ディアソムニア寮の談話室。そこの一人掛けソファーにリリアは座らされていた。目隠しをさせられているため視界は闇に覆われ、逃がさないとばかりに手足を茨で拘束されている。とっくの前に奪われたマジカルペンはどこかに放り投げられ、服は下着も含め全て脱がされていた。
冷たい空気が肌をなぞるたびに自身が裸であると自覚させられる。それだけで充分恥辱を与えられているのに、現在リリアはマレウスがつくりだした茨に犯されていた。
大小様々な形状の茨が体を弄ぶ。先端を尖らせた細い触手たちは屹立した乳首をぐりぐりと押しつぶし、ときどき左右に弾いてくる。
「あ、あぁ……っ!」
痛みと快感に喘ぐ。声を聞いた触手は乳首を慰めるように優しくなぞり始め、しかし強い刺激を受けていた体はその程度では物足りなさを感じるようになっていた。拘束されながらもねだるように体を反らしてしまう。自らを触手に差し出してしまう浅ましさにぞくぞくとした感覚が全身を駆け巡った。
一方の太い茨は先端を柔らかく丸い形状でリリアの後孔を犯していた。ぶちまけられた潤滑油と自身が放った精液がかき混ぜられ泡立ち、じゅぼじゅぼといやらしい水音を響かせる。いつも自分のなかに入っているマレウスの性器とは違う大きさ、硬さのものに快感を得ている。その罪悪感と背徳感に否が応でも興奮してしまうが、それだけではなく茨に犯されている自分を彼はずっと見続けていた。頭のてっぺんからつま先まで、まるで捕食者のような強い視線に犯されている。
「ひぅ……っ! あ、ああ、っ、やぁっ……マレ、ウス……っ!」
この状況をつくりだしたマレウスへ必死に呼びかける。すぐ近くにいるであろう彼の気配を探ってみても、次々と襲ってくる快楽の波にリリアの脳は上手く働かない。
「ひ、ぅ、う、あっ、ああ……っ! マレ、マレウスっ、も、やぁっ……!」
マレウスに触れようと細い指を動かす。だが指は空を切るだけで彼が近づいてくる気配さえもなかった。止まらない強すぎる快楽にぼろぼろと涙を流しながら、リリアはこうなった原因の過去の自分を悔いる。自分の軽率な行いのせいだとしてもこれほどの辱めを受けるものではなかったはずなのに。
ましてやここは憩いの場である談話室。このような行為をする場所ではない。
そうと理解していても抑えきれない欲望の高まりにリリアは嬌声を上げながらまたしても精を放つ。何度目かになる精液は粘りが薄く、さらさらとしたものになりかけていた。
肩で呼吸しながらリリアは自分が汚したソファーや床を想像する。べったりと精液で汚してしまったに違いない。すん、と鼻につく青臭い匂いも染みついてしまったかもしれない。今後、談話室を訪れるたびに犯されたことを思い出してしまいそうだ。
それだけならまだしも、シルバーやセベク、名も知らぬ寮生たちはなにも知らずにこのソファーに座るのだ。リリアが犯されていたことなど想像もせずに。
「ぁ……っ」
そんな未来を想像してしまい羞恥で頬に熱が集まる。リリアの性器は達したばかりだというのに再び頭を擡げ始めてしまう。動きを止めていた触手たちはその熱を察知して律動を再開した。
「あああぁぁ……っ! やめ、マレウス、あ、あ、あああ、ゃ、っく、うあ、っ!」
呂律も回らない状態で「もうやめて欲しい」と懇願する。さんざん擦られた内壁はひりひりとした痛みを訴えてきていた。
「……リリア」
「ふぁぁっ! あっ、みみっ、んっ、あぅ、みみもとでっ、あぁぁぁっ!」
ようやく声を発したマレウスはリリアの耳に言葉をねじ込むように囁いた。目隠しをされ聴覚が敏感になっているところの刺激に喉を反らす。急激に襲ってきた射精感をなんとか堪えるも、頭のなかは真っ白に染まっていた。
肩で息をしながら近くにいると思われるマレウスに手を伸ばす。空振りするリリアの手を彼は掴んでくれた。久しぶりに感じた体温に安堵しつつ、そっと体を寄せる。
「ふ、ぁ……すまぬ、マレウス……もうわかったから、だから……」
「リリアはなにもわかっていないだろう?」
マレウスは不機嫌に言い放ちリリアの耳の先端を囓ってくる。鋭い痛みと彼に蹂躙される悦びに無意識のうちに恍惚とした声が洩れてしまう。
ほら、とマレウスは嘲笑うかのように囁く。それから性器に触れて精液を掬い取った。
「だいぶ薄くなってきたな……。それでもまだ足りないのだろう? 僕に黙って吸血するくらいだ」
「ひ、くぅ……そ、それは、腹が減って仕方なく……それに、眷属には、ふぁっ!」
屹立した乳首を抓られる。どうやら言い訳をさせてくれる気はないらしく、逆にお仕置きとばかりに性器の根元に細い茨が絡みついてきた。射精を塞き止められている状態にもかかわらず触手たちとマレウスの愛撫は激しさを増していき、リリアはもうどうにかなってしまいそうだった。
「ひぃ! ひっ、あ、ああ……っ、ぅ、あっ……!」
嬌声は絶えず、閉じることも出来ない口から唾液が零れていく。頭を振って快楽から逃げようとしてもマレウスが許すはずもなく、口内に触手が侵入してきた。
「んぐっ! ぐ、ぐぅう……!」
今までリリアのお遊びを許してきたマレウスも今回ばかりは堪忍袋の緒が切れたのだろうか。他人の血を吸っただけでここまで怒りを露わにするのは想定外だった。
ちょっと小腹が空いたためにうろついて寮生の血を吸った。それが現状、リリアが辱めを受けている原因だった。血を吸われた寮生は死んではおらず、もちろん眷属にだってしていない。それでもマレウスは嫌だと言う。
「……僕の血を吸えば良いと、いつも言っているだろう」
「あ、ぐっ、むぅ……! ああ、あ……っ! ぅ、ひ、あっ、あ……んんっ!」
ぐにぐにと乳首を押し潰され、指の腹で転がされる。優しく撫でたかと思えば痛みを感じるほどに引っ張られ痛みと快楽に翻弄される。マレウスは乳首を弄りつつもう片方の手でリリアの顎を捉え、耳の奥に舌をねじ込んで聴覚さえも犯してきた。
びくりと体が跳ねた拍子に口のなかにいた触手が喉奥を刺激し、思わず咳き込んだ。
「おえっ、ぅ、はぁ……お主の、はっ、ぁ、血は、魔力が強すぎて、んんっ!」
マレウスの血は魔力が濃い。そのため彼の血を吸ってしまえばリリアでさえ血の魔力に飲まれてしまう。頭は金槌でがんがんと叩かれ続けているように痛み、視界はぐるぐると目まぐるしく回る。彼の血液は小腹が空いたからといって飲むようなものではないのだ。確かに恋人が他人の血を吸っているのは良い気がしないのかも知れないが、こちらの事情も理解して欲しいと思うのは我が儘だろうか。
だが、嫉妬しているマレウスを見ることに優越感を覚え、密かに楽しんでいるのも事実であった。
そんなことを思っているとマレウスは拗ねた様子を見せる。
「相変わらず、リリアは余裕そうだな」
「く、ふふ、っ、そんなことは、ないぞ? ふぁっ! ふ、ぅ、現に、こうして、感じ、て、ひっ、あっ、あっ!」
乳首を愛撫していた手はいつの間にか性器に伸び、亀頭に爪を立てられる。マレウスの長く角張った指が茎を上から下へなぞり、茨が挿入を繰り返している後孔の縁をぐるりと撫でた。それから半ば無理矢理になかへ指を差し込まれる。
「っく、うあ……っ!? マレ、マレウス……っ、ひ、ぅ……!」
「まだまだ余裕そうだな。僕のものも入りそうだ」
「はっ?! あああっ! ひっ、ひぃ、無理、はいらな……っ、ぐ、ぅ……っ」
弱々しく首を横に動かすリリアにマレウスは穏やかに、だが残酷に言い放つ。
「吸血行為がセックスに近いと知っていながら他の者の血を吸ったんだろう? そんなふしだらなリリアなら、茨だけでは物足りないはずだ」
指が引き抜かれ、かちゃかちゃとベルトを外す音が聞こえてくる。まさか、と息を呑んだリリアが青ざめるのを知ってか知らずか相手は欲望を後孔に押しつけてくる。茨とは違う、火傷したかと錯覚するほどの熱を持ったマレウスの性器。その熱に一瞬だけ気を緩めた刹那、それは肉を裂きながら侵入してきた。
「──────ぁあああぁぁっっ!!」
談話室に声にならない悲鳴が響く。体のなかから裂かれる痛みで四肢を硬直させたリリアは口をぱくぱくと開閉させる。痛みに支配された脳は呼吸を忘れ、心臓が止まってしまったのではと思わせるほどであった。はち切れんばかりに勃起していた性器はその衝撃で少量の精液を飛び散らせる。
痛みと小さな快感にリリアががちがちと歯を震わせていれば、マレウスがそっと頬を撫でてきた。
「リリア……」
「ふ、ひ、ぅ……ぬい、マレウス、ぐ、はぁっ、頼む……ぁ、んっ……!」
「なら、約束して欲しい。今後、僕以外の血を吸わないと。リリアは僕だけのものだと誓って欲しい」
誓うと答える間もなく律動を開始される。いつもなら擦られない場所まで余すことなく茨と性器の両方で擦られ、快楽と痛み、二つの感覚にリリアは自ら正常な思考を手放した。
「あ、あ、あ、あっ! ひ! ぐ、うぅぅ……!」
内臓を無理矢理押し上げられているような痛み。ともすれば胃の中身を吐瀉してしまいそうだ。それなのに体は快感を得ていて、触手と性器を奥へ誘うように内壁が収縮する。
痛いのに気持ちいい。そんな未知なる快楽にリリアは我を忘れて乱れた。
「ふぁ……っ、んっ、あ、ああ……! すご、い、いい! んっ、うあ、っ、いいい、いい……っ!」
体を激しく前後に揺さぶられ目隠しが解ける。そこでようやく見ることが出来たマレウスの瞳には欲望の火が灯っていた。彼は捕食する者で、リリアは被食される側なのだと思い知る。いつもならどこか冷静にこちらを見つめる瞳が今回のように欲望を隠さないのは初めてかもしれない。はぁ、と熱の籠もった吐息を零す。
──食べられてしまいたい。
そんな考えがリリアの頭を占める。もちろん文字どおりの意味ではなく比喩的な意味でだ。圧倒的強者であるマレウスに支配されたい。めちゃくちゃにされたい、と被虐趣味に目覚めかけ始めたリリアは、自分でも驚くほどに甘えた声で彼の名前を呼んだ。
声色が変化したことに気づいたマレウスは少し呆けた顔をして、それからにやりと口角を上げる。
拘束していた茨が解除され、役目を終えた触手たちは光の粒子となって消え去った。しかしリリアの体内に入っている触手と性器の根元を押さえている茨は依然としてそこに残っていた。
身動きが出来る状態となったリリアが真っ先に行ったのは触手を取り除くことではなく、マレウスに両手を伸ばし彼を抱きしめることだった。相手の腰に己の両足を回して体勢を固定させる。
「あぁん、ふぁっ……! んんっ、いい……っ!」
深まった挿入に悦びの声を上げながら、ちゅ、ちゅっ、とマレウスの至るところに唇で赤い花を咲かせる。彼から口を開けろと言われれば素直に従い、キスを受け入れた。口内を蹂躙する舌に自ら舌を絡ませ、流し込まれる唾液に魔力が込められていることに気づいても本能が求めるままに飲み込んでいく。
途端、ふわふわとした陶酔感がリリアを包む。熱に浮かされたかのように潤む瞳でマレウスを見つめ、呂律が回らない口でさらなる快楽をねだった。
マレウスも自らの熱を解放するために律動を激しくさせる。リリアの弱いところを熟知している彼はそこを重点的に穿ってくるため、堪えきれない精液が零れる。
「ひあっ、ふ、ああっ、そ、それ、え、こわ、壊れ、ちゃ……! あ、あああ……っ!」
「リリア、約束」
「するっ、ふ、あっ、あっ、んっ、約束する……っ! だから、マレウス……っ!」
約束するという言葉を聞いたマレウスは指を鳴らす。残っていた触手も消え失せ、塞き止められていた精液が勢いよく飛び出した。
「あ、しゃ、ぇ! ああ、ひ、あ! また、いっひゃ、いっひゃ……っ、あは、あ!」
「リリア……っ!」
「こ、これ、すき、しゅきぃ……っ! マレウス、あああっ、深ぃぃいい……っ! んっ、じゅ、む、ぅ……!!」
リリアは射精が止まらず狂ったように嬌声を上げ続ける。乱暴に重ねられる唇に応えながら、マレウスの熱を受け入れるために性器をきつく締め上げた。彼は前立腺を抉るように突き、肉がぶつかる音はよりいっそう荒々しく談話室に反響していった。
「っく、リリア……っ!」
「ひ、あ、ああああ!? あああぁああ────!」
マレウスが精液を体内に放った瞬間、絶叫のような嬌声を上げたリリアは突如視界が真っ暗に染まり、そのまま意識を失う。
それが失神したためと知ったのは、それから数時間後のことだった。
***
マレウスがベッドのなかで丸まりながらぐずぐずと泣いている。かすかに聞こえる呟きでは、「僕はリリアになんてことを」「最低だ」などと後悔している様子が見て取れる。
泣きたいのは尻が痛いリリアの方なのだが追い打ちをかけることは出来ない。これ以上ぐずられても困る。それに意識を失っていたときに治療してくれていたらしく、茨の拘束で傷ついた場所は全て治っている。それだけで充分にマレウスが反省していることは読み取れた。流石に尻のなかまでは治療出来なかったようだが。
「ほれほれ、いい加減泣き止まぬか。わしは怒ってないぞ?」
ブランケットを無理矢理に剥ぎ取り、泣いているマレウスの背中を撫でる。
リリア、と不安そうに名前を呼ぶマレウスに苦笑いを浮かべるしかない。おいでと両手を広げ、飛び込んでくる彼を受け止めてあやすようにぽんぽんと背中を叩く。幼少期に戻ったみたいにごめんなさいと謝るマレウスが愛おしく、ぎゅううと力いっぱい抱きしめた。
「わしも悪かった。他の者の血を吸ってしまったからのう。もう二度とお主以外の血は吸わぬ。許してくれるか?」
こくんと頷くマレウスの涙を拭いながらリリアは彼の額に唇を落とした。ぐずっていた彼もようやく泣き止み、おそるおそる抱きしめ返してくる。
可愛い、とリリアは微笑む。本当にいい子に育ってくれたと感慨深くなる。そんな子を悲しませ、嫉妬させてしまった自分を恥じた。
けれど、リリアの心のなかではまた別な感情が生まれていた。
あんな風にマレウスに乱暴に扱われたのは初めてだった。無理だと言っても強制的に何度も絶頂を迎えさせられ、こちらの意思を無視して彼の好きなように蹂躙される。それが痛く、苦しさもあったが同時に快感を得ていたのも事実だ。
今までリリアが味わったことのない経験。
先ほどの行為を思い出し、リリアはマレウスに気づかれないよう唾を飲み込んだ。
もしもまた他人の血を吸ったらマレウスはお仕置きしてくれるのだろうか。今回よりもさらにひどく、激しく揺さぶってくれるのだろうか。
被虐的な嗜好はなかったはずだが、マレウスによって新たな扉を開いてしまったらしい。リリアはそんな自分に驚きながらも、お仕置きを期待している自分が嫌いではないと思う。全部マレウスが悪いのだと責任転嫁しながら、小さくほくそ笑んだ。
さあ、次はどんなお仕置きが待っているのだろうか。
2020年か2021年に書いた作品。このときは触手!触手!とテンション上がっていたが今見ると…
それ以外にも苦い思い出などがあり、色々と複雑な作品でした。嫌いではないです。タイトルは浅葉リオさんの楽曲「愛奴の小径」から