けるという動作を繰り返しているせいで気まずい沈黙が流れる。彼が未来でどんな目に遭ったのか知りたいようで知りたくない複雑な心境はリリアの口を重く閉ざしてしまう。それに自分がどんなことをされたのか聞かれたら困ってしまうことも黙り込む理由の一つだった。
「……、……」
マレウスは口を開け、だがしかしそこから言葉が漏れることはなく再び閉ざされてしまう。
互いに切っ掛けとなる言葉を発することが出来ず、ただただ沈黙が流れる空間に耐えきれなくなったリリアはマレウスの胸元を押して彼から離れようとする。言い訳のように監督生のことを話題に出しながら顔を逸らし、ベッドから下りようとゆっくりと体を起こす。
次の瞬間、リリアの視界はくるんと回転し、気がついたらマレウスの眉を顰めた顔とその肩越しに部屋の天井が見えた。
押し倒された、とリリアが意識するまでの間にマレウスはこちらの下半身を跨ぐように覆い被さってくる。
「お、おお落ち着けマレウス!」
「僕は落ち着いているが?」
「人をいきなり押し倒しておいて落ち着いているわけないじゃろうが!」
「……リリア、記憶はどこに保存されていると思う?」
「はあ? 急になにを言い出すんじゃ、お主は。そんなの、脳ミソ……ん?」
「そうだ。そして精神体を交代したからといって肉体の脳が物理的に交換されるわけがない」
「……つまり?」
「僕はここでリリアが“未来の僕”となにを話し、どんなことをされたのか知っている」
「!?!?!!!?!?!」
マレウスから放たれた衝撃的な一言にリリアは先ほどまでの時間を思い出して一気に顔に血が上る。おそらく首に付け根まで真っ赤になっているのだろうと鏡を見なくてもわかるほどに顔全体が熱く、わなわなと唇が震えて言葉が詰まった。
未来のマレウスはリリアになんと言ったか。そしてそれを自分は一切否定しなかった。
「リリアが僕のことを大好きで仕方ないというのは本当なのか?」
「う、ぅ……」
「リリア……」
「うぅ……っ! ……ああそうじゃ!! わしはお主が好きで好きでたまらん!!! お主と恋人になれたことが嬉しくて仕方なかったし、毎日毎日お主といちゃいちゃするのが幸せだと思っておる!!! なにか悪いか!?!?!?」
やけくそ気味に叫びながらマレウスの襟元を掴んで唇を奪う。彼の言葉を聞きたくないと起こした行動に少し驚いた表情をしたマレウスは、だがすぐにリリアの開いている唇に舌をねじ込んでくる。
絡み合う舌の熱さは火照っていた欲望を呼び起こし、いつの間にかリリアの両手はシーツの海に落ちてマレウスの手をぎゅっと握りしめていた。
「んっ、はぁ、あ……っ」
「可愛い、リリア」
「っ! この、ばか……っ!」
未来のマレウスと同じ言葉をわざと言っているのかと睨むが、彼が子どものような満面の笑みを浮かべているのを見てリリアは小さな憎まれ口を叩くことしか出来なかった。
好きだ、と心底嬉しそうに告白しながら額や頬、髪の先端に至るまで口づけを落とすマレウスに、リリアは話題を変えるべく声を荒げる。
「お、お主は! お主は未来で一体なにをされたんじゃ! わしだけ知らないのは不公平じゃろ!? 未来のマレウスが言うには、その、なんだ、とにかくあやつの言う通りなんだかんだがあったのではないのか!??!」
「それは、未来のリリアが僕に自慰を見せてきて、」
「未来のわし本当になにをしておるんじゃ?!?!?!?」
「────さあ、どうしてだろうな」
マレウスの言葉から零れた言葉にリリアはふと思う。彼がここで起きた出来事を知っているのならば、未来に辿り着いたマレウスは逆に未来の二人の出来事を知ってしまったのではないのか。未来を知ってしまうという重荷を、自業自得とはいえ彼は背負ってしまったのではないのだろうか。
マレウス、と呼びかけようと口を開き、寂しそうに笑う彼を見て言葉を飲み込む。それからリリアの胸に嫉妬とほんの少しの怒りの感情が湧いてきた。
ここまで散々振り回されているのにリリアだけがのけ者で、しかも恋人のマレウスは知らない相手──未来の自分だが──の痴態を見て来たのだ。未来と現代のマレウスたちはなにもかもわかったような表情をしていたがそんなものこちらからして見れば馬鹿らしいとしか言いようのない。未来なんて誰にもわからない、わかるものではない。たとえマレウスが未来を知ってしまったとしても、その知識を得た彼が一つでも違う行動をすれば未来だって変わってしまうかもしれないのだ。
そんな不確かなものでマレウスの顔を曇らせるなんて、烏滸がましいにもほどがある。
未来の自分が自慰行為を見せつけた意図はわからないが、この出来事を起こした遠因が照れ隠しで本音を言わない己にあるのならば腹を括るべきなのだろう。
「マレウス」
額をくっつけ、マレウスを正視したままリリアは切り出す。
「お主が未来でなにを知ったのか、わしは興味もないし知りたいとは思わん。不確定な未来のことでお主が気に病むのは正直気に食わんし、未来のわしには嫉妬さえ覚える」
だから、とリリアは告げる。
「未来のことよりも、今、ここにいる“俺”のことだけを考えて欲しい。────愛してる、マレウス。お主は、わしのことをどう思っておる?」
はっとしたかのように息を飲み、それからくしゃっと涙を堪えているような表情でマレウスは笑う。微かに震える体でリリアを力強く抱きしめ、彼は一言「僕も愛している」と思いを吐き出す。
「ふ、ぁ、ん……」
どちらからともなく唇を重ね、暫く穏やかなキスを楽しんでいるとマレウスの指がこちらの上着を脱がそうと動く。その手を掴んで制止させたリリアは、不思議がるマレウスに笑いかけながらそのまま握った手を自身の下半身に誘導させる。反応を示している性器を二人で一緒になぞりつつ熱の籠もった吐息と共に囁いた。
「今すぐ欲しい……お主も準備万端じゃろ?」
「っ、あまり煽らないでくれ、リリア。優しくしたいんだ」
「ふ、ふふっ!」
リリアが肩を震わせながら笑えばマレウスは心外だとばかりにむっと顔を歪める。
「優しくなんてしなくて良い。──めちゃくちゃに、して」
リリアの発言を聞いたマレウスは一度だけ深く息を吐き、次の瞬間には下着ごとスラックスを剥ぎ取られてしまう。こちらも脱がしやすいようにと腰を浮かしていたが足首に下着が引っかかったままで、それに気づかない、もしくは無視をしたまま彼はリリアの性器に触れた。
未来のマレウスとの行為で濡れていた性器を何回か扱かれると亀頭からさらにカウパー液が滲み出てしまい、それを潤滑油として上下する手のひらの動きが激しくなっていく。
「あ、ああぁぁっ……、あっあっあっあっ! い、いいい、気持ち、いい……っ!」
性器から溢れるカウパー液が竿を伝い、後孔まで滴り落ちる。その感覚にリリアの後孔はひくひくと震え、奥が切なく疼いてしまう。
ちらりとマレウスの下半身に視線を向ければ服の上からでも反応しているのが一目で理解出来る。ならば、とリリアは性器を扱いている彼の指を掴んで自身の指と一緒に後孔へ差し込んだ。
抵抗もなくすんなりと指を飲み込んだ後孔だが、いきなり三本はきつかったのか襲ってくる圧迫感にリリアは少しだけ呻き、行動に驚愕したマレウスはすっかり動きを止めてしまった。舌で唇の端に垂れている涎を舐め取りながら妖艶に微笑み、お腹に力を入れて指を締めつける。
「ふ、ふふっ、は、んぁああぁっっ! あ、ああぁっ、ひあっ、ああああっ!!」
「後悔するなよ、リリア……っ!」
リリアの余裕を崩すかのようにマレウスは指を動かし始め、付け根まで挿入を深くした後に内壁を擦り始める。そのまま指の腹で内壁をなぞりながら浅瀬まで移動し、かと思えばまたしても奥まで挿入を繰り返す。その途中、前立腺を刺激するために指を軽く折り曲げて小刻みに振動を与えられてリリアは嬌声を上げながら快感に頭を振った。
「ん、んぅぅ……っ! ふあっ、んっ、んくっ、あぅ、あっあっあっ、んああっ!!」
快楽によって足の爪先がぎゅっと丸まり、シーツを蹴り上げる。涙や涎、汗などの体液がシーツをじっとりと湿らせ、淫猥な匂いを生み出す。
蕩けた内壁から指を引き抜いたマレウスはリリアの腰を掴んでくるりとうつ伏せの体勢に変える。ふーっ、ふーっと獣のような呼吸が止まらず酸素がちゃんと脳に行き渡っていないような状態になっているため、全て彼にされるがままだった。かちゃかちゃとベルトを触ったような金属音が聞こえたとリリアは朧気な意識のなか思う。
直後、後孔に当てられる熱の塊に我に返ったリリアが制止する声を上げるよりも早くその熱が肉壁を割って入ってくる。
「~~~~~~~~っっっ!!!」
零れそうになった絶叫をシーツに顔を埋めることで押し殺したが視界にはちかちかと白い光が走った。体の痙攣が止まらず、そのためマレウスの性器に刺激を与えることになり彼が小さく呻いた。
リリアがなにかおかしいと思っても脳まで痺れたような快感が邪魔をして正常に思考が纏まらず、意味のない母音が口から漏れる。まるで絶頂を迎えたかのような感覚だが自身の性器から精液が溢れた気配はない。
「リリア……っ」
「あ、あっ、だ、だめだめ……ひっ! あぁああっ……!!!」
腰を動かして性器をさらに奥へと押し込もうとするマレウスにリリアはぼろぼろと泣きながら首を横に振る。けれど彼は止まらず、未だに痙攣している内壁を擦りながら最奥を目指していく。カリ首の出っ張りに与えられる快感や性器の熱さにリリアは開いた口が閉じられずにいて、思わず前進して逃げようとした体をマレウスは覆い被さることで阻止する。そのせいで挿入の角度が変わりまたしても悲鳴のような嬌声を上げてしまう。
「う、っ、あ、あああっ、ああっ、んんんっ、ひっ、ぐぅう……っ!!」
「好きだ、リリア……っ!」
「ふあっ、あ! ああぁっ、ああっ、んんっっ!! あああぁぁああ……っっ!!!」
リリアは自身も気づかないうちに性器からとろっと漏れ出るかのように精液を零しており、射精感がずっと続いているような感覚に陥っていた。
耳元で告げられた言葉も愛撫となって脳を溶かしていき、リリアは最早なにも考えられずただただ快楽を受け止めるしか出来ない。
「や、あっ、あああっ! あっあっんんっ……! ひ、ぐ、うぅうっ、もっ、い、いい、いってる、からぁ!」
「フフッ、めちゃくちゃにして欲しいとリリアが言ったんだろう? 大丈夫だ、どんなリリアでも僕は愛しているさ。ぐしゃぐしゃに泣いてる顔も可愛らしいな」
リリアの顎に手を添え、後ろを振り向かせたマレウスは唇を重ねる。ぽってりとした下唇を食まれ、嬌声を飲み込むように舌が絡み合う。二人の唾液が混ざり、飲み干せなかった分は口の端から零れてシーツに濃い染みをつくっていく。
性器の先端で最奥をぐりぐりと押し込まれるように刺激されて脳が蕩けそうなのにキスは優しく穏やかで頭の芯が痺れてしまう。
肉と肉がぶつかる音と淫靡に響く水音。精液や汗といった体液の匂いなど五感の全てでマレウスを感じている。それがどうしようもないほどに嬉しくて、そして愛おしかった。
「んっ、んむっ、ぢゅっ、むぅ……っ! あっ、ああっ、うあっ、あああぁっ! んあっ、あああぁ……っ! す、き……っ、すき、マレウス……っ、ひ、ぃ、い、いいっ、んんっ!!」
互いに相手を求めて腰を前後に揺らし、一番気持ち良いところに当たるように動いている。性器がぎりぎりまで引き抜かれると行かないでと叫ぶリリアの心情を表すようにぎゅっと相手を締めつけ、奥へ誘惑するように内壁が収縮して性器を飲み込んでいく。
マレウスが呻きつつも少しだけ腰を回すように動かすとカリ首の出っ張りがいつもと違う場所に当たり、リリアの肩が跳ねる。
「あ、ぅううぅ……っっ!! んんんっ、あっ、ひっ、ああああぁ……っっ!!」
「っ、リリア……っ!」
「んっ、んむぅ、ふっ、はぁ……っ!」
マレウスの切羽詰まった声でリリアを呼び、それにキスで応える。その最中、彼は腰を突き出して最奥に性器を押しつけたまま精液を放つ。
「んあっ、あ、あああああぁぁぁ────っっ!!!」
精液の熱さにリリアもまた勢いよく果て、全身を震わせながら絶頂の波に襲われる。
「はっ……あ、ああっ……、は、ぁ、ひっ……ぅ、あっ…………」
生まれたての子鹿のごとく小刻みに震える体をマレウスは宥めるように抱きしめ、汗で頬にぴったりとはりついた髪を払ってくれる。そのまま未来の彼が舐めた耳をマレウスは甘噛みし、その刺激にぴくりと肩を跳ねさせたリリアに呟く。
「やはり、未来の僕だとしても少し妬けてしまうな……」
「はぁ、ふ、ぅ……そんなの、わしだってそうじゃ」
マレウスは未来の自分がしたことの記憶があるが、リリアにはないのだ。未来の自分の痴態をどんな風に見ていたのか考えるだけでも胸に澱みが溜まってしまう。
「……なら、どんなことをされたのか今ここで教えるか?」
「……ん? お主、今ここでって言ったか? ひあっ、あああっ!?!」
性器を抜かないままマレウスは再びリリアの腰を掴み、今度は仰向けへ体勢を戻す。その際に内壁を擦られて嬌声を上げたこちらに彼はとてつもなく“良い笑顔”を見せた。
「っ、このっ、余裕が出来たらすぐ調子に乗りおって……っ!」
「こんな僕は嫌いか?」
“良い笑顔”から一変、叱られた子どものような表情を浮かべるマレウスにあざとい手を使いやがって、とリリアは心のなかで舌打ちをする。
良いように動かされていると理解していても、それでもリリアは拒絶の言葉を口にすることは出来なかった。
「そんなの、愛しているに決まっておろう!」
ふいに思いついたネタ第二弾。タイトルは浅葉リオさんの楽曲『告白の詠唱』から。名曲
久しぶりの新作が今まで書いた作品で二番目に長くなって笑ってしまった。ただそのおかげか感想を頂けてとても嬉しかった作品です
いつかおまけ2作を書きたい作品でもあります。未来のマレリリと未来のリリアと未来に行ってしまったマレウスのお話ですね