One and One

徒然なるままに劣情

 与えられた部屋に戻り衆目からようやく解放されたアルベールは窓際に置いてある椅子に腰を落とし、疲れたとばかりに長いため息を吐く。その一連の行動はアルベール本人でさえ本当に“疲れ切ったおじさん”のようだと思え、まだ自分は若いはずだと少しの焦りを覚える。そんなことを考えているアルベールの心境が読み取れるのか、ユリウスはくつくつと小さく笑いながら対面の椅子に座った。
「おやおや、親友殿はずいぶんとお疲れのようだ」
「好奇の目で見られるのは苦手でな……。それに、俺はお前と違ってまだこのユカタヴィラに着慣れてないんだ、仕方ないだろう?」
「フッ、早く慣れてもらいたいものだね。君が着て歩くだけで充分な宣伝になるのだから」
「それはわかっているさ。だが、なんというか……この格好は少し無防備すぎないか?」
 そう言ってアルベールはえり下を指で摘まんで生地の薄さをユリウスに見せるようにはためかせる。少し動かしただけでも生足がちらちらと出てしまい、全く防御力のない衣装に眉を顰めてしまう。改善の余地があるのではないか、とアルベールが口を開けばユリウスは難しい顔を浮かべて大きく息を漏らした。それが自分の意見に同意したからではないということだけは感じ取れたアルベールはユリウスの表情の意味がわからず首を傾げる。
「ユリウスも疲れたのか?」
「……誰かさんのおかげでね」
「お、俺か!?」
 二人しかいない場でユリウスが疲れた原因に他の者を挙げるほどアルベールは鈍くはない。が、鋭くもないためやはりどうして急にユリウスが疲れたと言い出したのかは皆目見当がつかずおろおろとしてしまう。その間にユリウスは額に手を当てて俯いてしまい、不安になったアルベールはテーブルに手をついて彼の方へ身を乗り出した。それからユリウスの頬に触れようともう片方の手を伸ばす。
 その触れるかどうかの刹那、アルベールは長い間ユリウスと触れていなかったことを思い出してしまった。
「────」
 ぴたり、とネジの切れた人形のようにアルベールは動きを止める。まだユリウスの頬には触れていない。じわり、と手に汗が滲み口から洩れる呼吸は自然と荒くなる。
 たとえば日中、仕事の最中にユリウスに触れてもアルベールはなにも思わない。おそらくそれは相手もそのはずだ。
 だが、こうして夜に二人きりの部屋で一度でも恋人としてのユリウスを思い出してしまえば、アルベールは途端にどうしたら良いのかわからなくなってしまう。
 触れたい、触れて欲しい。それから愛したいし愛されたいと心が叫んでいる。間が悪いことに忙しさにかまけて自己処理をしたのが一週間ほど前で、アルベールの身体はいともたやすく欲望が灯ってしまった。
 しかし翌日以降の仕事のことを考えればここで触れ合うのが得策ではないと理性が訴える。それでも心と身体はユリウスを感じたいと願い、理性と本能の間で揺れ動く感情にアルベールはなぜだか泣きそうになってしまった。
「ユリ、ウス」
 動揺が表れたかのように震えた声で名前を呼べばユリウスは顔を上げ、空に浮いたままのアルベールの手を躊躇なく握りしめた。
 触れたところが火傷したかと錯覚するほどの熱を感じるユリウスの体温にアルベールは全身から力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる。それを押しとどめたのはユリウスがアルベールの腰に手を回して引き寄せたからだ。テーブルの上に膝をのせて上半身はユリウスにしなだれるような体勢を取らされたアルベールは全身で感じる彼の熱に恍惚と息を漏らす。交わった視線がユリウスも自分と同様に欲望を灯らせていることを告げており、アルベールは無意識に唾を飲み込んだ。
 するり、とユリウスが握り合っていた指を絡ませる。その愛撫にも似た動きにアルベールは頬が熱くなり視線を逸らし、けれどもっととねだるように自らも相手の指に己のそれを絡ませた。じわじわと互いの熱が混ざり合い溶け合うような感覚に脳がくらくらと酸欠に近い状態になり呼吸の間隔が短くなる。
 たったこれだけの触れあいでいともたやすくアルベールは感じ入ってしまい、気恥ずかしさから逃れるように瞼を閉じた。
「…………アルベール」
 耳元で囁かれ、アルベールの肩が大きく跳ね上がる。ユリウスの髪が頬を撫でるたびに、あ、あ、と甘ったるい声が溢れてしまう。堪らず絡まっていない方の手をユリウスの背中に回してぎゅっとしがみつく。いつもの服装や裸とは違うユカタヴィラの感触に鼓動が早鐘を打った。
「無防備なのはユカタヴィラではなく、君の方だ」
 腰に回されていた手が臀部を撫で、その後えり下を捲って内太腿に触れる。その動きに、アルベールは先ほどユリウスが疲れたようにため息を吐いた理由を理解した。恋人が誘うように服をはためかせているのを見せられれば、なるほど確かにため息の一つも吐きたくなるだろう。
「……すまない」
 ゆっくりと瞳を開け、おそるおそるユリウスに視線を合わせる。予想に反してユリウスは穏やかな表情をしており、アルベールはうう、と唸りながら彼の肩にぐりぐりと額を押しつけた。
 こういう恋人の余裕を見せつけられたとき、アルベールはユリウスに一生勝てそうにないと実感してしまう。だが、負けたと思うことが決して嫌なわけではなく、それどころか愛おしさで胸がいっぱいになるのだ。どうしようもないくらいにユリウスを愛してしまっていることが幸せでたまらなかった。
 ユリウス、と名前を呼びながら顔を上げて唇を重ねる。触れ合うだけの軽いキスを繰り返し、それからどちらからともなく舌を絡ませた。握っていた手は離されてアルベールの後頭部を支えるように添えられ、自分ももっと密着するようにとユリウスのうなじに両手を回す。
 くちゅくちゅと水音が響き互いの呼気が熱の籠もったものになった頃合いにユリウスは内太腿に撫でていた手でアルベールの下着に触れる。まだ柔らかいそこを揉まれ、下着の上から先端をつつかれたアルベールは小さく嬌声を上げた。それでもキスを中断するという選択肢はなく、継続的に上がる声は全てユリウスの口の中に飲み込まれていく。
 じんわりと下着が湿ってきたのを感じ取ったアルベールは少しだけ唇をずらしてユリウスに問いかける。
「……するのか?」
「いや……明日の仕事に支障を来すわけにはいかない。今、君を抱いてしまったら止まらなくなりそうだ」
「そう、だな……俺も、きっと止まれそうにない。だが、その……このままというのも……」
 触れているユリウスも気づいているだろうが、アルベールの性器はすでに反応を示している。服装のせいでユリウスの性器がどうなっているかは見て取れないが、おそらく彼も屹立し始めているはずだ。
 ユリウスは逡巡した後、アルベールに「触って欲しい」と告げる。どこをなんて聞くまでもないだろう、アルベールはゆっくりと頷いてユリウスの性器に手を伸ばした。ユカタヴィラを捲り、下着から性器を露出させる。その間にユリウスもアルベールの下着をずり下げて完全に勃起した性器を握った。
「あっ、ふっ……ん、んんっ……!」
 久しぶりに感じる性器への気持ちよさにアルベールの背筋にぞくぞくとした感覚が走る。それが恋人によって与えられたものだと思えば一際快感が巡り、性器の先端からは次々と先走りが溢れていく。ユリウスは零れた体液を性器に塗り込むように先端から根元まで手を前後に動かし、ときおり陰嚢を手のひらで転がす。
「ひっ、ぁ、ああ……っ、ユリウス、それ、っ、だめだ……っ!」
 頭を振って快楽を逃がそうとしてもぎゅっと性器を握られてしまえばアルベールは陥落し淫らに腰が揺れてしまう。そうして一人快感に身を委ねていると咎めるように名前を呼ばれ、アルベールはおずおずとユリウスの性器への愛撫を開始する。
「あっ、ああっ、あつ、熱いっ……ユリウスっ、はっ、ぁ……んん、んっ……!」
 燃えているかのような性器の熱さにアルベールは喘ぐ。この熱がずっと欲しかった。この熱でめちゃくちゃにして欲しい、と理性がぐずぐずに蕩けていくのがわかる。
「ユリウス、ユリウス……っ」
 ひたすらに彼の名前を呼び、ユリウスの性器を夢中で扱いた。アルベールが乱れるのと連動するかのごとくユリウスの性器が脈打ち、滴を垂らす。
「アルベール……っ」
 ユリウスが小さく喘いだ声を聞いただけでアルベールは快感を得て彼の手を先走りでしとどに濡らしていく。二人の手の動きは激しくなるにつれ椅子がぎしぎしと音を響かせ、下半身から聞こえる水音は激しくなるばかりだ。
 ふと、ユリウスにユカタヴィラがはだけて胸元が露わになる。そこに汗が一筋流れたのを見てしまったアルベールは羞恥で全身を真っ赤に染めた。裸でセックスするよりもいやらしいことをしているようで否が応でも熱が昂ぶり、すぐに限界を迎えた。
「あっあっあっ、も、っ、ふ、も、もう……出ちゃ、あっ、あああぁ……っっ!!」
 ぶるぶると震えるアルベールを見てユリウスはカリ首をぐるりと指でなぞった後、亀頭をぐりぐりと押し込んだ。
「ひっ、あああっ、んんっ、あああぁああ────っっ!!」
 背を弓なりに反らし、アルベールはユリウスの手の中に精を放つ。達した拍子にユリウスの性器を強く握りしめてしまったせいでワンテンポ遅れて彼もアルベールの手のひらに射精した。
「は、ぁ、ふ、ぁ……ユリウス、キス、したい……」
 脱力して動けそうにないアルベールがぽつりと呟くと、ユリウスははにかみながら触れるだけの口づけを落としてくれる。その表情やアルベールを慈しむ行動にたまらなく愛おしさを覚えてしまう。
「愛してる、ユリウス」
「そんなこと、とっくの昔から知っているさ」
「ああ、そうだな」
 互いにくすくすと笑い合い、何度も口づけを交わす。
 直後、ユカタヴィラが汚れたことに頭を抱えることになるとは知る由もないが、この瞬間、二人は紛れもなく世界で一番幸福な恋人同士だった。

温泉イベント実装に喜んで書いた作品。イベント前に書き上げました
温泉ものと書くと今は企画潰れた私の好きだったゲームを思い出して切なくなります…。タイトルはchicca*様から