グラスのなかで揺れるのは紅花で染め上げたような鮮やかな赤色。水面は揺れるたびに光が反射してきらきらとまるで星々のようにきらめく。なかに入った液体がぬるくなってしまうまでその光景を楽しんだアルベールはそこでようやくグラスに口を付けた。赤い宝玉のような液体を喉で楽しもうと柄にもなく心を躍らせていると、突如横から伸びた指がグラスの底を掴んだ。
「飲み過ぎだ、親友殿」
「ユリウス……」
アルベールの指にユリウスの指が絡み、抵抗する間もなくグラスは奪われテーブルに置かれてしまう。取り戻そうと身を乗り出せば「……アルベール?」と親友殿から威圧感のある声で名前を呼ばれ、諦めてソファーに背をゆだねた。
「全く、いくらハロウィンだとしても羽目を外し過ぎだろう。ワイン二本はいくら君だとしても飲み過ぎだと思うが」
「俺は酔っ払ってない……」
「酔っ払いは皆そう言うんだ」
聞き分けのない子どもを諭すかのような言い方とやれやれと肩を落としたユリウスにアルベールは少しだけカチンと来る。
ユリウスが視線を逸らしたその隙にアルベールは再びグラスを掴み、今度は制止される前にワインを一気に呷った。焼けるような喉の痛みを堪えて一滴も残さず飲み干し、割れない程度に、けれど音を立ててグラスをテーブルに置く。
そんなアルベールの態度にユリウスは小さく目を見開き、それから眉を顰めてこちらを睨み付けている。負けじとアルベールも睨み返せばソファーの上で大人二人が見つめ合っているという、端から見ればおかしな光景が広げられることになった。
今いる場所がグランサイファーでなくて良かった、と頭の片隅でアルベールは思う。もしもグランサイファーであったなら、こうも大人げない態度を表に出すことは出来なかっただろう。だが、それと同時にここがグランサイファーの客室ではないからこそやけ酒を呷ることになっているのだとも理解していた。
ユリウスから視線を逸らさずにいるアルベールは酔いが回ってきたのかふわふわとした思考のなか、微かに痛み始めた胸を押える。痛みの原因がただの嫉妬だということを僅かに残った理性が教えてくるが、正常な思考回路を持たない状態ではそれを止める術を持たなかった。
「………………」
ハロウィンで彩られた街でユリウスが大勢の人を悪戯屋敷で楽しませていた。彼自身も満面の笑みを浮かべて至極楽しそうな生き生きとした様子を見せていて、それは確かにアルベールにとっても幸福なことであった。だがしかし、恋人としてのアルベールはいささか寂しく、また、嫉妬を覚えたのだ。祖国では滅多に見せない──見せられなくなった、というのが正しいか──笑顔を大多数の人物に振りまき、あろうことか悪戯を行うという大盤振る舞いぶり。
くだらない、子ども染みた嫉妬だとアルベールは自嘲する。けれども、ユリウスが悪戯するのは、心を許せるのは己だけであって欲しいというほの暗い感情を抱いてしまった。グランサイファーではなくわざわざ街で宿を取ったことも悪戯屋敷の準備などで慌ただしくなってしまうからとこちらを気遣ってのことだと知っているのに、どうしてという気持ちが先行する。手伝って欲しいという一言があればまだ堪えられただろうに、ユリウスは「君も少しは羽目を外した方が良い」とアルベールをグランサイファーに置いて一人で行ってしまった。恋人と一緒にいたいというこちらの気持ちを置き去りにして。それらが全て彼の素直じゃない優しさということはわかっている、わかっているのだ。
それでも、嫉妬してしまう自分があまりにも惨めだった。
「…………っ、」
滲んでくる景色にアルベールは己が泣いていることに気づく。水の膜で見えにくい視界のなかでユリウスが驚きに目を見開き焦っている様子が写り、ますます己が情けなく思えて涙が止まらなかった。困らせたいわけではなく、宿に来たのも疲れているユリウスを労うつもりだったのだ。それが勧められた酒に酔い、こうも醜態をさらしている。自己嫌悪が止まらず涙を拭う手が忙しなく動いていた。
「アルベール」
ユリウスは戸惑いがちにアルベールの頬を指で拭う。酔っ払いがいきなり泣き出したのだから彼が困惑するのも当然だった。追い出されても文句は言えないだろう。だが触れてくるユリウスの手がまるで宝物を抱えるように優しいものだったから、アルベールは胸を締めつける衝動に逆らわずソファーに彼を押し倒した。
今日は色んな表情を見るな、と呆然としているユリウスをどこか冷静に見下ろしながら彼の腰に馬乗りになった後にアルベールは己の服に指をかける。珍しく切羽詰まった声色で名前を呼ばれたが気にせず上着を脱ぎ捨て床に落とした。
押し返そうと肩に触れてくるユリウスにまた激しい感情が湧き上がり、アルベールは噛みつくようなキスをする。
「んん、ん、ふっ、ぢゅ……っ!」
無防備に開いた腔内へ舌をねじ込み、逃げられる前に相手のそれと己の舌を絡ませる。舌に残ったワインを相手に塗り込むように擦りつけ、輪郭を覚えるかのごとく歯列をなぞりあげた。
尚もアルベールをどかそうとするユリウスの抵抗を削ぐために舌を吸い上げ、唾液を混ざり合わせ、まるで舌でセックスをしているかのように激しく動かす。触れている彼の手に指を絡ませ離れまいとぎゅっと力を込めた。ぐちゅぐちゅと耳に届く淫靡な水音に瞳を閉じたアルベールは、その瞬間にユリウスの視線が鋭くなったことに気づくことが出来なかった。
ぐるり、と身体が反転する。我に返ったアルベールが目を開けば今度はユリウスがこちらを見下ろす態勢となっていた。あからさまに怒っている様子の彼が口を開こうとするのをアルベールは口元に手を当てることで制する。
当然それで停止するような相手ではなく、ユリウスは口元を覆っているアルベールの指を舐め、肩を跳ね上げたこちらを嘲笑う。
「──それで? 親友殿は、一体なにを考えてこんなことをしたのか、是非とも私に教えてくれないか?」
「っ、ぁ……、んんっ……!」
爪先から根元までじっくりと舌を這わせたユリウスの問いにアルベールは応えるよりも先に熱の籠もった吐息を吐く。彼によって快感を覚えた身体はいとも簡単に昂ぶるようになってしまい、先程の衝動はすっかり鳴りを潜めていた。
惨めさから流した涙とは違う涙が頬を伝うのを自覚しながら、アルベールは呼吸を整えながら話し始める。
「みっともない、と詰ってくれて構わない。馬鹿者と言われても仕方がない。……お前があんな風に笑うから、俺にしかしない悪戯を振る舞うから……嫉妬、したんだ。本当に、馬鹿みたいだろう?」
「アルベール……」
「ただの酔っ払いの戯言と受け取ってもらって構わない。だが、俺は、お前が思うよりもずっと、ユリウスのことを愛しているんだ。嫉妬して、勝手に寂しくなって、こうして押しかけてきてしまうくらい、簡単に箍が外れてしまう」
抱えている感情のせいで笑みが上手く作れないとわかっていながらアルベールは自嘲するために口角を上げる。結局はこうしてユリウスに甘えている情けなさが次々と滴となって瞳から零れていく。
伸ばされた手に頬を擦り寄せながら、アルベールはもう一度「愛している」と告げた。
「……馬鹿だな、君は」
ため息と共に放たれた言葉にアルベールが瞳を震わせると同時に額に唇が落ちてくる。思ってもいなかった行動に呆気に取られた自分をユリウスは穏やかな笑みで見つめていた。
それは彼が街中で浮かべていた笑みとは違う、愛しいという気持ちが隠れていない表情だった。思わず息を呑むほどの端麗な形相にアルベールは頬を赤く染める。
「私が人々を喜ばせたいと思ったのは、親友殿のおかげさ」
「俺の……?」
「そう。愚直なまでに他人のために身を粉にする親友殿の傍にいたら私も感化されてしまったようでね、私も皆を楽しませたいと思ったのさ。そうすれば親友殿がとても幸せそうに微笑むから、その表情を見たいと……愛しいと、心の底から思った」
ユリウスの指が頬から顎へ、そして首筋を辿る。その動きがどういった意図を持っているのか気づかないほどアルベールは初心ではない。期待に満ちた吐息を分かち合うように唇が重なり、離れた後に後頭部へ手を添えられる。
「私だって君が微笑む相手に嫉妬している。団長にさえ、だ。そんな私を親友殿は笑うかい?」
「そんなわけないだろう! お前がそれほど俺を想ってくれていて嬉しいに決まっている!」
「フッ、親友殿ならそう言うとわかっていたよ。そして、それは私も一緒だ」
額、瞼、頬や唇にキスを落としながらユリウスはアルベールの耳元で囁く。
「私も、君を愛している」
アルベールが愛の言葉に応えるよりも早くユリウスは唇を奪う。腔内を蹂躙される感覚にアルベールは身震いをし、彼のうなじに手を回した。
「ふ、ん……んんっ、んっ! ふ、ぁっ……!」
舌の表面にあるへこみを相手の舌がなぞる。器用に動くユリウスの舌はアルベールの裏筋をもねぶり、舌先を吸った。
アルベールがびくんと足を跳ねさせるとそれを狙ったかのようにユリウスの膝が足の間に割って入る。直後、膝で股間を刺激してきたユリウスにアルベールは焦りながら相手の髪を引っ張った。
そこでようやく唇が離れ、ユリウスの熱い吐息がアルベールの耳に届く。酸欠か、それとも興奮したのか自分でも区別が付かないほどに頭が働かないまま、ただ相手を見つめる。
茫然自失なアルベールを笑いながらユリウスもまた己の服に指をかけた。露わになる首筋に喉が鳴り、呼吸が乱れる。
酔っ払っているから、とすっかり酔いが醒めた自分を誤魔化しながらアルベールは口を開いた。
「ユリウス、俺は、まだ酔っ払っているんだ」
「……ああ」
「だから、どんなわがままを言っても、構わないよな?」
「もちろん」
楽しさを滲ませた声色に羞恥心を覚えるが今更引くことなど出来はしない。アルベールは顔にかかるユリウスの髪の一房に唇を寄せながら、誘惑するように告げた。
「俺に、悪戯をして欲しい」
「雷迅卿の、望むままに」
「ふ、あ、ああぁ! あっ、あ、く! 声、声、とまら、いっ、ああぁあっ!」
腰を突き出して後ろから抱かれている姿はまるで獣の交尾のようで、いつもはしない体位にアルベールは顔を体液でぐしゃぐしゃに汚しながら快楽を貪っていた。片腕をユリウスに引っ張られているためもう片方でシーツに沈みそうになる身体を支えているが、いつ崩れてもおかしくないほどによがり続けている。彼の腰が動くたびに肉がぶつかる鈍い音が響き、その直後に来る快感の波にアルベールはただただ翻弄された。
バックでの挿入は正常位とは違いユリウスのペニスの動きがダイレクトに伝わって来る。熱い肉の塊が襞をかき分け、奥へとねじ込まれる感覚。自分の体内が彼のペニスの形に拡がっていく感触にアルベールはぶるりと身体を震わせ、恍惚な息を吐いた。
「あ、あああ! ひ、ひっ、あ、あ、あ……っ!? あああ、あ、あっ、ああああっ!」
前立腺ではなく奥で快感を得られるように教え込まれた身体は、カリ首が襞を引っ掻くように腰を揺らされるだけで嬌声を発してしまう。それもこれも全部ユリウスに教えられたことだ。
それでも女のように甲高い声を出すのが恥ずかしいと、まだ羞恥心が働いているアルベールは必死の思いで唇を噛みしめる。
「んんっ、んぐっ、ぐっ、ふっ……!」
「……アルベール」
くぐもった喜悦の声を咎めるようにユリウスが身を屈め──その際に角度が変化した挿入のせいでまた喘いでしまうのだが──アルベールのうなじを甘く噛んだ。
「あ!? ああぁああ、あああっ! ひ、ひうぅ、っ、ユリ、ウス……っ!? く、うううぅ……!」
快楽に支配されている身体に走った痛みはまるでアルベールの脳内を直接かき混ぜたほどの衝撃を与える。痛いけれど気持ち良いという相反する感覚に思わず腰を引いたこちらを逃がすまいとユリウスが最奥を穿つ。彼の髪が背中を撫でる感覚や耳元で聞こえる熱い吐息、そしていつもは痕を付けたりしないユリウスの加虐心に興奮したアルベールは堪えきれず少量の精液を零した。
微かに痙攣した肉壁に気づいたユリウスは元の体勢に戻りペニスを後孔の入り口まで引き抜く。カリ首で入り口を小刻みに刺激する彼に、アルベールは荒い呼吸を整えながらもどかしさを覚える。無意識に奥へ誘うように腰を押しつけると、ユリウスがフッと笑った気配がした。
「おや? どうしたんだい、親友殿?」
「っ、ユリウス……その……」
ユリウスの態度から“そういうこと”を言わせたいのだろうとアルベールは勘づくが、羞恥心が邪魔をして口ごもる。その間ももどかしい律動は止まらず、身体の熱が解放を望んで疼く。特に先程まで亀頭で押し潰すように刺激されていた最奥がひくひくとユリウスのペニスを求めているのがわかってしまう。思わず睨み付けると、彼はそれは楽しそうに口角を上げた。
「フフッ、悪戯を望んだのは君だろう?」
「こんなのっ、悪戯じゃなくて意地悪だろうが、っ、ふぁあっ! ひっ、あ、あ、あ、あっ!」
アルベールの反論にユリウスは後孔の入り口での愛撫を止め、いきなりペニスを突き立てて前立腺を亀頭で抉り始める。これまで避けていた性感帯への刺激についに立てていた肘が崩れ落ちた。けれども片腕はユリウスに掴まれたままで、完全にシーツに沈むことはない。綺麗に整えられていたシーツは今はもうしわくちゃで見る影もなく、体液によって濃いシミが出来ていたのをどこか遠い目で見ていた。
「あっあっあっ……! ひっ、ひ、あ、はっ……! ユリ、ユリウス……っ、も、いい加減に……っ!」
その言葉を聞いたユリウスは前立腺を穿つことを止めてペニスを奥へと押し込んだ。だが、根元まで入ったはずのそれが律動を開始することはなく、アルベールは艶やかな吐息を零す。内壁で包み込んでいるペニスの熱が同化していくことに、ぞくぞくとした感覚が走った。
こんな生殺しの状態を堪えきれる余裕はなく、精液を搾り取ろうと肉の襞が収縮する卑しさによる恥ずかしさを抑えながら、アルベールはユリウスの思惑に乗る。
「ユリウス……っ、頼む、から……っ!」
「アルベール、ちゃんと言わなければ私はわからないよ」
「っ、そんなわけあるか! ……くそっ、動いて、ほし……っ、ユリウスので、奥をごりごり突いて欲しっ!? あ、ああああああああ!」
言い終わる前にユリウスは律動を再開させ、亀頭で最奥をごりごりと抉ってくる。掴んでいた腕を離し、両手をアルベールの腰に当てた彼は今までのが手ぬるいと思うほどに激しく動き始めた。
「あ、あ、あ、あ、ああああ、ああ、あっ、ああああぁあ……っ!!」
アルベールの口から零れるのは理性が消えた嬌声だけで、投げ出された手は快楽を逃がそうとシーツを必死に掴む。足はがくがくと震え、ユリウスが腰を掴んでいなければ体勢を保つことも出来なかった。
全身がユリウスから与えられる快感に支配されている。彼のペニスで内壁を擦られるのが気持ち良い。抜かれそうになるとアルベールは追いかけるように自ら腰を振り、さらなる悦楽を求めた。入り口から一気に最奥まで貫かれると許容出来ない快楽に目の奥がちかちかと白く光る。二人の汗や体液の匂いが鼻腔を擽るとセックスをしているのだと否応なしに自覚させられ、また、肉がぶつかる音がアルベールの聴覚を犯す。
「はっ、く、ぅ」
「ひっ! あ、んっんんっ……う、あ、ああ、あ、はっ! はっ、はっ、ああぁあ……っっ!」
耳を犯すのはそれだけではなく、ユリウスの感じ入る声や乱れた呼吸もそうだった。彼も同じように感じてくれているのが嬉しい、とアルベールが思うたびに身体はそれに応えようとユリウスのペニスを締め付ける。
孕むことは出来ないと理解していても、本能がユリウスの精液を欲しがっていた。奥に注ぎ込まれ、自分が彼のものだと思い知らされる瞬間をアルベールは今かと待ち望んでいる。それこそ嫉妬などしなくてすむように、身体と心、その全てがユリウスのものだと刻み込んで欲しいと心が願っていた。
「あっ、あ、あ、い、いいぃ、きもち、いい……っ! いい、ユリウス、好き……っ!!」
「っ、私も、君が好きだ……っ!」
「いっ、いいぃ、ふああああっ! いい、いく、も、出る……っっ!!」
軽く達しているせいか痙攣が止まらず自分がどうなっているか不安で恐怖を覚えたアルベールは身体をひねり、ユリウスに手を伸ばす。それをしっかりと握り返した相手にほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、挿入の角度が変わったせいでカリ首が一番気持ち良いところを擦る。
「はっ!? あっ、ああああああああぁあ────っ! あ、ああああぁあああっっ!!!」
刹那、アルベールのペニスが大きく震え、精液が飛び散った。その際の締め付けにユリウスも小さく喘ぎ、熱を放つ。注ぎ込まれる精液の熱さと射精の悦楽にアルベールは四肢を硬直させた。
それは二人の呼吸が落ち着くまで止まらず、硬直から解放されたアルベールは全身を脱力させシーツに身体を預ける。後孔からペニスを抜いたユリウスは髪を掻き上げながらナイトテーブルに置いてあったグラスを手に取った。その光景をぼんやりと眺めていたアルベールは差し出されたグラスの意図が読み取れず首を傾げる。
するとユリウスはなにを思ったのかグラスに入っていた液体を口に含み、アルベールに口づけを落とす。そこでようやく水を飲ませようとしてくれたことを悟ったアルベールは唇を開き、雛鳥のように口移しで水分を補給した。
頬を撫でるユリウスの指にアルベールはこれ以上ない充実感を覚え、うっとりと目を細める。だが、次の瞬間には目を見開いて己の下半身に視線を向けた。
「あっ…………」
なかに注ぎ込まれた精液が逆流し、アルベールの後孔から滴り落ちる。そのむず痒い感覚に声を出せば、ユリウスもつられるようにそこへ視線を移してしまう。見られた恥ずかしさでアルベールが身動げば、流れ出る精液がさらに増え羞恥を煽る結果となった。
「……アルベール」
掠れたユリウスの声に唾を飲み込んだ。見るな、と言いたがったが身体は素直で達したばかりのペニスが再び屹立する。昂ぶる身体を抑えることなど不可能で、アルベールも掠れた声でユリウスの名を呼んだ。
「……もう一度、したい……」
その願いに言葉は返ってこず、噛みつくようなキスで応えられたのだった。
意識を覚醒させたとき、アルベールが真っ先に思ったのは「やってしまった」という後悔だった。
ユリウスが泊まっている宿屋に押しかけ、酒を呷り、セックスの最中でははしたない言葉を口にしていた。いくら酒で少々理性を手放していたとしても到底許される行為ではなく、アルベールは顔を真っ青に染めながら急いでベッドから飛び出した。
ナイトウエアに着替えた覚えがないのに身に纏っていることがさらに罪悪感募らせ、アルベールはユリウスの姿が見えないことに泣き出しそうになってしまう。どこへ行ってしまったのだろう、もしかしたらもう宿を出たのかもしれないと窓に手をかけた。
太陽は街を暖かく照らし、眼下の人々は楽しそうな賑わいを見せている。ハロウィンの本番が昨夜で終了したとしてもこの催しはまだ数日間続く。当然ユリウスの悪戯屋敷も開催されることになっており、アルベールの胸にまた少しの陰りが沸き起こる。
だが、それでは昨夜の二の舞だとアルベールは闇を振り払うように頭をぶんぶんと振る。
「……なにをしているんだ」
背後から呆れたような声が聞こえ、アルベールが振り返るとそこにはすでに着替え終わっているユリウスの姿があった。その手にはトレイがあり、パンなどの軽食が置かれている。
「ユ、ユリウス……昨夜は、その……すまなかった!」
頭を下げるアルベールにユリウスはため息を吐き、靴音を響かせながら近づいてくる。地面を見つめたままの視界に彼の靴が見えたそのとき、頭を軽く叩かれた。
「馬鹿なことを言っていないで食事を済ませよう。今日は親友殿にも働いてもらうのだからね」
「は……?」
ユリウスの言葉にアルベールが顔を上げると彼は穏やかに笑っていた。
「昨夜よりは客が少なくなるだろうとはいえ、やはり一人では限界があると昨日から思っていたんだ。そこで親友殿にも手伝ってもらいたいのだが……なにか不都合があったかな?」
「あるわけないだろう! だが、良いのか? 俺は接客が苦手だし、なによりも、また嫉妬してしまうかもしれない」
「言っただろう、嫉妬するほど想ってくれていて嬉しいと」
ユリウスはトレイをテーブルに置き、アルベールの耳元に顔を寄せる。
「それに、君があんなに乱れてくれるなら嫉妬も悪くない」
「~~~~っっ!!!」
今度は顔を真っ赤に染め、わなわなと震えるアルベールにユリウスは大きな声を上げて笑ったのだった。
エロに入る前後では書いた時期が違います。そしてこのときはめちゃめちゃエロく書こう期間でした
ちょっとなに考えているのかわかりません。エロ描写が露骨なのがその証拠なのですが…。タイトルはchicca*様から