なんやかんやあり、すったもんだの末、晴れてマレウスとリリアは恋人同士になった。
セベクは号泣していたが、シルバーは呆れつつ祝福の言葉を投げ掛けてくれたので概ね平和に事が済んだと言える。
しかし、想いを繋げるまでに幾度となく浮かび上がった問題は、実際のところ二人が恋人同士になってからの方が多かった。特に、閨に関して。
まずどちらが下になるかでもめた。リリアはマレウスが好きだからこそ気持ちよくさせたいと主張してみる。が、それはマレウスも同様だったらしく平行線な二人の想いは、何故か三日三晩どれほど相手を好んでいるかを語り合うことにより決着をつけることと相成った。相談された監督生が「いや、その理屈はおかしい」と呟いたのは聞かなかったことにする。
マレウスを生まれたときから面倒を見てきたのはリリアなのだから、こちらの方が愛が深い。それにマレウスよりも長く生きているからテクニックにも自信がある!
と、リリアは胸を張った。ちなみにリリアは未経験である。テクニックなどあるはずもなく、所謂耳年増なだけであった。
その虚栄に気付いていたのかは定かではないが、マレウスはリリアの言葉を鼻で笑い、愛の深さでは負けはしないと豪語してくる。はっきり物事を言うようになった、と密かにマレウスの成長を喜びつつ、論争は続いた。
わいわいがやがやと、最早、一生分の好意を伝えたであろうそれが不毛だと気付いたのは四日目に差し掛かりそうな月夜のことだった。二人とも興奮したのか、それとも照れているのかもしれなかったが、顔を真っ赤にさせながらどちらともなく「これ以上はやめよう」と口にした。リリアに対するマレウスの生々しい感情と愛情に全身が熱くなりながらも、リリアは次の方法を考える。
そもそも想いに優劣はつけられない。であるなら、と別の観点で考えてみることにした。精神的ではなく肉体的な問題──つまり、セックスの時の体位についてだ。
ただしこれは議論の余地がなかった。というのも二人の体格差があまりにもありすぎるからだ。どう考えてもリリアには身長が足りない。
マレウスが少し笑いながらそう言ったとき、リリアはぐぬぬと思いつつもその通りなので反論が出来ず、身長と体格による差が大きすぎるためリリアが上では動くのがきついのではという結論を渋々納得した。
それを後日聞かされた監督生は「いや、その理屈なら受け入れる立場もきついだろう」と思ったがマレウスが怖いので黙っていたと後から聞かされたときの心境は筆舌に尽くしがたかった。
結論としてリリアがマレウスを受け入れると決まると、さっそくというべきかベッドを共にすることが決まった。リリアもそれに異論はなく、逸る鼓動を抑えながらセックスをしようとして、結果泣いた。
リリア・ヴァンルージュ生涯初めての大泣きである。年上の権限など痛みの前では関係ない。マレウス、とぐずぐず泣いてむりむりむりと顔を精一杯横に振った。マレウスは初めて見るリリアの泣く姿におろおろとして、彼自身もつられて泣きそうになっていた。
こうなってしまった原因は、リリアがマレウスの性器を受け入れられなかったからだ。そもそも二人の身長差は44センチである。身体の細さからして全く異なる。
44センチってどのくらいだ。44センチだ、と意味のわからないことを考えるほどにリリアはパニックを起こしていた。体格に比例したマレウスの性器をリリアの身体で受け入れるにはそりゃあもう主に下半身に裂けるような痛みが走るわけである。
そんな痛みを経験したことがないリリアはこれでもかというほど泣きわめいた。その後数日間ぐずぐずと泣きじゃくり部屋から出てこなくなるくらいには泣いてしまった。
流石のマレウスもそんなリリアの様子を見て「リリアを傷つけるのは本意ではない」と自ら下になろうかと提案してきた。その健気さにぎゅんと胸を打たれつつ、お目付役として王に妥協させるわけにはいかない。ましてや、愛しい恋人の願いを叶えずしてどうするのか、とリリアは数日間猶予をくれとマレウスに伝えた。
マレウスを受け入れるのに手っ取り早いのは慣らすことだ。前回は心の準備も身体の準備も出来ていなかった。だから泣いてしまったのだろう。
自分で後ろを開発すればきっとスムーズにいけるはずだ。マレウスを受け入れる心の準備もその間に出来るだろう。
なんて名案だ、と早速マレウスに後ろを慣らす旨を告げる。するとマレウスはむすっとした表情で、二人のことなのにリリア一人でするのは間違っている、などとこれまたリリアを感動させることを言ってきた。良い子に育っている。
じゃあ二人でするかのぅ、と提案すればマレウスは喜んでくれた。
可愛い感慨深い心境でいたリリアだったが、それをすぐさま後悔することになるとは気付いていなかった。
以前にリリアが泣きわめいたときもそうだが、マレウスははっきり言ってセックスが上手である。というか上手すぎる。
今回は別の意味で泣かされたリリアは前を触らなくても後ろだけで達するように調教させられた。マレウスが与えてくる快感にリリアはめちゃくちゃ弱かった。年上の威厳が、と嘆くがそんなものとうの昔に失っていることは気付かない。
そんなわけでマレウスに新しい扉を開かされたリリアは、今度はマレウスを気持ちよくしてみせると当初の目的から外れた目標を立てた。やられっぱなしはリリアの主義に反するのだ。
身体での奉仕が難しいのならそれ以外、手と口でマレウスを満足させよう計画である。
とはいうものの、やはりというべきか知識しかない人物がいざやろうとしても上手いはずがなかった。いや、マレウスは上手であったが彼は規格外としよう。
リリアの口ではマレウスの性器を全て咥えることが不可能で、尚且つリリア自身自慰も滅多にしないため性器を触る手はぎこちない動きになってしまう。困り果てたようにぺろぺろと子猫がミルクを飲むかのように先端を舐め、そっと息を吹きかけた。
結果、その焦れったさにマレウスが達することはなく、それどころか「こうするんだ、リリア」と逆に奉仕されてしまった。いやいやと視線を逸らすリリアをマレウスは許さず、彼が奉仕する様を充分に見せられそれほど触られてもいないのに視覚での興奮だけで達してしまった。
というのを何回か繰り返した後、リリアはマレウスが触れるたびに条件反射のように反応する身体になってしまった。
このままではいかん、と危惧したリリアは形振り構ってはおられぬと三度監督生に相談を持ちかけた。
一通り話を聞いた監督生は死んだ魚のような目で「最早手遅れだと思う」とリリアが薄々感付いていたことをはっきりと口に出した。それでもどうにかマレウスを気持ちよくしたい、とリリアが言えば監督生はある方法を教えてくれた。
当初の目的から外れてるなぁ……と監督生は内心思っていたのだが、黙っていた方が面白いことになりそうなので心の中に留めいていたと事が済んだ後に言ってきた。実は監督生が一番意地が悪いのではないかと思う。
ともあれ、監督生はリリアに告げる。快感に弱いのは変えられず、しかも奉仕も下手くそである。でもマレウスにも気持ちよくなって欲しい。だが、まだ後ろを使う勇気はない。ならば、手や口ではない、更なる別の場所を使えば良いのではないか。
その方法を聞いたリリアは、今夜実践しようと心に決めたのだ。
そう、ここまでが前置きである。
リリアはマレウスのベッドで彼が触れてくるのを待っていた。手には潤滑油を持ち、準備を万全にして。その様子を見たマレウスはふ、と柔らかい笑みを浮かべてリリアの頬を撫でる。びくり、と反応してしまったリリアは頬を赤く染める。
するりとマレウスの手が服に掛かったのを見計らい、リリアはマレウスを制止する。
「マ、マレウス……! こ、今夜はその、わしにやりたいことがあるのじゃ……!」
「リリアが?」
不敵に笑うマレウスに胸がキュンキュンしながら、リリアは自ら服を脱いで全裸になる。それから持っていた潤滑油を太股へと垂らして、空になった瓶を床に放り投げた。太股はてかてかと光っており直視に堪えない。飛び散った液なのか、マレウスの視線を感じたせいかはわからないがリリアの性器はすでに鎌首がもたげ始めていた。
「こ、ここにマレウスの性器を挟んではくれぬか……?」
「…………」
沈黙が舞い降りる。失敗じゃったか、と羞恥心で死にそうなリリアは俯く。
何が「素股で良いんじゃないんですかね? 準備? リリア先輩が下手に手を出すよりマレウス先輩に任せた方が上手くいくので大人しく鴨ネギになってください。え、鴨ネギですか? 鴨がネギを背負ってくるということわざがあるんですよ、日本には。意味は、そうですね……。わかると思いますよ。身を以て」じゃ。
監督生の言葉を思い出してふつふつと怒りがこみ上げてきているリリアはマレウスの凶悪な笑みにも気付かない。
そして、マレウスを気持ちよくさせるといった目標は叶えられたのだが何度もイカされて、許して欲しいと懇願しても行為は終わらなく、終いには身体を繋げるという当初の目的も達成してしまうことになるとは、リリアは知る由もないのだった。
テーマは素股でした。どうしてこれで書こうと思ったのか私にはさっぱりです。これも多分2022年ぐらいの作品でずっと温めてたんだと思います
タイトルはchicca*様から