リドエー&マレリリ没小説 いつかは続きを書きたいエース、プラチナジャケットエピソードネタバレあり続きを読む 黎明の国、国立美術館。様々な展示物があるなか、エースはトランプ兵が一糸乱れぬ姿で隊列している絵画の前でふと足を止める。入寮してから行った行進を思い出し、自分だけが褒められた記憶にほんの少しだけ頬が緩む。だが、すぐにその笑みはため息へと変わり、嬉しかった思い出が今の自分の心境に塗り替えされていく。 トランプ兵。ハーツラビュル。なんでもない日のケーキ。寮長。真っ赤なバラ。リドル・ローズハート。連想ゲームのように様々な物、場所、人物が頭の中に浮かび上がり、そこにはエースが考えないでいようと思っていた人物がいた。 未練がましい自分に苦笑いするしかなく、エースは早く立ち去ろうと一歩を踏み出す。その瞬間に背後から声をかけられた。 「ほう、なかなか壮観な絵画じゃのう」 「びっ、くりしたぁ……。リリア先輩、急に話しかけないでくださいよ~」 「くふふ、わしは神出鬼没な美少年じゃからのう。それは無理な相談じゃ」 気配もなく現れたリリアはエースの隣に立ち、顔を覗き込んでくる。 「それで? お主はずっとこの絵画を見ていたようじゃが、自分の寮でも思い出したか?」 何もかも見透かすような紅い瞳──まるでバラのようだ──から逃れるように視線を絵画に戻し、エースは「あー……」と言葉を濁した。 思い出したのは本当だが、その内容をバカ正直に言うことは出来ない。リリアならば言っても問題はないだろうが、彼だからこそエースは言いたくはなかった。 リリアは、エースと違い想いを成就させた人物なのだから。 「まあ、そうっすね。入寮して初めての行進を思い出したんですよ、ほんともう最悪な出来でこの絵のトランプ兵とは似ても似つかないカンジ。全員動きがバラバラで、めちゃくちゃ怒られて超ダサかった。ま、オレは褒められましたけどね♪」 「ほう……」 嘘は言ってはいない、初めての行進を思い出したのは事実である。だが含みのある視線を向けてくるリリアはエースが言葉に隠した裏の気持ちに勘づいているかのようににやりと笑った。 「その割には随分と切ない表情をしておったがな。まるで恋をしているかのように」 「……はっ、そんなわけ……」 声が震えながらも返した精一杯の強がりにリリアは穏やかに笑い、エースの頭を撫でる。よしよし、と親が子に向けるような仕草に胸の奥から複雑な感情が湧いて無性に泣き出したくなってしまう。手のひらをぎゅっと強く握りしめ涙を堪えながらリリアを睨み付けた。 エースの表情に呆けた顔を見せたリリアはすぐさま微笑んでその場からふわりと浮き上がる。そのまま絵画からエースを隠すように頭を抱えて「辛いのう」と呟いた。 「己の感情だというのに、全く言うことを聞かん。醜い感情や嬉しい気持ちが勝手に溢れて止められず、ずっと振り回されてばかりじゃ」 「────」 「お主もまた、辛い恋をしておるのじゃな」 慈しむような声色と抱きしめられているという温かさにエースの虚勢が壊されていく。ひくついた喉から漏れた声は意味を持たず、滲む視界を認識したくないと瞼を閉じる。 みっともない、泣くな、と涙を止めようとすればするほど感情が高ぶり、瞳から零れていく涙を止められない。ずっと一人で抱えていた感情が頬を伝う滴となって決壊してしまう。 寮長。リドル寮長。どうしてここにいるのがリドルではないのだろうか、と考えると同時にここにいるのが彼ではないことにエースは安堵を覚えていた。 好きです、と伝えたくて、けれども伝えないことを決めた感情が体の中を駆け巡っている。 いつからリドルを好きになったのかなどわからないくらいに、エースの視線は彼を追ってしまうようになった。出会った最初は融通の利かない、嫌な奴だと絶対に仲良くなんて出来ないと思っていたのだ。それでもリドルの環境を知り、望みを聞いて、王として立ち向かう姿を見てしまったときからエースの感情は次第に新たな感情を生み出してしまった。誰よりもリドルに褒められたくて柄にもなく勉学に励み、それが叶ったときの喜び。トレイと睦まじく談笑している様子を見たときの嫉妬と悲しみ。触れたい、触れて欲しいと願ってしまったときに、エースはリドルのことが好きなのだと認めてしまった。 絶対に叶わない恋を、エースはしてしまったのだ。 「くそ……っ、こんな、オレ、ダサすぎ……っ」 「ふふっ、良い良い。泣けば心も軽くなるじゃろ」 「そんな、のっ、リリア先輩に、頼んでないじゃん……っ!」 「まあそうなんじゃが、泣きそうな顔で立ち尽くすお主を見たら流石に放っておくことは出来ぬ。わしは優しい先輩じゃからのう!」 「どこが……こんな、可愛い後輩を泣かせておいて……っ!」 「くふふ、生意気な口じゃのう~。こうしてやるわい!」 エースの頭を離したリリアはそのまま指を頬へと滑らせて軽く左右に引っ張る。抗議の声を上げるエースを無視し、頬を左右だけではなく上下にも動かし始めるリリアに涙も止まっていく。少しだけリリアから逃れようと身動ぎすれば彼は意図を読み取ったかのようにぱっと身を離した。 「あ~もう、ほんとマレウス先輩って良くリリア先輩の手綱握れますね。尊敬するわ」 「長い付き合いじゃからのう。それに惚れた弱みもある」 「あっ、そう……。堂々と恋人ですって言えるのほんと羨ましい。オレの恋なんて絶対に叶わないし」 涙を拭いながら零した言葉にリリアは「そうなのか?」と驚いた表情を見せる。泣いたことで少しだけ気が晴れたエースは頷いてからもう一度羨ましい、と呟いた。 「オレの好きな相手って、ぶっちゃけるとリドル寮長なんですよね。ね、絶対に無理でしょ。あの真面目な人がオレみたいな奴を好きになるなんて絶対にあり得ない。あり得るとしたらトレイ先輩とか? ほら、トレイ先輩って寮長のこと甘やかしてるし、寮長も甘えてるなってわかるんだよね」 「それは、ずっと見てきたからか?」 質問のようで断言するかのような口調にエースはただただ苦笑する。 「リリア先輩って容赦ないっすね。そうですよ、好きって気がついてからずっとオレはリドル寮長だけを見ていました。でも向こうは一切気づかねえの、もうここまでくると笑える」 だから、諦めようと決めたんだ。か細く、自分に言い聞かせるような囁きのような言葉は、けれどリリアには届いたらしい。 想いを告げようとは思わないのか、と投げかけられた質問にエースは首を横に振る。 「困らせたくないし、正直、振られるってわかってて告白なんてしたくない」 「だから、諦めると?」 「それが正解でしょ? 誰も傷つかない、不幸にならないじゃん」 「……わしは、そうは思わん」 「リリア先輩は、想いが叶ったから言えるんじゃん。オレの気持ちなんて、叶わない恋をした奴の気持ちなんてわかんないよ」 卑怯な言い方だ、とエースは思う。少なくとも八つ当たりで先輩に投げつける言葉ではないと理解していたが滑り出た言葉は止められなかった。 「幸せな恋人同士なリリア先輩には、絶対にわからないよ」 「幸せな恋人同士のう……。ふふ、ではここでお主に問題じゃ」 「は?」 「赤ん坊はどうやって出来ると思う?」 「赤ん坊って、そりゃあ、もちろん男女が……」 いきなり変な問題を出すリリアに呆気に取られながらエースは答え、その回答に彼は良く出来ましたとばかりに満面の笑みを浮かべる。しかし視線はエースから絵画へと逸らされ、釣られるように自分もトランプ兵の絵画へと顔を向けた。 「そう、子は男女間の営みで出来る。それは妖精であるわしやマレウスも変わらない。どんなに願っても、わしは子を産めん。……じゃが、マレウスには跡継ぎが必要じゃ」 「……え? は、ちょっと意味が、」 「お主、わしとマレウスを幸せな恋人同士じゃと言ったな? じゃが、将来的にマレウスには跡継ぎが必要になる。そのとき、子を産めないわしは必要ない。……わしは、いつかマレウスと別れる。そしてマレウスは、誰かと結婚をして子を成す」 「…………」 リリアが告げた言葉はエースの想像を超えており、理解するのに少しばかりの時間を要した。言葉を咀嚼し、飲み込み認識した後にハッとリリアを見れば彼は寂しそうな笑みを浮かべているのが見えた。 「お主の言う幸せな恋人の姿は、きっと学生のうちだけじゃ。茨の谷に戻れば、わしはただの臣下になる。マレウスと結ばれることは、ない」 「それ、マレウス先輩も同意の上なんですか……?」 その言葉にリリアはただ曖昧に笑みを浮かべる。沈黙は肯定であると言ったのは誰だっただろうか、そんなことを思い出しながら見たリリアの微笑みにエースも胸が苦しくなった。 「そんな、じゃあどうしてリリア先輩はマレウス先輩と付き合ったんですか。別れるって、辛い思いをするってわかっていたんなら、最初から諦めれば良かったのに……!」 「……もう二度と、後悔をしたくなかったからじゃ。わしは一度、諦めて後悔したことがある。手を取れなかった、一緒に逃げたかった。行動をしなかった結果、わしは大切な人を失ってしまった。そのときの後悔を、わしは痛いほどに知っておる」 「…………」 「お主は、後悔のないようにな。少しばかりお主より長生きをしている年寄りからのアドバイスじゃ」 リリアは最後にもう一度だけエースの頭を撫で、去って行く。ただ一人残されたエースはその場に立ち尽くし、迷子のように途方に暮れた。 マレウスとリリアの問題はエースが抱えるには重く、けれど誰かに言うことも出来ないものだ。またリリアが最後に残した後悔のないように、という言葉もまた鉛のように心に積もっている。諦めると決断したことに後悔はない、ないはずなのだ。 ──じゃあ、なんでこんなにも苦しいんだろう。 「……おや、そこにいるのはエースかい?」 「りょう、ちょう……」 なんて出来すぎたタイミングだろうか。会いたくなかったのに、会えて嬉しいと心が震えている。俯いてしまったエースの隣にリドルは並び、そっとハートのスートに触れた。 「りょ、寮長!!?」 大げさなほどに肩を震わせ、思わず後退りしたエースにリドルは眉を顰めながら腰に手を当てて体をぐっと前に出して二人の距離を近づける。 「……泣いていたのかい?」 「は!?!」 「メイクが乱れているし、触った頬は濡れていたよ。さあ、なにがあったのか話すんだ」 「あー……えっとぉ、別になにも……」 「ボクに隠しごとかい? 良い度胸だね、よほど首を刎ねられたいとみえる」 「暴君!! あ、ウソウソ、冗談ですって寮長! だからユニーク魔法だけは勘弁してください!!」 本気で首を刎ねようとしたリドルを慌てて制止する。だが依然とこちらをじっと見つめてくるリドルは何があったのかを聞かない限り立ち去ろうとはしないだろう。当然リリアの話をするわけにはいかない、欠伸をしましたと下手に誤魔化そうとしてもリドルには見破られるのだろうというのは過去の教訓から学んでいた。 「……あの、さ。リドル寮長には諦めるべきなのに、どうしても諦めきれないことってある?」 「なんだい、急に。まあ良い、その質問に答えてあげる代わりにちゃんとなにがあったか答えるんだよ、いいね? それで、諦めるべきなのに、諦めきれないことか……。あったよ、いっぱいね」 「……それって、やっぱり母親関係?」 「キミはデリカシーというものを忘れたのかい? 正解だよ。あの頃のボクはもっとトレイの作ったケーキを食べたかったし、もっといっぱい遊んでいたかったここまで。このあとリドルにキミが諦めないことを教えてくれたから今のボクがいる、と言われてエースは恋を諦めるのをやめるしマレリリはこの後二人で話してマレウスがリリアのことを諦めないと言うがリリアは自分の寿命に気づいているから泣きそうな顔をマレウスに見られないように抱きつき、どうか許してくれと願うオチ畳む 2023.10.8(Sun) 23:47:56 マレリリ
エース、プラチナジャケットエピソードネタバレあり
黎明の国、国立美術館。様々な展示物があるなか、エースはトランプ兵が一糸乱れぬ姿で隊列している絵画の前でふと足を止める。入寮してから行った行進を思い出し、自分だけが褒められた記憶にほんの少しだけ頬が緩む。だが、すぐにその笑みはため息へと変わり、嬉しかった思い出が今の自分の心境に塗り替えされていく。
トランプ兵。ハーツラビュル。なんでもない日のケーキ。寮長。真っ赤なバラ。リドル・ローズハート。連想ゲームのように様々な物、場所、人物が頭の中に浮かび上がり、そこにはエースが考えないでいようと思っていた人物がいた。
未練がましい自分に苦笑いするしかなく、エースは早く立ち去ろうと一歩を踏み出す。その瞬間に背後から声をかけられた。
「ほう、なかなか壮観な絵画じゃのう」
「びっ、くりしたぁ……。リリア先輩、急に話しかけないでくださいよ~」
「くふふ、わしは神出鬼没な美少年じゃからのう。それは無理な相談じゃ」
気配もなく現れたリリアはエースの隣に立ち、顔を覗き込んでくる。
「それで? お主はずっとこの絵画を見ていたようじゃが、自分の寮でも思い出したか?」
何もかも見透かすような紅い瞳──まるでバラのようだ──から逃れるように視線を絵画に戻し、エースは「あー……」と言葉を濁した。
思い出したのは本当だが、その内容をバカ正直に言うことは出来ない。リリアならば言っても問題はないだろうが、彼だからこそエースは言いたくはなかった。
リリアは、エースと違い想いを成就させた人物なのだから。
「まあ、そうっすね。入寮して初めての行進を思い出したんですよ、ほんともう最悪な出来でこの絵のトランプ兵とは似ても似つかないカンジ。全員動きがバラバラで、めちゃくちゃ怒られて超ダサかった。ま、オレは褒められましたけどね♪」
「ほう……」
嘘は言ってはいない、初めての行進を思い出したのは事実である。だが含みのある視線を向けてくるリリアはエースが言葉に隠した裏の気持ちに勘づいているかのようににやりと笑った。
「その割には随分と切ない表情をしておったがな。まるで恋をしているかのように」
「……はっ、そんなわけ……」
声が震えながらも返した精一杯の強がりにリリアは穏やかに笑い、エースの頭を撫でる。よしよし、と親が子に向けるような仕草に胸の奥から複雑な感情が湧いて無性に泣き出したくなってしまう。手のひらをぎゅっと強く握りしめ涙を堪えながらリリアを睨み付けた。
エースの表情に呆けた顔を見せたリリアはすぐさま微笑んでその場からふわりと浮き上がる。そのまま絵画からエースを隠すように頭を抱えて「辛いのう」と呟いた。
「己の感情だというのに、全く言うことを聞かん。醜い感情や嬉しい気持ちが勝手に溢れて止められず、ずっと振り回されてばかりじゃ」
「────」
「お主もまた、辛い恋をしておるのじゃな」
慈しむような声色と抱きしめられているという温かさにエースの虚勢が壊されていく。ひくついた喉から漏れた声は意味を持たず、滲む視界を認識したくないと瞼を閉じる。
みっともない、泣くな、と涙を止めようとすればするほど感情が高ぶり、瞳から零れていく涙を止められない。ずっと一人で抱えていた感情が頬を伝う滴となって決壊してしまう。
寮長。リドル寮長。どうしてここにいるのがリドルではないのだろうか、と考えると同時にここにいるのが彼ではないことにエースは安堵を覚えていた。
好きです、と伝えたくて、けれども伝えないことを決めた感情が体の中を駆け巡っている。
いつからリドルを好きになったのかなどわからないくらいに、エースの視線は彼を追ってしまうようになった。出会った最初は融通の利かない、嫌な奴だと絶対に仲良くなんて出来ないと思っていたのだ。それでもリドルの環境を知り、望みを聞いて、王として立ち向かう姿を見てしまったときからエースの感情は次第に新たな感情を生み出してしまった。誰よりもリドルに褒められたくて柄にもなく勉学に励み、それが叶ったときの喜び。トレイと睦まじく談笑している様子を見たときの嫉妬と悲しみ。触れたい、触れて欲しいと願ってしまったときに、エースはリドルのことが好きなのだと認めてしまった。
絶対に叶わない恋を、エースはしてしまったのだ。
「くそ……っ、こんな、オレ、ダサすぎ……っ」
「ふふっ、良い良い。泣けば心も軽くなるじゃろ」
「そんな、のっ、リリア先輩に、頼んでないじゃん……っ!」
「まあそうなんじゃが、泣きそうな顔で立ち尽くすお主を見たら流石に放っておくことは出来ぬ。わしは優しい先輩じゃからのう!」
「どこが……こんな、可愛い後輩を泣かせておいて……っ!」
「くふふ、生意気な口じゃのう~。こうしてやるわい!」
エースの頭を離したリリアはそのまま指を頬へと滑らせて軽く左右に引っ張る。抗議の声を上げるエースを無視し、頬を左右だけではなく上下にも動かし始めるリリアに涙も止まっていく。少しだけリリアから逃れようと身動ぎすれば彼は意図を読み取ったかのようにぱっと身を離した。
「あ~もう、ほんとマレウス先輩って良くリリア先輩の手綱握れますね。尊敬するわ」
「長い付き合いじゃからのう。それに惚れた弱みもある」
「あっ、そう……。堂々と恋人ですって言えるのほんと羨ましい。オレの恋なんて絶対に叶わないし」
涙を拭いながら零した言葉にリリアは「そうなのか?」と驚いた表情を見せる。泣いたことで少しだけ気が晴れたエースは頷いてからもう一度羨ましい、と呟いた。
「オレの好きな相手って、ぶっちゃけるとリドル寮長なんですよね。ね、絶対に無理でしょ。あの真面目な人がオレみたいな奴を好きになるなんて絶対にあり得ない。あり得るとしたらトレイ先輩とか? ほら、トレイ先輩って寮長のこと甘やかしてるし、寮長も甘えてるなってわかるんだよね」
「それは、ずっと見てきたからか?」
質問のようで断言するかのような口調にエースはただただ苦笑する。
「リリア先輩って容赦ないっすね。そうですよ、好きって気がついてからずっとオレはリドル寮長だけを見ていました。でも向こうは一切気づかねえの、もうここまでくると笑える」
だから、諦めようと決めたんだ。か細く、自分に言い聞かせるような囁きのような言葉は、けれどリリアには届いたらしい。
想いを告げようとは思わないのか、と投げかけられた質問にエースは首を横に振る。
「困らせたくないし、正直、振られるってわかってて告白なんてしたくない」
「だから、諦めると?」
「それが正解でしょ? 誰も傷つかない、不幸にならないじゃん」
「……わしは、そうは思わん」
「リリア先輩は、想いが叶ったから言えるんじゃん。オレの気持ちなんて、叶わない恋をした奴の気持ちなんてわかんないよ」
卑怯な言い方だ、とエースは思う。少なくとも八つ当たりで先輩に投げつける言葉ではないと理解していたが滑り出た言葉は止められなかった。
「幸せな恋人同士なリリア先輩には、絶対にわからないよ」
「幸せな恋人同士のう……。ふふ、ではここでお主に問題じゃ」
「は?」
「赤ん坊はどうやって出来ると思う?」
「赤ん坊って、そりゃあ、もちろん男女が……」
いきなり変な問題を出すリリアに呆気に取られながらエースは答え、その回答に彼は良く出来ましたとばかりに満面の笑みを浮かべる。しかし視線はエースから絵画へと逸らされ、釣られるように自分もトランプ兵の絵画へと顔を向けた。
「そう、子は男女間の営みで出来る。それは妖精であるわしやマレウスも変わらない。どんなに願っても、わしは子を産めん。……じゃが、マレウスには跡継ぎが必要じゃ」
「……え? は、ちょっと意味が、」
「お主、わしとマレウスを幸せな恋人同士じゃと言ったな? じゃが、将来的にマレウスには跡継ぎが必要になる。そのとき、子を産めないわしは必要ない。……わしは、いつかマレウスと別れる。そしてマレウスは、誰かと結婚をして子を成す」
「…………」
リリアが告げた言葉はエースの想像を超えており、理解するのに少しばかりの時間を要した。言葉を咀嚼し、飲み込み認識した後にハッとリリアを見れば彼は寂しそうな笑みを浮かべているのが見えた。
「お主の言う幸せな恋人の姿は、きっと学生のうちだけじゃ。茨の谷に戻れば、わしはただの臣下になる。マレウスと結ばれることは、ない」
「それ、マレウス先輩も同意の上なんですか……?」
その言葉にリリアはただ曖昧に笑みを浮かべる。沈黙は肯定であると言ったのは誰だっただろうか、そんなことを思い出しながら見たリリアの微笑みにエースも胸が苦しくなった。
「そんな、じゃあどうしてリリア先輩はマレウス先輩と付き合ったんですか。別れるって、辛い思いをするってわかっていたんなら、最初から諦めれば良かったのに……!」
「……もう二度と、後悔をしたくなかったからじゃ。わしは一度、諦めて後悔したことがある。手を取れなかった、一緒に逃げたかった。行動をしなかった結果、わしは大切な人を失ってしまった。そのときの後悔を、わしは痛いほどに知っておる」
「…………」
「お主は、後悔のないようにな。少しばかりお主より長生きをしている年寄りからのアドバイスじゃ」
リリアは最後にもう一度だけエースの頭を撫で、去って行く。ただ一人残されたエースはその場に立ち尽くし、迷子のように途方に暮れた。
マレウスとリリアの問題はエースが抱えるには重く、けれど誰かに言うことも出来ないものだ。またリリアが最後に残した後悔のないように、という言葉もまた鉛のように心に積もっている。諦めると決断したことに後悔はない、ないはずなのだ。
──じゃあ、なんでこんなにも苦しいんだろう。
「……おや、そこにいるのはエースかい?」
「りょう、ちょう……」
なんて出来すぎたタイミングだろうか。会いたくなかったのに、会えて嬉しいと心が震えている。俯いてしまったエースの隣にリドルは並び、そっとハートのスートに触れた。
「りょ、寮長!!?」
大げさなほどに肩を震わせ、思わず後退りしたエースにリドルは眉を顰めながら腰に手を当てて体をぐっと前に出して二人の距離を近づける。
「……泣いていたのかい?」
「は!?!」
「メイクが乱れているし、触った頬は濡れていたよ。さあ、なにがあったのか話すんだ」
「あー……えっとぉ、別になにも……」
「ボクに隠しごとかい? 良い度胸だね、よほど首を刎ねられたいとみえる」
「暴君!! あ、ウソウソ、冗談ですって寮長! だからユニーク魔法だけは勘弁してください!!」
本気で首を刎ねようとしたリドルを慌てて制止する。だが依然とこちらをじっと見つめてくるリドルは何があったのかを聞かない限り立ち去ろうとはしないだろう。当然リリアの話をするわけにはいかない、欠伸をしましたと下手に誤魔化そうとしてもリドルには見破られるのだろうというのは過去の教訓から学んでいた。
「……あの、さ。リドル寮長には諦めるべきなのに、どうしても諦めきれないことってある?」
「なんだい、急に。まあ良い、その質問に答えてあげる代わりにちゃんとなにがあったか答えるんだよ、いいね? それで、諦めるべきなのに、諦めきれないことか……。あったよ、いっぱいね」
「……それって、やっぱり母親関係?」
「キミはデリカシーというものを忘れたのかい? 正解だよ。あの頃のボクはもっとトレイの作ったケーキを食べたかったし、もっといっぱい遊んでいたかった
ここまで。このあとリドルにキミが諦めないことを教えてくれたから今のボクがいる、と言われてエースは恋を諦めるのをやめるしマレリリはこの後二人で話してマレウスがリリアのことを諦めないと言うがリリアは自分の寿命に気づいているから泣きそうな顔をマレウスに見られないように抱きつき、どうか許してくれと願うオチ畳む