One and One

見せつけてよハニィ

 長く、角張った男らしい手。それでいて傷一つなく、肌は思わず頬ずりしたくなるほどにすべすべしている。そんな誰もが気軽に触れることの出来ないマレウスの指先を、リリアは鼻歌交じりにマニキュアを塗っていた。
 普段は黒く塗られているマレウスの爪を赤色に染めていくのに少しだけ背徳感を覚えてしまうのはなぜだろう。彼を汚しているような、自分の好きなように塗り替えているからだろうか。この感覚を味わえるのがリリアだけというのも理由の一つかもしれない。
 優越感と独占欲に心が満たされていき、ついつい口角が上がっていく。上機嫌だなとマレウスが口にするほどに浮かれているのを自覚しつつ、リリアは心から同意の言葉を放つ。
「くふふ、お主を着飾るのはネトゲよりもずっと楽しいぞ」
「僕はそろそろ終わって欲しいんだが……」
 どことなく疲れているように見えるマレウスはソファーのアームレストに頬杖をつき、隣に座っているこちらへもの言いたげな視線を向けている。
 確かに衣装の着付けから化粧、しまいにはペディキュアからマニキュアまで数時間をかけて着せ替え人形にされたら文句の一つも言いたくなるだろう。しかも本番は明日で、今夜は別に着替える必要はない。この衣装を着せたのはリリアの完全な我が儘であるが、その我が儘が他の者に見られる前に独り占めしたいという感情から来ていることを、マレウスはおそらく気づいていないだろう。
 長時間かけたかいもあってマレウスの装いはうっとりするほどの出来上がりだ。特に目尻の赤いアイラインが艶やかな色気を放っている。普段なら見ることのない腕はだぼっとした袖のおかけで見え隠れしており、彼を楽しませるつもりで──少しの悪戯心も含んでいたが──つんつんと触れてみた。
「こら、リリア」
「お主が退屈そうにしておるから相手してやったのに酷いのう~」
 リリアの頬をマレウスはマニキュアが塗り終わっている方の指で軽く抓る。その擽ったい痛みに服の袖で涙を拭う仕草をすれば相手は小さく笑った。
「もう少しで終わるから良い子にしておくれ。これが乾いたら今度はトップコートを塗って終了じゃ」
「まだ塗るのか……」
 長い時間拘束され、つまらなさそうにため息を吐くマレウスに僅かな申し訳なさを覚える。しかし、王を美しく着飾るのは臣下の役目であり、リリアだけの特権なのだ。それに彼の魅力の引き出し方を一番知っているのは自分である、という自慢もしたかった。
 おそらくポムフィオーレ寮のヴィルなどに頼めばきっと時間をかけずに、なおかつ綺麗に仕上げてくれるのだろう。けれどそれではマレウスに彼らが触れるということになる。それは彼の恋人であるリリアには少々認めがたいことであった。
 いい年で嫉妬か、などと気恥ずかしさを覚えるが好きなのだから仕方がないだろう。もっとも、そんなことをマレウスに気取らせるつもりはないため、リリアの口からはついつい揶揄する言葉が出てしまった。
「まったく、手間のかかる子じゃのう……。シルバーとセベクは大人しくしておったぞ?」
 その言葉にマレウスの尻尾がぴくりと反応を示す。つまらなさそうな表情から一転して目を見開いた彼は信じられないという風に呟いた。
「セベクとシルバーの衣装もリリアが着付けたのか?」
「当然じゃろう? 他に誰がおる?」
 といってもマレウスのように長い時間をかけたわけではない。見慣れない衣装に四苦八苦している二人を手助けし、化粧を施しただけだ。コツを教えたため、明日は手伝う必要はないだろう。今のように手取り足取りリリアが世話をしているのは目の前にいる恋人だけだが、彼はそうとは思わなかったようで一気に機嫌を損ねる。
 そんな可愛らしい態度にリリアはくすくすと笑う。なにを考えているのかわからないなどと噂されているみたいだが、こちらに言わせてみればマレウスほどわかりやすい人物はいない。子どものときからの可愛らしさは未だに健在で、ここまで素直に育ってくれたのは喜ばしいことであると同時に少々不安である。
「ふふ、嫉妬するでない。二人には少し化粧をしてやっただけじゃ、お主ほど時間をかけてはおらぬよ」
「…………」
 ぷい、と顔を背けるマレウスにリリアは微笑みを止めることが出来ない。今すぐ抱きしめてあげたい気持ちを抑えながら最後の指を塗り終えた。終わったぞ、と言ってもそっぽを向いたままの彼に苦笑いを浮かべながら頭を撫でる。
 それでも頑固なマレウスはこちらを見ようとはしないが、尻尾は素直なのものでリリアに巻き付いてきた。嬉しい、大好きとダイレクトに感情を伝えてくる尻尾を手に取り、触れるだけの口づけを落とす。
 そうすれば悔しそうな、でも嬉しいという複雑な表情を見せながらマレウスはリリアにすり寄って来た。持っていたマニキュアをテーブルに置きながら彼の頬を指でなぞる。
「乾くまではじっとしておれ。塗り直しはしたくないじゃろ」
「魔法で乾かせば良いだろう?」
「それでは趣がないではないか。こうして乾くまでの僅かな時間で恋人の語らいをするのもまた乙なものでな。ほれほれ、わしのこの姿を見てなにか言うことがあるじゃろう?」
 マレウスを着替えさせる前にリリアもハロウィン衣装を身に纏っていた。先に着替えることによって彼の着替えたくない、という意見を封殺するためである。
 そんなことは露も感じさせずにリリアは服の裾を掴んで可愛さをアピールするが、マレウスは不思議そうに首を傾げた。
「言うこと?」
「はあ……お主はまっっったく恋心というものがわかっておらぬな……。こういうときは可愛いと褒めるべきだろうに」
 マレウスの口元に指を当てつつ幼子を叱るような声色で放った言葉に、彼は至極真面目に、一点の曇りもない眼差しで告げた。
「リリアが可愛いのは当然だろう? 僕はいつもそう思っている。わざわざ言葉にする必要があるのか?」
 は? と思わず素の態度が出てしまった自分を責めることは誰にも出来ないだろう、とリリアは思う。言葉を忘れ、だらしなく開いたままの口からは声にならない音が零れていく。マレウスの言葉を脳が咀嚼し、認識した瞬間から頬が焼けるほどに熱くなった。
 マレウスのくせに生意気な、と思うと同時に嬉しくて仕方がない。その証拠にリリアの尻尾は本能に従って彼の尻尾に絡みつき、ぱたぱたと動いている。
 その感情の揺れ動きにマレウスも気づいたのだろう、にやりと笑った彼は未だ口元に当てられていた指を食んだ。途端に肩を跳ねさせたリリアに気を良くしてそのまま指に舌を這わせる。
「ふふ……可愛いぞ、リリア」
「ああもう、すっかり調子に乗りおって……! っ、ふ、ぅ、んっ……!」
 先端から根元、水かきの部分まで余すことなくマレウスの舌が伝う。丁寧に、輪郭を確かめるようにゆっくりと愛撫するかのごとく舐められてリリアの呼吸が乱れる。
 行為に反応してしまう自身が恨めしい。半ば八つ当たり気味にリリアはマレウスをにらみつけるが彼は視線を無視し、それどころかじゅっと音を立てて指を吸う。
 もう片方の手にマレウスの指が絡み、ソファーに押しつけられる。塗ったばかりのマニキュアが気になり、そちらに視線を向けるとすでに乾いているのが見て取れた。おそらく彼が魔法を行使して乾かしたのだろう。魔力の気配に気づかないほど呆けていた己に腹が立つ。
「ぁ、くっ、ぅ……!」
 その間もマレウスはリリアの指を愛撫し、ぴちゃぴちゃと淫靡な水音が響き始めた。彼の口のなかで指が前後に動くたびに、性器を口で愛撫しているときを連想させて興奮を高めていく。ねだるかのように腰が揺れてしまうのを止められない。
「ふ、ぁ……っ! こんな、っ、いやらしい子に育てた、んっ、覚えはないぞ……!」
「そうか? 僕がいやらしいのは、リリアがそういう風に育てたからだろう? 現に、折角の衣装を汚してしまいそうになっている」
 マレウスは尻尾を器用に動かして反応を示し始めたリリアの性器をぐりぐりと押し潰す。厚い布のおかげで与えられた快感は最低限なものだったが、逆に焦らされているように思えてもどかしい。
「ふふ……誰がいやらしいだと? どの口で言うんだ、リリア」
 唾液で濡れ光る指を見せびらかしながら笑みを深くするマレウスにリリアの負けず嫌いが刺激される。
「っ、このっ、くち、じゃっ!」
 マレウスの胸ぐらを掴み、食らいつく勢いで唇を重ねた。反撃されると思っていなかった彼の口に舌を無理矢理ねじ込み、互いのそれを絡ませる。
 我に返ったマレウスは縦横無尽に動くリリアの舌を捕まえるために動き、二人の吐息には熱が籠もっていく。背中を撫でる彼の尻尾にぞくぞくとした感覚が走り、ぎゅっと服を握りしめた。綺麗に仕上げた彼の衣装を乱すのは勿体なく思うが、それでももう身体の昂ぶりは止められそうにない。帽子に手をかけ床に落とし、そこからこぼれ落ちる髪を一房掴んで頬ずりした。
「……したい、マレウス」
「……本当に衣装が汚れるぞ?」
「そんなもの、後で魔法を使えば良い。マレウスは我慢できるのか?」
 密着した身体のためマレウスの性器が屹立しているのを知りながら、リリアは口にした。それでも躊躇う彼に純粋な疑問が湧いてくる。
「気分ではないのか?」
「そういうわけじゃない。……この衣装、どうやって脱がせるんだ?」
 困ったように情けないことを呟いたマレウスにリリアは声を上げて笑う。馬鹿にされたと理解した彼がまたしても頬を抓ってくるが込み上げてくる笑いは止められそうにない。
「くっ、ふふっ……お主は本当に……くくっ……」
 リリアはぱちん、と指を鳴らすと次の瞬間には二人とも生まれたばかりの姿になる。マレウスの上にまたがり、隔てるものがなくなったのを良いことに互いの性器を擦り合わせた。彼の太く長い性器で自慰をするかのごとく腰を上下に動かして刺激を与えていく。
 ごくりと唾を飲み込んだマレウスにリリアは顔を寄せ、耳元で囁いた。
「抱いてくれ、マレウス。お主にめちゃくちゃにされたい」
 マレウスの手がリリアの腰に回り、引き寄せられる。荒々しく交わされる口づけに瞼を閉じながら、彼の首に腕を伸ばした。
「ちゅ、むぅ……んんっ、んっんっ……! ぢゅ、ん、ん、ん……!」
 マレウスの指がリリアの胸板を弄る。その刺激に薄く目を開けると、彼の赤く色づいた爪が視界に入る。
 誰でもない、リリアが塗った赤色。まるで大輪の花のように色づき、ともすれば毒々しささえも感じる赤色は自分の独占欲の表れだ。それに気づいてないとしても、その欲を受け入れているマレウスがどうしようもないほどに愛おしい。
「あっ、んんっっ……! あっ、んっ、はっ……! すき、マレウス、もっと……っ!」
「っ、今日のリリアは、随分と素直だな……っ!」
「ああぁ……! んっ、はああぁ……っ、んっ、んっ! わしは、いつだって、んんっ! 素直じゃぞ……っ!」
 ぷっくらと立ち上がった乳首を親指と人差し指で抓られ、ぐりぐりとこねられる。背が弓なりに反れ、さらなる刺激を求めて胸を突き出す格好になってしまう。
 マレウスは期待に応えるかのように指の腹で乳首の先端を転がし、爪先でピンと弾く。その度にリリアは身体を震わせ、喉から悦びの声を上げるのだった。
「あ、ひ……! あ、あ、ふっ、んぁっ! んっ、んっ、んんんっっ……!」
「リリア……っ」
「あっあっああっ……! マレウス、もっと、ひっ! ん、はあっ、なめ、んんっ、なめて、ほし……っ!」
 リリアが悦楽に悶えながら懇願すれば、マレウスは望んだものを与えてくれる。長いざらざらとした舌が先端をほじくり、硬くなったそれを舌の上で転がす。乳首を甘噛みした直後、遠慮なく吸い上げられ身体が歓喜に噎び泣いた。
 そのときふいに触れたマレウスの角に、リリアは何気なく舌を這わせる。彼の焦ったような声が聞こえたがそれらを無視してゴツゴツとした角を夢中で舐めた。等間隔にある窪みを一つ一つ丁寧に、皺を伸ばすようにゆっくりと輪郭をなぞる。咥えることは流石に難しいため唇で食み、上から下へと顔を動かした。
「んっんっんっ、んぐっ!? ふっ、あっ……! あっああっ、んんっ!」
 リリアの行為に触発されたのか、マレウスは乳首への愛撫をさらに強くしてくる。じゅるじゅると下品な水音を響かせながら乳首をしゃぶり、もう片方を指で思いっきり弄くり回し腰を揺すって性器を擦り合わせた。それどころか尻尾が生えている付け根を、彼の尻尾がとんとんと叩いてくる。
「う、あ、ひ、うっ、ううう! あ、ひ……! そ、そそ、それ……ふ、あ!」
 魔法で生やした尻尾の付け根は生身と作り物の境界で一番の敏感な場所だ。そこを刺激されたリリアは頭のなかが真っ白に染まるほどの快感に襲われた。マレウスの尻尾の動きに合わせて臀部を揺らし、口からはだらしなく唾液を零れさせる。彼の角を愛撫することも出来ず、急激に襲ってくる射精感に涙を流して頭を振った。
「マレ、マレウスっ、も、いい、はやく……っ、ひ、ひっ……! ほしい、マレウス……っっ!!」
「っ、リリア、止めてくれ……っ!」
 早く欲しいとリリアがマレウスの性器をぎゅっと掴み、後孔へと宛がう。彼は切羽詰まった声で制止をかけるが、その性器は大きく脈打ちナカに入りたいとこちらに訴えてくる。
 一度達した方が良い、解さないと、などと言うマレウスにリリアはいやいやと頭を横に振ってひたすらに「欲しい」と繰り返す。
「マレウス、マレウス……っ! お主が欲しい、いっしょが、いい……っ!」
「──────っっ!!」
「あああああぁあっ、んんんっっ……! あああっ、んくっ、はああぁああ……っ!!」
 根負けしたマレウスは性器をリリアの後孔へ突き立てる。いともたやすく挿入を許した後孔に彼は一瞬眉を顰め、それから顔を真っ赤に染めた。
 リリア、と掠れた声で名前を呼ぶマレウスの瞳は欲望が彩られている。どうやら彼はここに来るまでにリリアが準備していたことに気づいたのだろう。最初から抱かれるつもりだったことを正しく理解してくれたのだと嬉しくなる。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも微笑んでみせれば唇が重なる。
 それからマレウスはリリアの性器の根元を掴み──おそらく一緒がいいと言った言葉を守ってくれるのだろう──腰を突き動かす。それを受けて自らも上下にグラインドし、互いに快感を高めていく。ソファーがぎしぎしと悲鳴を上げることさえ悦楽の要因になってしまう。
 マレウスの長く太い性器がリリアの内壁の全てを擦り上げる。上下に動くたびに内壁が引きずられる感覚に背筋がぞわぞわと震えた。全身が性感帯になったかのような凄まじい快感が駆け巡り、射精を止められているはずの性器から少量の精液が飛び散る。
 リリアの最奥をごつごつと性器の先端で穿つマレウスも快楽を得るのに夢中で流れる汗を拭おうとしない。額から伝う汗が目尻の化粧を滲ませる。その官能的な姿に胸が痛いほどに締めつけられた。
「あ、あああ! すき、すきっ、あ、ひっ、く、ううう……! う、あああ、んっんっんっ……! すき、マレウス、も、で、出て、う、あっ!」
「リリア、っ、僕も好きだ……愛している……っ!」
 マレウスの言葉がとどめとなり、また彼が掴んでいた手を離したことによってリリアは一際甲高い嬌声を上げながら精を放つ。その際の締めつけに彼もナカへ勢いよく精液を叩きつけたのだった。
「はっ! う、あ、ひ、ひっ、あああああぁああ──!! は、あ! あ、は、はあ、はぁ、はぁ────…………」
 全身が硬直し、それから一気に力が抜けたリリアは目の前のマレウスに身体を預ける。肩で呼吸をしている彼はその重さを受け止めながらソファーに背中から倒れ込んだ。
「…………後で、洗濯じゃな」
「そう、だな……。買い換えた方が早い気もするが……」
「それも良いかもしれんなぁ」
 ソファーには二人の体液が染み込み、ぐちょぐちょとあまり聞きたくない音が耳に届く。今すぐこの不快な場所から去ってベッドに潜り込みたいところだが、リリアはもう指の一本さえ動かす気力がなかった。
「……そうだ、後でその爪にトップコートを塗らんといかんな」
 魔法で瓶をテーブルの上に置いたリリアを見て、マレウスは露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
「そんな表情をしても無駄じゃぞ。動けるようになったら塗ってやるから覚悟することじゃな」
「そこまでしなくても良いだろう? ただのハロウィーンじゃないか」
「ただのハロウィーンじゃないぞ? わしとお主が恋人になってから、初めてのハロウィーンじゃ。世界で一番格好いい恋人を見せびらかしたいのは、当然じゃろう?」
 その言葉に呆気に取られたマレウスの表情が段々と真っ赤に変化していくのを、リリアは楽しそうに見つめる。
「ふふ、お主はもっと理解するべきじゃな。お主が思うよりもずっと、わしはお主を愛しておるんじゃよ」
「…………そんなこと、とっくの昔に知っている」
 顔を手で覆っても赤い耳は隠せていないマレウスが呟いた言葉に、リリアは微笑んだのだった。

ハロウィン衣装が実装されたときに実装前に書いた作品。だから衣装のパソストと齟齬があったりする
書いた当初はR-18描写はなかったんですがその後書き直して付け足した記憶があります。タイトルはchicca*様から