One and One

今宵は何れ花となる

 セックスをすることは難しく、けれど久方ぶりの恋人との逢瀬で一人で処理するのはあまりにも寂しすぎた。だが、触れ合えば触れ合うだけ相手が欲しくなることは確実で、熱に浮かされる二人が選んだのは疑似挿入感を与えるセックスだった。
 アルベールは窓を背に立ち、その目の前にユリウスが膝をつく。長く角張った男らしい指が衣擦れの音を立てながらユカタヴィラの帯を解いていった。少しずつ外気に晒される肌の面積が増えていくことにアルベールは呼気が荒くなるのを抑えきれない。
 はらり、と最後の紐が床に落ちて左右の重なりを押えるものがなくなったユカタヴィラはアルベールの裸を露わにする。
「……っ、」
 何度もユリウスに裸を見られているというのに未だに羞恥は消えず、それどころかユカタヴィラという姿のせいかいつもよりいたたまれない気持ちになりアルベールは顔を真っ赤にして俯いた。フッと恋人が微かに笑い、湿ってきている下着に指をかける。そのまま一気に脱がせてくれれば良いものを、ユリウスは下着をそのままにアルベールの性器の柔らかさを確かめるように揉み始めた。
「ぁ、ふっ、んん……っ」
 声が漏れてしまいアルベールは慌てて口を両手で押える。その様子を見たユリウスはますます口元の笑みを深くして下着の上から性器に唇を落とす。ちゅ、ちゅっとわざとらしく水音を響かせる恋人を睨みつけるが、上目遣いでこちらを見つめられれば文句など言えるわけもなくアルベールは快感に震えながらぎゅっと目を閉じた。
 視界を閉じれば感覚が鋭くなると過去の経験から知っていたが、どうしてもユリウスが自分を愛撫する姿を見るのが苦手だ。これからセックスするのだと目の当たりにさせられるからなのか、それとも親友のいやらしい姿を見るのが後ろめたいのかアルベールにはわからない。
 ただそのために目を瞑ってしまえば快楽を覚えた身体はユリウスが与える刺激にすぐ骨抜きになってしまう。一度も触られていない乳首がピンと立っているのにアルベールは気づいていて、それをユリウスが感じ取っているのも知っていた。自分を見る視線に含まれる欲望に焼かれてしまいそうだ、と思う。視線でさえ愛撫になることを、アルベールはその身をもって教えられた。
 アルベールがふーっ、ふーっ、と獣のような呼吸を必死に押えている間もユリウスは愛撫を続ける。硬度を持った性器を下着の上から揉んでいるため、見えてなくとも下着に濃いシミが出来ているのがわかってしまう。
 濡れた下着に不快感と羞恥心を覚え、たえきれなくなったアルベールはか細くユリウスに懇願した。
「も、いい、から……、脱がせてくれ……っ!」
 小鹿のように身体を震わせて羞恥にたえているアルベールは、自分が放った言葉でユリウスの視線が鋭くなったことに気づかない。
 気配でユリウスが立ち上がったことを察知したアルベールがおそるおそる瞳を開けると、その距離の近さにぎょっとして思わず後ずさる。かたんと窓枠に背中が当たり、これ以上後ろに下がれないという状況になったアルベールを閉じ込めるようにユリウスが壁に両手をつく。耳元に唇を寄せてきた恋人の髪が胸元に触れ、ひっ、と短い悲鳴を上げてしまう。
「……あまり、煽らないでくれ」
「っ、ふ、ぁ……っ!」
 劣情に彩られた声を直接耳へと囁かれたアルベールは背筋にぞくぞくとした感覚が走り、腰が抜けそうになる。それを支えたのはユリウスの腕で、そのまま窓の方を向くように言われてのろのろと身体を動かす。本格的な愛撫はまだだというのに力が入らない身体がいやらしく思え、それでもどこか興奮している自分をアルベールは恥じる。
 窓に手をつき、少しだけ、ほんの少しだけ欲望を曝け出すように中腰で臀部を突き出すような体勢を取った。これも煽っているということになるのだろうか、とアルベールは考えたが煽られて欲しい、という気持ちがあったことは否めない。久しぶりの行為に、恋人としての触れあいに、もう我慢なんて出来るわけがなかった。
「ユリ、ウス……」
 ──お前が欲しい、と言葉だけではなく全身で告げる。
 その瞬間、珍しくユリウスが焦ったように悪態をつきながらアルベールのユカタヴィラを腰まで捲り上げ、下着を膝まで下ろされた。窮屈なところから出た性器はぶるんと揺れ、完全に勃起しているのが見て取れる。
 はぁ、と熱の籠もった吐息を零しながらユリウスもまた自らのユカタヴィラをはだけさせ、性器を露出させているようだった。流石に後ろを振り向くのはアルベールの心情的に無理だったが、衣擦れの音や窓に反射する恋人の表情でその光景が容易に想像出来る。窓越しに見えるユリウスの僅かに開いた唇や頬を伝う一筋の汗の色気に唾を飲み込めば、不意に視線が合う。
 それから臀部にユリウスの性器が当てられ息を飲んだアルベールを尻目に、彼はその下の太腿に性器を挟み込んだ。
「ひっ! んっ、んぁ……っ!」
 先走りのぬるりとした粘液質の感覚と性器の熱さにアルベールが背を反らした隙にユリウスはこちらの太腿をがっちりと固定する。それからゆっくりと互いの性器を擦り合わせるように腰を前後に動かし始めた。
「あっ、あっ、あっ……! んっ、は、ぁ、んんんっっ……!」
 ユリウスの性器が自分の太腿で動いている光景は目に毒としかいいようのないものだった。互いの性器を擦り合わせているためちゃんと見ることは叶わないがちらちらと視界に入ってくるだけですでにアルベールのキャパシティを越えており、上手く思考が働かない。互いの性器から零れた先走りと汗がぬちぬちと淫靡な水音を響かせ、後ろからはユリウスの熱い吐息がうなじを擽る。視覚や聴覚からの刺激、そして直接与えられる強すぎる快感にアルベールはぼろぼろと涙を流す。
「んっ、はっ……! あああぁ……っ! あっ、やっ……んんんっ……!」
 快楽によって力が抜け、自分の力だけでは身体を支えることが出来なくなったアルベールは無我夢中で窓枠を掴み、その場に崩れまいとたえる。そのせいで窓に映る自分の姿をはっきりと認識してしまった。
 ユカタヴィラをただ羽織っただけの状態で裸体を曝け出し、顔は涙でぐしゃぐしゃに濡らしながら真っ赤に染まっている。肌を伝う汗の行き先を目で辿れば、ユリウスの手によって性感帯へと変えられた乳首が屹立しているのが見えた。そんなアルベールの後ろには同じように頬を赤らめた恋人が眉を顰めて快感にたえている。
「ひっ、ぅ……! ん、ふ、あ、ああああっ! あ、ぅく……っ!」
 いやらしい、とアルベールは全身を震わせる。自分もユリウスもなんて淫らな姿を、行為をしているのかと思うと否が応でも身体が昂ぶってしまう。後孔は性器が欲しいとひくひくと収縮をし、それが出来ないと理解しているアルベールの胸中に切なさが広がる。それを埋めるために顔だけを後ろに向けてユリウスにキスをねだれば彼は少しだけ目を見開いて驚いたようだった。だがすぐに噛みつくようなキスで口内を蹂躙され、切なさが徐々に埋められてく。
「ん、ん、んむっ、ぅ、ぢゅ、むう……っ、んっ、んんんっっ……!?」
 舌を絡ませ互いの唾液を混ぜ合わせて飲み込んでいる途中で、ユリウスはアルベールの性器を握り、扱き始める。さらに強い直接的な刺激に抗議するがその声は全て二人の口の中に吸い込まれ、実際に上がったものはくぐもった喘ぎ声にしかならなかった。
「んんっ! んっんっんっ、ふ、っ、ぢゅっ、んくっ、んっん……っ!!」
 急激に射精寸前まで追い詰められてもなお口づけを止めようとは思えず、アルベールは息も絶え絶えになりながら呼吸の合間にユリウスへ愛を囁く。
「ん、ん、ちゅ、っ、ふ、あ……っ! んむ、すき、すきだ、ユリウス……はっ、あぁああ……っ!!」
 カリ首をぐるりと指でなぞられ、亀頭をぐりぐりと押し潰すように愛撫されてアルベールの視界がちかちかと光る。絶頂まであと一歩という状態で、目の前にある愛しい恋人の感じ入った表情を見せられて理性が焼き切れてしまう。
 性器に触れるユリウスの手を掴み、自分の腹部に持っていきアルベールは本能のままに叫ぶ。
「あ、あ、ふ、あ! こ、ここ、ほし……っ、中に、欲しい……っっ!!」
「──────っ!」
「ひっ、あ、ああああぁ……っ! あ、ああ、ひ、んんんんっっ──────!!!」
 アルベールの言葉を受けてユリウスが腰を大きく前後させ、ばつんと肉がぶつかった瞬間二人はほぼ同時に精を放つ。
「は、あ……はぁ、はぁ、あ……はあ──…………」
 獣みたいな荒い呼吸を落ち着かせようと全身で呼吸するアルベールは太腿を流れる性器の熱さに身震いをする。ともすれば再び熱が灯りそうになるのを懸命にたえ、ユリウスが自分の太腿から性器を抜き取るのを見ていた。その感覚にさえも熱の籠もった吐息を零せば、身体が反転させられる。
 窓枠に乱暴に手をついたユリウスは汗で頬に張りついた髪を拭うこともせず、瞳にぎらぎらと欲望を彩らせながら告げた。
「────この仕事が終わったら、覚悟することだ」
 情欲を隠さない掠れた声にアルベールは恍惚として頷き、その日が待ちきれないとばかりにユリウスにキスをしたのだった。

温泉イベント実装に喜んで書いた作品。素股が書きたかっただけだと思います
タイトルはchicca*様から