「リリア……」
「ふふ、マレウス。安心せい、わしがちゃんとリードしてやる」
そう口にすれば目の前のマレウスは少し悔しさを滲ませながらも、どこかほっとしたように息を吐いた。緊張でがちがちに固まっていた身体が弛緩していくのが見て取れ、リリアはくすくすと小さな笑みを零す。笑われたことに機嫌を損ねたマレウスがそっぽを向いてしまうのもまた可愛らしく、彼の胸元にしなだれながら頬や手など、至る所に唇を落としていく。
「好きじゃぞ、マレウス」
「僕も、リリアが好きだ……」
泣いた鳥がもう笑うようにころりと機嫌を良くしたマレウスもリリアのキスを受けて唇を重ねてくる。触れるだけの口づけから次第に舌が絡み合い、ちゅくちゅくといやらしい水音を響かせるキスへと変化する頃には吐息に熱が混ざり始めていた。
ようやく、ここまで来た。
マレウスの長い舌が口内を蹂躙するなか、リリアは彼と恋人になるための様々な努力、年月を思い出し万感の想いを抱く。本当にここまで長かった。子に情欲を覚える良心の呵責、子に劣情を抱かせてしまった罪悪感。そしてそれらを上回るほどの幸福感にリリアは陶酔したかのように吐息を零す。
だが、ここがゴールではないことをリリアはもちろん、マレウスも知っている。国と、民と、相手を幸せにし続けるという途方もない未来を二人で叶えていくと決めたあの日から二人のゴールはまだまだ遠い。けれども、今から行う行為が一つの到達点であることは間違いなかった。
「リリア、もう……」
「わかっておる、わしに任せい」
視線を下に向けると、マレウスの屹立し始めた性器が制服のボトムスを押し上げているのが外からでもはっきりとわかる。ごくり、と唾を飲み込みつつリリアはゆっくりとファスナーを下ろしていく。
そう、今からするのは身体の接触──つまりはセックスであった。童貞であるマレウスが「リリアを壊したくない、傷つけたくないんだ」と怖がるのを宥めてようやくこの日を迎えることが出来、感慨深くもなるというものである。
だが、たった一つだけ問題があった。それは、マレウスが童貞であるようにリリアも童貞であるということだった。
何やらマレウスはリリアを百戦錬磨だと考えている節があるが、こちらは人生の大半を戦争に費やしているのだ。そんな恋だのなんだのと浮かれている暇などなく、戦争が終わってからはマレウスの子守で手一杯で精々自分で慰めることしかしていない。リードしてやる、任せいなどとその場の雰囲気でつい言ってしまったが作法などわかるはずもなく、とりあえずマレウスの下半身に手を伸ばした次第である。
ちらり、とマレウスに視線を戻すと彼は興奮気味で小刻みに呼吸をしているのが見えた。そのいかにも童貞らしい態度を見て、地味に焦っていたリリアも少々落ち着きを取り戻す。
わしになら出来る、と自信を持ったリリアはついにマレウスの性器に直接触れた。
「……お、おぉ…? ……お主、これ、大きくないか……?」
「そうか? 他人と比べたことがないからわからないが、平均的ではないのか?」
「こ、これが平均的、じゃと……!?」
下着から零れたマレウスの性器はあまりにもリリアの想像を超えていた。取り出した瞬間に近づけていた顔に当たるほどの屹立具合もそうだが、なんといってもその長さと太さが並外れたものである。ドラゴンだからという言葉では済まない──というかそもそもどうやってこのサイズのものが制服に膨らみをつくらず隠れていたのだろうか。制服に魔法がかかっていたとかでなければ説明が出来ないのだが。リリアの腕よりは少し細いが充分に太いそれは20センチぐらいの長さをまじまじと見せつけており、これが平均的だというのならば自分の性器は一体なんだというのか。体型の差、種族の違いがあるとしても頭を金槌で叩かれたかのような衝撃を受けてしまう。
「……リリア?」
「お、おお?! わ、わかっておる! これが平均なんじゃな! これぐらいのサイズはあまり見たことがなくて焦ってしまったが、うむ、平均的じゃな!」
動揺のあまり自分でもよく分からないことを口走ってしまい、マレウスに疑惑の視線を向けられる。このままでは自分も童貞だとバレてしまう──自信満々に任せろといったせいで今更告白し辛い──のを防ぐためにリリアはぎゅっとマレウスの性器を握った。
その行為に肩を跳ねさせたマレウスに気づかないまま、リリアは掌から感じる生々しさに声を失う。燃えるような熱さにどくどくと脈打つ性器。長さと太さに気を取られてじっくりと見ていなかったが、浮き出ている血管は赤黒くグロテクスでありながらも淫猥さを醸し出している。これが、自分のなかに入るのだと信じられないような、けれどどこか期待している自分が存在している。そして、同時に恐怖も抱く羽目となった。
おそらくマレウスの性器はこれで完全に勃起したわけではないのだろう。ということはこれよりもさらに大きくなるわけで、それがリリアのなかに入るのだ。
「…………」
いや、無理だろう、とリリアは心のなかで自分に突っ込みを入れる。こんなに大きいものを入れたら腹を突き破ってしまうのではないだろうか。
だらだらと冷や汗をかきながら、それでも今更初めてだと告白も出来ないプライドのせいでリリアはマレウスの性器を握ったまま完全に動けなくなってしまった。
「……リリア?」
「マレ、マレウス……? う、うむ、わかっておる、ちょっと心の準備が……。想像していたより大きいから、そう、ただそれだけじゃ。わしに任せておけば万事オッケーじゃ」
「…………」
どうすれば良い。とにかく一度マレウスを射精させれば良いのか、でもその後性器を入れるためにどれほど後孔を解せば良いのだろう。この日のために解してきたのだが、指だけで痛みを感じていたのにこんなに大きい性器が入ればどれほどの痛みになるのか想像もしたくない。
困ったように視線を彷徨わせ、しかし意を決してゆっくりとマレウスの性器を前後に扱き始める。
「き、気持ち良いか、マレウス……? どうじゃ?」
がしっとマレウスの手がリリアの両肩を掴み、身体を引き離す。何か怒らせるようなことをしてしまっただろうか、と焦るリリアに構わずマレウスは重い口を開いた。
「リリア、正直に言って欲しい。リリアはこういった行為をしたことがあるのか?」
「と、とと、当然じゃろう! わしを何歳だと思っておる!」
「リリア」
こちらの抵抗を一刀両断するかのごとく名前を呼んだマレウスの視線は鋭いもので、リリアには最早白旗を上げるしか道はなかった。
小さく首を縦に振ったリリアにマレウスは長い息を吐く。幻滅されただろうかとおそるおそる相手を見上げれば、マレウスは安堵したような表情でリリアを抱きしめた。
「まったく、リリアの負けず嫌いはいつまで経っても直らないな」
「う、ううう……わしだって見栄を張りたいんじゃ……。この年になってまだ経験したことないなど、ドン引きじゃろう?」
「そんなことはない」
マレウスは首を横に振り、穏やかに笑う。
「リリアの初めての相手が僕で嬉しい」
その真っ直ぐな想いにリリアは上手く言葉が出ず、またじわじわと頬が熱くなっていくのがわかった。変なプライドを持っていた自分があまりにも恥ずかしく思え、ぐりぐりとマレウスの肩に頭を押しつけつつぎゅううと力いっぱい彼を抱きしめる。
恥ずかしいけれど、嬉しい。そんな感情に支配されたリリアは「これが惚れた弱みか」と心のなかで独り言ちる。
「リリアが初めてなら、焦る必要はない。ゆっくり二人で進んでいこう。今の様子ではリリアの方が心の準備が出来ていないだろう?」
「……お主のこれが、大きすぎるのが悪いんじゃ」
そう言いながら先ほどのやり取りでも萎えていない、逆に大きくなっているようにも見えるマレウスの性器の先端をつつく。ゆっくり進むと言ってもこれを放置するわけにはいかない。手や口ならば処理できるだろうか、とリリアが思案しているとマレウスが躊躇いがちに言葉を発した。
「リリアが良かったら、その……触り合わないか?」
「う、うむ……触り合いじゃな? 挿入はなしじゃな?」
マレウスからそのような言葉が出てきて面食らいながらもリリアは彼の要望を受け入れ、己の性器を露出させる。やはり両者の性器の差を目の当たりにすると少々落ち込んでしまうのは男の性だろう。
だがその落ち込みもリリアの性器にマレウスの指が絡んだことによりどこかへ消え去る。
「あっ!? マレウス、っ、ぅ……!」
「……リリア、僕のも触ってくれないか」
「ふ、っ、そう、じゃのう……。こう、か?」
自分で慰めるときのように掌全体で性器を包み、上下に扱く。リリアの小さな手ではマレウスの性器を全部包むことは出来なかったが、上下に動き手によって呻く様子に快感を得ていることを知る。それは己も同じで、茎全体を刺激するマレウスの手に身体をびくびくと震わせた。
「んっんっんっ……! あっ、マレウス、そこっ……!」
「ここ、か?」
「んぅ……! あっあっあっ、ふっ、きもち、い……っ」
裏筋にある血管の輪郭を確かめるように指でなぞられればぞくぞくとした感覚が走り、全身の力が抜ける。負けじとリリアも相手の性器の先端をぐるりと指で撫で上げた。
互いの下半身からはぐちょぐちょと淫らな水音が聞こえ始め、それに比例して手の動きも早くなっていく。
「マレウス、好き、っ、ああ! す、きぃ……っ」
「はっ……、僕も、好きだ……っ!」
「んっ、ちゅ、むぅ……! はっ、んっんっんっ!」
どちらからともなく唇を重ね、呼吸を奪うかのように角度を変えては舌を絡ませる。自分だけでは得られない快感に翻弄され、相手が乱れていることにどうしようもなく興奮が高まった。早くも絶頂の気配を感じたリリアは絡ませる舌や先走りで淫靡に光る手の動き、そして潤む瞳でマレウスにそのことを訴える。
「んんんんっっ──! ぢゅっ、むぅう! んっんっ、ふっ、は、ぁ……っ!!」
ラストスパートに向け激しくなる愛撫に、二人はぶるり、と身体を震わせ、同時に精を放った。
「くっ、リリア……っっ!!」
「あっ、あっああぁっ……! マレウス、っ、ああああぁああ────っ!!」
放たれた精は二人の服を汚し、シーツにもこぼれ落ちて濃いシミをつくっていく。それを射精後特有の倦怠感を覚えながらもぼんやりとリリアは見ていた。
すごかった、と言わざるを得ない。したことはただの触り合いだというのに、こんなにも感じたことは初めてで、また、こんなにも幸せな気持ちに包まれているのも初めてだ。これが恋をするということ、恋人同士の特権なんだとリリアは今更ながら実感する。
マレウスも気持ち良かっただろうかと視線を彼に向ければ目が合い、そっと頬を撫でられた。
「愛してる、リリア」
愛を囁きながら今までで一番幸せそうに微笑むマレウスに、リリアは息を飲む。
次の瞬間、火照りだけではない熱が全身を一気に駆け巡りリリアは金魚のように口を開閉させた。
「~~~~~~~~~~っっ!!」
羞恥で涙が浮かんだ瞳を見られたくなくてリリアはその場で蹲る。頭上から焦った様子のマレウスの声が聞こえたが顔を上げられそうになかった。
先ほどマレウスはゆっくり進もう、と言ってくれたが今のリリアはもうそんな風に考えられなかった。無理矢理にでも進んでしまえば良かったと後悔しているくらいだ。今すぐにでも抱いて欲しいと身体と心が叫んでいる。
「どうしたんだ、リリア。どこか痛いのか?」
慌てているマレウスの声をどこか遠くに聞きながら、リリアはこれから先ゆっくりと進む行為に我慢が出来るのだろうかと頭を抱えるのだった。
2021年9月に書いたと思われる作品。当時のTwitterのフォロワーさんへのプレゼントでした。タイトルはchicca*様から