マレリリ小話毎日更新企画中(毎日とは言っていない)続きを読む マレウスはリリアに対して好き、という言葉を告げたことがない。 たとえばリリアが屈託なく笑うとき、シルバーやセベクと共にいるとき、ただ真っ直ぐにこちらを見るときに彼を好きだな、とマレウスは思うことがある。だがそのときに感じた想いをリリアに告げたことはなかった。 多分告げない方が良いのだと、理由はわからなくともそう思っていた。そのせいで心が苦しく思うことや悲しくなることがほんの少しだけあったが、それでも良いと思っていたのだ。 だって二人の関係はいつまでも変わらない。マレウスの隣にはリリアがいて、彼の隣には自分がいるのだとそう信じて疑わなかった。 そう、信じていたのだ。リリアの一言を聞くまでは。 「わしは、この学園を中退する」 リリが魔力を失いかけていることにマレウスは全く気づかなかった。また、リリアもマレウスに対して一言もそんなことを伝えなかった。 赤竜の国に行くのだとリリアは言う。残念です、とセベクが悲しそうに呟き、シルバーはなにかを堪えるようにぎゅっと手を強く握りながら親父殿が決めたことなら、と寂しそうに笑った。マレウスだけが、リリアのことを見送る言葉を言えずにいた。 どうして皆は別れの言葉を告げることが出来るのだろうか。ディアソムニア寮生だけではなく他寮の生徒、教師までもがリリアの中退を悲しみ、それでも別れの言葉を投げかける。 ──もう二度と会えないはずなのに、だ。 赤竜の国など誰もがいける場所ではない。この学園がリリアの姿を見る最後の場所になるのに、誰一人彼を引き留める者はいなかった。 自分だけが間違っているのだろうか、とマレウスは大勢の人間がいるはずの学園で孤独を感じた。 だって想像もしていなかったのだ。リリアがマレウスの傍からいなくなるなど、もう二度と彼の笑顔も声もなにもかもがなくなってしまうなんて。 心が張り裂けるように痛い。その痛さが、リリアを好きということの証など知りたくもなかった。 「……マレウス、わしは、」 最後の夜だから、とマレウスの部屋に訪れたリリアに心境を吐露すれば彼は寂しそうに笑う。別れの言葉など聞きたくない、と抱きしめたリリアの身体はマレウスよりも小さく、それでもこんなにも自分にとって大きな存在だった。 「……傍にいてくれ、リリア。何処にも行かないで、ここにいてくれ……」 「マレウス……」 ──好きだ、と禁忌にしていた言葉を告げる。その瞬間、リリアが息を飲んだ。 好きだ、愛していると今までいなかったときを埋めるようにマレウスはただひたすらリリアへの愛の言葉を囁く。そうすればリリアがマレウスの傍にいることを選んでくれると、そう思いたかった。 「すまぬ……マレウス。わしも、お主を愛している。だから、その望みは聞けぬ」 ──さようなら、とリリアは頬を濡らしながら唇を重ねる。 それが決別のためのキスだとマレウスは気づいてしまった。この瞬間に、リリアは恋心を捨てたのだと。そして同時にマレウスの恋心を打ち砕いたのだ、と。 そうして部屋から出て行くリリアを引き留めることは出来なかった。もっと早く、想いを告げていれば良かったのだろうかと後悔だけが過ぎる。関係を変えることを恐れなければ、リリアは傍にいてくれただろうか。 どうすれば良かったのだろう。なにが正解だったのか、マレウスにはわからない。 だから、だから──。 「どうか受け取って欲しい……僕の心からの贈り物を」 正解を教えてくれないのならば、正解を作るしかないのだ。 『運命の糸車よ、災いの糸を紡げ。深淵の王たる我が授けよう』 ──祝福を。 全ての者に。そして、マレウスとリリアの恋心に、永遠の祝福を。畳む 2023.10.10(Tue) 00:10:08 マレリリ
(毎日とは言っていない)
マレウスはリリアに対して好き、という言葉を告げたことがない。
たとえばリリアが屈託なく笑うとき、シルバーやセベクと共にいるとき、ただ真っ直ぐにこちらを見るときに彼を好きだな、とマレウスは思うことがある。だがそのときに感じた想いをリリアに告げたことはなかった。
多分告げない方が良いのだと、理由はわからなくともそう思っていた。そのせいで心が苦しく思うことや悲しくなることがほんの少しだけあったが、それでも良いと思っていたのだ。
だって二人の関係はいつまでも変わらない。マレウスの隣にはリリアがいて、彼の隣には自分がいるのだとそう信じて疑わなかった。
そう、信じていたのだ。リリアの一言を聞くまでは。
「わしは、この学園を中退する」
リリが魔力を失いかけていることにマレウスは全く気づかなかった。また、リリアもマレウスに対して一言もそんなことを伝えなかった。
赤竜の国に行くのだとリリアは言う。残念です、とセベクが悲しそうに呟き、シルバーはなにかを堪えるようにぎゅっと手を強く握りながら親父殿が決めたことなら、と寂しそうに笑った。マレウスだけが、リリアのことを見送る言葉を言えずにいた。
どうして皆は別れの言葉を告げることが出来るのだろうか。ディアソムニア寮生だけではなく他寮の生徒、教師までもがリリアの中退を悲しみ、それでも別れの言葉を投げかける。
──もう二度と会えないはずなのに、だ。
赤竜の国など誰もがいける場所ではない。この学園がリリアの姿を見る最後の場所になるのに、誰一人彼を引き留める者はいなかった。
自分だけが間違っているのだろうか、とマレウスは大勢の人間がいるはずの学園で孤独を感じた。
だって想像もしていなかったのだ。リリアがマレウスの傍からいなくなるなど、もう二度と彼の笑顔も声もなにもかもがなくなってしまうなんて。
心が張り裂けるように痛い。その痛さが、リリアを好きということの証など知りたくもなかった。
「……マレウス、わしは、」
最後の夜だから、とマレウスの部屋に訪れたリリアに心境を吐露すれば彼は寂しそうに笑う。別れの言葉など聞きたくない、と抱きしめたリリアの身体はマレウスよりも小さく、それでもこんなにも自分にとって大きな存在だった。
「……傍にいてくれ、リリア。何処にも行かないで、ここにいてくれ……」
「マレウス……」
──好きだ、と禁忌にしていた言葉を告げる。その瞬間、リリアが息を飲んだ。
好きだ、愛していると今までいなかったときを埋めるようにマレウスはただひたすらリリアへの愛の言葉を囁く。そうすればリリアがマレウスの傍にいることを選んでくれると、そう思いたかった。
「すまぬ……マレウス。わしも、お主を愛している。だから、その望みは聞けぬ」
──さようなら、とリリアは頬を濡らしながら唇を重ねる。
それが決別のためのキスだとマレウスは気づいてしまった。この瞬間に、リリアは恋心を捨てたのだと。そして同時にマレウスの恋心を打ち砕いたのだ、と。
そうして部屋から出て行くリリアを引き留めることは出来なかった。もっと早く、想いを告げていれば良かったのだろうかと後悔だけが過ぎる。関係を変えることを恐れなければ、リリアは傍にいてくれただろうか。
どうすれば良かったのだろう。なにが正解だったのか、マレウスにはわからない。
だから、だから──。
「どうか受け取って欲しい……僕の心からの贈り物を」
正解を教えてくれないのならば、正解を作るしかないのだ。
『運命の糸車よ、災いの糸を紡げ。深淵の王たる我が授けよう』
──祝福を。
全ての者に。そして、マレウスとリリアの恋心に、永遠の祝福を。
畳む