うどん好き
No.36, No.35, No.34, No.33, No.32, No.31, No.30[7件]
マレリリ小話毎日更新企画中その6(毎日とは言っていない)
昔の没ネタを完成させた版。続きも書きたい。監督生視点あり
リリアがその写真を手に取った瞬間、まるで魔法をかけられたかのように動けなくなった。
「流石マレウス様! 写真でも麗しくいらっしゃる……! シルバーもそう思うだろう!」
「うるさい、セベク。だが、確かにお前の言うとおりだな」
隣でわいわいと騒ぐ声もどこか遠くに聞こえるほどにリリアは目の前の写真に心を奪われている。
制服や礼服よりも砕けた感じの衣装は表情も相まっていつものぽわぽわとした雰囲気──誰がなんと言おうとリリアにはそう見えるのだ──が消え去り、男らしさを強調していた。ポケットに手を入れるなど絶対にしない仕草には、どこか見てはいけないものを見てしまったかのような背徳感と蠱惑的な魅力があり思わず唾を飲み込んでしまう。こちらに向かって差し出されている手はよく見なくても長く角張った男の手をしている。ちらりと見える黒く塗られた指が高級感のある光沢を放ち、いやらしささえ感じてしまう。それでいて胸元の蝶ネクタイを崩さないあどけなさが色気と同時に襲ってきて、もはやリリアの脳みそはショート寸前であった。
写真を見た衝撃をなんと言えば良いのだろうか。どう表せば己の今の感情を伝えられるのかわからないリリアは、最終的に“わしのマレウスが格好いい……!”という語彙力をどこかに投げ捨てた結論に至った。
「……リリア様?」
「親父殿?」
すっかり固まってしまった己を不思議がるセベクとシルバーの声に、ようやく我に返ったリリアは写真から顔を上げて唇をわなわなと震わせる。いや、唇だけではなく、全身が震えていた。
驚いたセベクがこちらを心配して声をかけてくるが──シルバーはなぜか呆れたようにこちらを見ている──リリアはそれに応えることができなかった。それよりももっと衝撃なことに気づいてしまったからだ。
これは写真である。つまりは、この格好いいマレウスの写真を撮った人物がいるということだ。撮影者はリリアが見るよりも先に、この格好いいマレウスを生で体感しているのだ。
こんな格好いいマレウスを恋人であるリリアでさえ見たことはないのに!
そう考えた次の瞬間には脱兎のごとくディアソムニア寮を駆け出しており、叫ぶセベクの声さえも置き去りにしていた。向かうは撮影者である監督生がいるオンボロ寮だ。
そのため、追いかけようとするセベクの首根っこをシルバーが掴み、馬に蹴られたいのかと呆れたように言ったことや馬術部だから馬の扱いには慣れている! と見当違いなことを叫ぶセベクの一幕をリリアは知る由もないのだった。
「たのもう!」
ばんっ! と蝶番が悲鳴を上げて扉が開かれ、その狼藉を働いた人物を認識した瞬間に監督生は思わず「出た!!!!!!」と叫んでしまった。そんな態度にも扉を開けた人物──リリアは肩をすくめるだけで、特に咎めるようなことは言ってこない。かわりに家主の許可を取らずにソファーに座って足を組み「お茶はまだかのう」などと言い放つ。同棲しているゴーストたちはそんなリリアの態度にも慣れたように紅茶を用意し始め、自分の分もテーブルに置いてくれた。こちらとしては一刻も早く帰って欲しいので用意などして欲しくはなかったのだが、心のなかで泣く泣くため息を吐きながら自分もまたソファーに腰掛ける。
「それで、今日は一体なんなんですか……」
「そう、そうじゃ! この写真! お主が撮ったものじゃろう!」
リリアが見ろとばかりに監督生の前に突きつけた写真は、マレウスの誕生日記念として自分が撮った写真だった。特に何の変哲もないただの写真に、首を傾げながらリリアの問いに首を縦に振る。
「これがどうしたんですか? なにか茨の谷ルールでだめなところありましたか?」
撮影時、一国の王を写真に撮るということでマレウスにも確認を取って撮影したのだが気づかないところで不備があったのだろうか。こんなことで国際問題にならないよな、と冷や汗をかきながらおそるおそるリリアへ視線を向けると、彼はぶるぶると全身を震わせている。
「え、あ、あの、リリア先輩……?」
「……だめなところじゃと? そんなの決まっておるじゃろう!」
リリアは拳を握り、思いっきりテーブルに叩きつけながら叫ぶ。
「こんなに格好いいマレウスが衆人の目に晒されるなど断じて許さぬ!!」
「…………………………はぁ」
たっぷりと間を取り、それから零れたのはため息一つだった。後ろでゴーストたちが吹き出しているが目の前のリリアは気づいていないらしい。呆れた視線を向けられていることに気づかずどれほどマレウスが格好いいかを語る相手に頭が痛くなる。
これ、リドル先輩がマレウス先輩にパイ投げした後の写真もあると言ったらどうなるんだろうな、と一抹の不安が過ぎるが自国のことわざである「口は災いの元」をこの世界に来てから充分に理解していたため一切口を開かなかった。夢中で語るリリアの目を盗んで該当する写真を制服の中に隠す。
「ん? 今お主なにかしなかったか?」
「いいえ、なにも。それで、結局リリア先輩は恋人であるツノ太郎を衆目に晒したくないと。それなら大丈夫です、この写真はその一枚しかないですよ」
他の写真はあるけど、と心のなかで呟く。これで満足して帰ってくれないか、と考えるがこれまでの経験からそんなことはないのだろう。現にリリアは先ほどの言葉を聞いて頬を膨らませて拗ねた様子を見せる。そんな一見年相応に見える──年相応ではないと知っているが見た目の可愛さに騙されそうになる──態度に首を傾げた。
「確かに、そんな格好いいマレウスを他の者に見せたくない気持ちはあるんじゃが……それよりももっと、その……わしよりも先にお主があんな格好いいマレウスを見たことが嫌なんじゃ……」
「……それはそれは」
変なところで奥手な恋愛初心者なリリアの可愛らしい嫉妬に思わず頬がにやける。
「だからお主の記憶をちょっと操作しようと思うてな」
「ヤンデレは遠慮します!!!!!!」
前言撤回である。初心者どころかヤンデレの方向に舵切ったリリアに怯えてソファーの裏に隠れる。ゴーストたちが間に立ち塞がってくれたが身体の震えが止まらず、実は傍にいたグリムが「ふなぁ……!」と泣き始めてしまった。
「冗談じゃ、冗談。そこまで本気にしなくとも良かろう?」
「いや、ちょっと冗談に聞こえないです……あなたの場合……」
「くふふ、怖がらせてしもうたな。わしも仕方のないことだとわかっておる、おるのじゃが年甲斐もなく嫉妬してしまった」
すまぬな、と一気に落ち込んだように小さく謝罪したリリアに頭を掻く。そのままソファーの裏から出てゴーストカメラを相手に押しつけた。不思議そうな表情で受け取ったリリアに昔学園長から教わったことを伝える。
「そのカメラ、写真に写ったものが動画として見れたり、実体を持って動いたりするんですよね。本来は撮影者と被写体の結びつきが強ければ、なんですけどそこはほらリリア先輩やツノ太郎ならなんとか出来るかなーと思うので。だから、そのカメラがあればユニオンの衣装を着たマレウス先輩とお話出来るんじゃないかと思いまして」
「お主……」
「写真は消せても一番に見たという事実は消せないし仕方のないことですけど、でもこれでお話出来たらリリア先輩も少しは気が晴れたりするのかな、と」
その言葉にリリアはゴーストカメラを大事そうに抱えなおし、穏やかに微笑んだ。
「ありがとう、では少しの間だけ借りても良いか?」
「はい。あ、でも壊さないでくださいね! 大事なものなので」
「わかっておる」
その後、ゴーストカメラの使い方を指南されたリリアは夕刻にオンボロ寮を去って行った。なぜか巻き込んでくる相手に少しだけ辟易していたが、やっぱり大切な友人たちが幸せそうにしているのが一番だと、緊張で凝ってしまった肩を伸ばしながら思う。
もうアイツ帰ったのか? 怖いんだゾ……と震えてるグリムを宥めながらゴーストたちと一緒に夕飯を用意するためにキッチンへ移動する。
──このとき、良いことをしたと満足していた自分はその後の顛末を知ることはない。
そう、ゴーストカメラでなんとかマレウスを実体化させたリリアが、それを本物のマレウスに見つかってしまいなにがどうなったかはわからないがなぜか三人で性行為をすることになったことなど知る由もないのだった。
畳む
昔の没ネタを完成させた版。続きも書きたい。監督生視点あり
リリアがその写真を手に取った瞬間、まるで魔法をかけられたかのように動けなくなった。
「流石マレウス様! 写真でも麗しくいらっしゃる……! シルバーもそう思うだろう!」
「うるさい、セベク。だが、確かにお前の言うとおりだな」
隣でわいわいと騒ぐ声もどこか遠くに聞こえるほどにリリアは目の前の写真に心を奪われている。
制服や礼服よりも砕けた感じの衣装は表情も相まっていつものぽわぽわとした雰囲気──誰がなんと言おうとリリアにはそう見えるのだ──が消え去り、男らしさを強調していた。ポケットに手を入れるなど絶対にしない仕草には、どこか見てはいけないものを見てしまったかのような背徳感と蠱惑的な魅力があり思わず唾を飲み込んでしまう。こちらに向かって差し出されている手はよく見なくても長く角張った男の手をしている。ちらりと見える黒く塗られた指が高級感のある光沢を放ち、いやらしささえ感じてしまう。それでいて胸元の蝶ネクタイを崩さないあどけなさが色気と同時に襲ってきて、もはやリリアの脳みそはショート寸前であった。
写真を見た衝撃をなんと言えば良いのだろうか。どう表せば己の今の感情を伝えられるのかわからないリリアは、最終的に“わしのマレウスが格好いい……!”という語彙力をどこかに投げ捨てた結論に至った。
「……リリア様?」
「親父殿?」
すっかり固まってしまった己を不思議がるセベクとシルバーの声に、ようやく我に返ったリリアは写真から顔を上げて唇をわなわなと震わせる。いや、唇だけではなく、全身が震えていた。
驚いたセベクがこちらを心配して声をかけてくるが──シルバーはなぜか呆れたようにこちらを見ている──リリアはそれに応えることができなかった。それよりももっと衝撃なことに気づいてしまったからだ。
これは写真である。つまりは、この格好いいマレウスの写真を撮った人物がいるということだ。撮影者はリリアが見るよりも先に、この格好いいマレウスを生で体感しているのだ。
こんな格好いいマレウスを恋人であるリリアでさえ見たことはないのに!
そう考えた次の瞬間には脱兎のごとくディアソムニア寮を駆け出しており、叫ぶセベクの声さえも置き去りにしていた。向かうは撮影者である監督生がいるオンボロ寮だ。
そのため、追いかけようとするセベクの首根っこをシルバーが掴み、馬に蹴られたいのかと呆れたように言ったことや馬術部だから馬の扱いには慣れている! と見当違いなことを叫ぶセベクの一幕をリリアは知る由もないのだった。
「たのもう!」
ばんっ! と蝶番が悲鳴を上げて扉が開かれ、その狼藉を働いた人物を認識した瞬間に監督生は思わず「出た!!!!!!」と叫んでしまった。そんな態度にも扉を開けた人物──リリアは肩をすくめるだけで、特に咎めるようなことは言ってこない。かわりに家主の許可を取らずにソファーに座って足を組み「お茶はまだかのう」などと言い放つ。同棲しているゴーストたちはそんなリリアの態度にも慣れたように紅茶を用意し始め、自分の分もテーブルに置いてくれた。こちらとしては一刻も早く帰って欲しいので用意などして欲しくはなかったのだが、心のなかで泣く泣くため息を吐きながら自分もまたソファーに腰掛ける。
「それで、今日は一体なんなんですか……」
「そう、そうじゃ! この写真! お主が撮ったものじゃろう!」
リリアが見ろとばかりに監督生の前に突きつけた写真は、マレウスの誕生日記念として自分が撮った写真だった。特に何の変哲もないただの写真に、首を傾げながらリリアの問いに首を縦に振る。
「これがどうしたんですか? なにか茨の谷ルールでだめなところありましたか?」
撮影時、一国の王を写真に撮るということでマレウスにも確認を取って撮影したのだが気づかないところで不備があったのだろうか。こんなことで国際問題にならないよな、と冷や汗をかきながらおそるおそるリリアへ視線を向けると、彼はぶるぶると全身を震わせている。
「え、あ、あの、リリア先輩……?」
「……だめなところじゃと? そんなの決まっておるじゃろう!」
リリアは拳を握り、思いっきりテーブルに叩きつけながら叫ぶ。
「こんなに格好いいマレウスが衆人の目に晒されるなど断じて許さぬ!!」
「…………………………はぁ」
たっぷりと間を取り、それから零れたのはため息一つだった。後ろでゴーストたちが吹き出しているが目の前のリリアは気づいていないらしい。呆れた視線を向けられていることに気づかずどれほどマレウスが格好いいかを語る相手に頭が痛くなる。
これ、リドル先輩がマレウス先輩にパイ投げした後の写真もあると言ったらどうなるんだろうな、と一抹の不安が過ぎるが自国のことわざである「口は災いの元」をこの世界に来てから充分に理解していたため一切口を開かなかった。夢中で語るリリアの目を盗んで該当する写真を制服の中に隠す。
「ん? 今お主なにかしなかったか?」
「いいえ、なにも。それで、結局リリア先輩は恋人であるツノ太郎を衆目に晒したくないと。それなら大丈夫です、この写真はその一枚しかないですよ」
他の写真はあるけど、と心のなかで呟く。これで満足して帰ってくれないか、と考えるがこれまでの経験からそんなことはないのだろう。現にリリアは先ほどの言葉を聞いて頬を膨らませて拗ねた様子を見せる。そんな一見年相応に見える──年相応ではないと知っているが見た目の可愛さに騙されそうになる──態度に首を傾げた。
「確かに、そんな格好いいマレウスを他の者に見せたくない気持ちはあるんじゃが……それよりももっと、その……わしよりも先にお主があんな格好いいマレウスを見たことが嫌なんじゃ……」
「……それはそれは」
変なところで奥手な恋愛初心者なリリアの可愛らしい嫉妬に思わず頬がにやける。
「だからお主の記憶をちょっと操作しようと思うてな」
「ヤンデレは遠慮します!!!!!!」
前言撤回である。初心者どころかヤンデレの方向に舵切ったリリアに怯えてソファーの裏に隠れる。ゴーストたちが間に立ち塞がってくれたが身体の震えが止まらず、実は傍にいたグリムが「ふなぁ……!」と泣き始めてしまった。
「冗談じゃ、冗談。そこまで本気にしなくとも良かろう?」
「いや、ちょっと冗談に聞こえないです……あなたの場合……」
「くふふ、怖がらせてしもうたな。わしも仕方のないことだとわかっておる、おるのじゃが年甲斐もなく嫉妬してしまった」
すまぬな、と一気に落ち込んだように小さく謝罪したリリアに頭を掻く。そのままソファーの裏から出てゴーストカメラを相手に押しつけた。不思議そうな表情で受け取ったリリアに昔学園長から教わったことを伝える。
「そのカメラ、写真に写ったものが動画として見れたり、実体を持って動いたりするんですよね。本来は撮影者と被写体の結びつきが強ければ、なんですけどそこはほらリリア先輩やツノ太郎ならなんとか出来るかなーと思うので。だから、そのカメラがあればユニオンの衣装を着たマレウス先輩とお話出来るんじゃないかと思いまして」
「お主……」
「写真は消せても一番に見たという事実は消せないし仕方のないことですけど、でもこれでお話出来たらリリア先輩も少しは気が晴れたりするのかな、と」
その言葉にリリアはゴーストカメラを大事そうに抱えなおし、穏やかに微笑んだ。
「ありがとう、では少しの間だけ借りても良いか?」
「はい。あ、でも壊さないでくださいね! 大事なものなので」
「わかっておる」
その後、ゴーストカメラの使い方を指南されたリリアは夕刻にオンボロ寮を去って行った。なぜか巻き込んでくる相手に少しだけ辟易していたが、やっぱり大切な友人たちが幸せそうにしているのが一番だと、緊張で凝ってしまった肩を伸ばしながら思う。
もうアイツ帰ったのか? 怖いんだゾ……と震えてるグリムを宥めながらゴーストたちと一緒に夕飯を用意するためにキッチンへ移動する。
──このとき、良いことをしたと満足していた自分はその後の顛末を知ることはない。
そう、ゴーストカメラでなんとかマレウスを実体化させたリリアが、それを本物のマレウスに見つかってしまいなにがどうなったかはわからないがなぜか三人で性行為をすることになったことなど知る由もないのだった。
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猫が膝の上でおねむなので今夜の更新はないです
猫可愛い
猫可愛い
マレリリ小話毎日更新企画中その5(毎日とは言っていない)
その4のリリア視点
リリアは意外にも恋愛話が大好きだ。しかもミックスベリーをふんだんに使用したケーキのように甘酸っぱい青春の一コマのようなものを一番好んでいた。
だから下級生に告白をされたとき、リリアの胸はきゅんきゅんと高鳴ったのを今でも覚えている。リリアにしてみれば学園にいる者などまだまだ青二才も良いところで、そんな彼らが自分に恋愛感情を必死にぶつけてくる姿は可愛らしいと形容するしかない。といってもリリアが彼らに恋愛感情を持つわけもなく、穏やかに、彼らにとって良い思い出になるように告白を断ってきた。一部身の程知らずが暴行を働こうとしたこともあったが若造に後れを取るほどに耄碌しているわけもなく、そういう輩は返り討ちにして少しばかり魔法で記憶を封印させてもらっている。
告白をされるたび、リリアは胸を高鳴らせ「甘酸っぱい青春は良いの~~~~! はー、酒でも飲むかぁ!」と高まったテンションのままに酒を浴びることも多い。一応マレウスやシルバー、セベクにはバレてはいないようだ。特にシルバーにバレたら怒られることは確実なので彼が寝静まった頃にリリアは酒盛りをしている。
さて、ここまでリリアが恋愛話が好きなのには理由がある。リリアは恋愛に憧れていたのだ。
そもそもリリアは恋愛が出来るような環境にいたわけではない。いや、確かに昔プロポーズみたいなものはしたが、アレは二人に置いていかれたくないという気持ちもあったのだ。もっとも、今はそれは叶わぬ願いとなってしまったが。
その後妖精と人間たちの戦いが終わったと思えばリリアはシルバーを拾ったため、恋愛が出来る余裕などなく今に至る。とどのつまり、他人の恋愛話を見て、聞いて自分の青春を取り戻しているわけだ。
そんなわけでリリアは自分への好意に敏感である。なので当然、マレウスがリリアに向ける感情にも気づいていた。というかリリアが離れると寂しそうに天候を悪化させるマレウスは好意を隠すつもりがあるのかと言いたい。気づいていないんだろうな、と思いながらも言葉にして引き留められないマレウスの奥ゆかしさがたまらなく好きなので気づかせるような言葉を言うつもりはなかったりもする。
とはいえ、マレウスが万が一告白したとしてもリリアは受けるつもりはなかった。立場が異なるし、マレウスの母親の件もある。
憧れは憧れのままで。キラキラとした甘酸っぱい青春を傍観者のように見ている方がリリアは楽しい。
そんなことを、つい先ほどまで思っていたのだ。
「リリア! 僕はリリアが好きだ!」
リリアの腕を捉えたマレウスが叫ぶ。飾り気のない、真っ直ぐな言葉。そんなもの、今までも散々聞いてきたはずだった。
マレウスのリリアに向ける瞳は純粋で、そこには下心など全く見えず、ただただ愛に溢れている。
──触れたところが、熱い。じわじわと二人の熱の境界線がなくなっていく。その浸食されるような感覚にリリアの背筋にぞわぞわとした感覚が走った。
マレウスの顔をこれ以上見るのが怖くて思わず俯いたリリアは、今までにない鼓動の早さに狼狽えてしまう。なんで、こんなの、知らない。ぐるぐると頭の中で混乱が渦巻く。
シルバーとセベクに話しかけられて漸く我に返ったリリアは顔を上げてしまい、ばっちりマレウスと目が合う。その瞳には、リリアだけが映っている。
「~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」
顔から火が噴きそうだった。触れている箇所が火傷したかのようにじんじんと切なく疼き、リリアは大きく腕を振ってマレウスの手を解いた。
キラキラ、とマレウスが光って見える。いやマレウスだけではない、リリアの視界に映る全てがキラキラと色づいている。光の暴力に脳がクラクラとして、そしてなによりその中でも一等マレウスが輝いて見えるのが混乱に拍車をかけた。
いつものように断れば良い。傷つけないように、優しく、穏やかに。そう思うのに、リリアの口から出たのは全く逆のことだった。
「こ、こ、こんな場所で言う奴がおるかーーーーーーっっ!!」
それだけを叫んでリリアは魔法で自室に戻る。あれ以上談話室になどいられるはずもなかった。
胸の高鳴りが治まらずに息が苦しい。ちかちかと視界が眩しい。顔が赤くなるのを止められない。マレウスの告白を断るつもりだったのに、いざ想いを告げられればなにも言えなくなってしまった。
──恋に、落ちてしまった。
恋を自覚してしまったリリアはその場にしゃがみ込み、数時間後シルバーが扉をノックするまで一歩も動けなかった。畳む
その4のリリア視点
リリアは意外にも恋愛話が大好きだ。しかもミックスベリーをふんだんに使用したケーキのように甘酸っぱい青春の一コマのようなものを一番好んでいた。
だから下級生に告白をされたとき、リリアの胸はきゅんきゅんと高鳴ったのを今でも覚えている。リリアにしてみれば学園にいる者などまだまだ青二才も良いところで、そんな彼らが自分に恋愛感情を必死にぶつけてくる姿は可愛らしいと形容するしかない。といってもリリアが彼らに恋愛感情を持つわけもなく、穏やかに、彼らにとって良い思い出になるように告白を断ってきた。一部身の程知らずが暴行を働こうとしたこともあったが若造に後れを取るほどに耄碌しているわけもなく、そういう輩は返り討ちにして少しばかり魔法で記憶を封印させてもらっている。
告白をされるたび、リリアは胸を高鳴らせ「甘酸っぱい青春は良いの~~~~! はー、酒でも飲むかぁ!」と高まったテンションのままに酒を浴びることも多い。一応マレウスやシルバー、セベクにはバレてはいないようだ。特にシルバーにバレたら怒られることは確実なので彼が寝静まった頃にリリアは酒盛りをしている。
さて、ここまでリリアが恋愛話が好きなのには理由がある。リリアは恋愛に憧れていたのだ。
そもそもリリアは恋愛が出来るような環境にいたわけではない。いや、確かに昔プロポーズみたいなものはしたが、アレは二人に置いていかれたくないという気持ちもあったのだ。もっとも、今はそれは叶わぬ願いとなってしまったが。
その後妖精と人間たちの戦いが終わったと思えばリリアはシルバーを拾ったため、恋愛が出来る余裕などなく今に至る。とどのつまり、他人の恋愛話を見て、聞いて自分の青春を取り戻しているわけだ。
そんなわけでリリアは自分への好意に敏感である。なので当然、マレウスがリリアに向ける感情にも気づいていた。というかリリアが離れると寂しそうに天候を悪化させるマレウスは好意を隠すつもりがあるのかと言いたい。気づいていないんだろうな、と思いながらも言葉にして引き留められないマレウスの奥ゆかしさがたまらなく好きなので気づかせるような言葉を言うつもりはなかったりもする。
とはいえ、マレウスが万が一告白したとしてもリリアは受けるつもりはなかった。立場が異なるし、マレウスの母親の件もある。
憧れは憧れのままで。キラキラとした甘酸っぱい青春を傍観者のように見ている方がリリアは楽しい。
そんなことを、つい先ほどまで思っていたのだ。
「リリア! 僕はリリアが好きだ!」
リリアの腕を捉えたマレウスが叫ぶ。飾り気のない、真っ直ぐな言葉。そんなもの、今までも散々聞いてきたはずだった。
マレウスのリリアに向ける瞳は純粋で、そこには下心など全く見えず、ただただ愛に溢れている。
──触れたところが、熱い。じわじわと二人の熱の境界線がなくなっていく。その浸食されるような感覚にリリアの背筋にぞわぞわとした感覚が走った。
マレウスの顔をこれ以上見るのが怖くて思わず俯いたリリアは、今までにない鼓動の早さに狼狽えてしまう。なんで、こんなの、知らない。ぐるぐると頭の中で混乱が渦巻く。
シルバーとセベクに話しかけられて漸く我に返ったリリアは顔を上げてしまい、ばっちりマレウスと目が合う。その瞳には、リリアだけが映っている。
「~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」
顔から火が噴きそうだった。触れている箇所が火傷したかのようにじんじんと切なく疼き、リリアは大きく腕を振ってマレウスの手を解いた。
キラキラ、とマレウスが光って見える。いやマレウスだけではない、リリアの視界に映る全てがキラキラと色づいている。光の暴力に脳がクラクラとして、そしてなによりその中でも一等マレウスが輝いて見えるのが混乱に拍車をかけた。
いつものように断れば良い。傷つけないように、優しく、穏やかに。そう思うのに、リリアの口から出たのは全く逆のことだった。
「こ、こ、こんな場所で言う奴がおるかーーーーーーっっ!!」
それだけを叫んでリリアは魔法で自室に戻る。あれ以上談話室になどいられるはずもなかった。
胸の高鳴りが治まらずに息が苦しい。ちかちかと視界が眩しい。顔が赤くなるのを止められない。マレウスの告白を断るつもりだったのに、いざ想いを告げられればなにも言えなくなってしまった。
──恋に、落ちてしまった。
恋を自覚してしまったリリアはその場にしゃがみ込み、数時間後シルバーが扉をノックするまで一歩も動けなかった。畳む
マレリリ小話毎日更新企画中その4
(毎日とは言っていない)
意外にもリリアは好意を寄せられることが多い。ディアソムニア寮では一番と言っても過言ではないだろう。見た目だけなら美少女と見間違う容姿をしており、それでいて面倒見が良い。ディアソムニア寮では珍しい陽気──あれを陽気の一言で片付けて良いものかそれはまた別問題だが──な性格も好かれる理由の一つだろうか。また、それとは反対に底が見えないミステリアスさや強者の余裕が垣間見えるところも惹かれる理由だと聞いたことがある。
マレウスもリリアが告白されているところを見たことがあるくらいには、彼はモテていた。
もっとも、リリアの料理の腕を知った者や実はかなりずぼらであることを知った者たちが「アレだけはない」と口を揃えて噂していることはマレウスも与り知らないことである。
さらにリリアは告白の断り方も上手であった。暴力に訴えるような輩は別として、相手を傷つけないように言葉を選び、青春の一ページにあるようなほんの少しだけ切ない、それでいて良い思い出になるように断るのがコツじゃとは本人の談だ。どんな断り方だ、とマレウスは思うのだが振った人物と振られた人物が仲良く談笑している場面を見かけたこともあり相当上手くやったのだろうと推測出来る。
なお、リリアが「はーーーー甘酸っぱい青春は良いのう~~! 若返る気分じゃ!! 命短し恋せよ若人たち……」などと考えてることは誰も知らない。わしってモテモテじゃな~~! とテンションが上がったまま酒を飲んで二日酔いになっているなどということは当人以外気づいていないのだ。
閑話休題。
さて、マレウスは学園に来て、他者と触れあい、そこで漸く「もしかしてリリアはモテるのか?」という事実に直面することになった。城の中にいたときはリリアが恐れられていたり森の中の小屋に住んでいたこともあり気づかなかったのだ。
リリアがモテていてとても困る。困っている、とマレウスは思う。なぜならマレウスもまたリリアに惹かれている者の一人だったからだ。
リリアが告白を受ける度に彼が告白を受け入れたらどうしよう、などと考えて外が雷雨になったこともあった。ちょうどマジフトの練習中でキングスカラーがこのトカゲやろうが!!!! と殴り込んできたのは忘れられない思い出である。
リリアがこれ以上思いを寄せられないようにするのに手っ取り早い方法は恋人をつくることだ。完全にいなくなるわけではないが、恋人が出来たと知れば告白する者はぐっと数を減らすだろう。そしてその恋人にはマレウスがなりたいと切実に思っていた。
受け入れられるかどうかは一旦さておき、それならば告白すれば良いだろうと思うかも知れないが、マレウスにとって告白はするものではなくされるものという意識があった。
マレウスは次期王である。それがどういうことかと言えば、マレウスは自分から行動を起こすと言うことが滅多にないのだ。マレウスはリリアと恋人同士になりたい=リリアが告白するべきという図式が頭の中でつくられるくらいには無知故の傲慢な王の姿をしていた。
流石に学園に来て成長したマレウスは今はそんな風には(少ししか)思ってはいないが、いかんせん告白の仕方が全く見当もつかない。ゴーストの花嫁騒動の際に少しは見本になるかと寮内で観察していたがそれはもう酷いものだったと記憶している。
マレウスがうんうんとリリアへの告白で悩んでいるとは知らず、彼はいつものごとく呼び出しを受けていた。どうやら今回は他寮の下級生らしく、ディアソムニア寮の談話室でこれから用事があると席を立つところにマレウスは出くわしてしまった。
笑顔のリリアをマレウスは素直に送り出せない。言葉を飲み込み、立ち尽くしてしまったマレウスにリリアはどうした? と声をかける。
その瞬間のことだった。
マレウスはリリアの腕を取り、衝動のままに叫ぶ。
「リリア! 僕はリリアが好きだ!」
格好いい言葉も、雰囲気の良いシチュエーションでもない。ただただ純粋な愛の言葉をぶつけるだけの告白。しまった、とマレウスが我に返ったときには大勢の寮生で溢れていた談話室には沈黙が流れていた。リリアも俯いており、マレウスは今すぐ茨の谷に帰りたくなった。
「おや、リリア先輩……?」
「リリア様……?」
シルバーとセベクが微動だにしないリリアに声をかける。ちらり、とこちらを見た二人がマレウスに話しかけないのは優しさだろうか。
二人に話しかけられてバッと勢いよく顔を上げたリリアの表情は、マレウスが想像もしていなかったものだった。
「~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」
ボンッ! と効果音が聞こえてきそうなほどに顔を真っ赤に染めたリリアはぶんぶんと手を振りマレウスの拘束を解く。手が離れた瞬間にすぐさまマレウスから距離を取ったリリアは涙目だ。わなわなと身体を震わせて、リリアはマレウスに叫んだ。
「こ、こ、こんな場所で言う奴がおるかーーーーーーっっ!!」
心の叫びを上げたリリアは魔法で談話室から姿を消し、残されマレウスは呆然と立ち尽くす。
「……これは、振られたのだろうか」
マレウスの言葉に「いやどう見ても脈ありだっただろう!」と寮生の心が一致した瞬間だった。その中でも二人と交流の深いシルバーは、これから面倒ごとが起きそうな気配に深いため息を吐くのであった。
畳む
(毎日とは言っていない)
意外にもリリアは好意を寄せられることが多い。ディアソムニア寮では一番と言っても過言ではないだろう。見た目だけなら美少女と見間違う容姿をしており、それでいて面倒見が良い。ディアソムニア寮では珍しい陽気──あれを陽気の一言で片付けて良いものかそれはまた別問題だが──な性格も好かれる理由の一つだろうか。また、それとは反対に底が見えないミステリアスさや強者の余裕が垣間見えるところも惹かれる理由だと聞いたことがある。
マレウスもリリアが告白されているところを見たことがあるくらいには、彼はモテていた。
もっとも、リリアの料理の腕を知った者や実はかなりずぼらであることを知った者たちが「アレだけはない」と口を揃えて噂していることはマレウスも与り知らないことである。
さらにリリアは告白の断り方も上手であった。暴力に訴えるような輩は別として、相手を傷つけないように言葉を選び、青春の一ページにあるようなほんの少しだけ切ない、それでいて良い思い出になるように断るのがコツじゃとは本人の談だ。どんな断り方だ、とマレウスは思うのだが振った人物と振られた人物が仲良く談笑している場面を見かけたこともあり相当上手くやったのだろうと推測出来る。
なお、リリアが「はーーーー甘酸っぱい青春は良いのう~~! 若返る気分じゃ!! 命短し恋せよ若人たち……」などと考えてることは誰も知らない。わしってモテモテじゃな~~! とテンションが上がったまま酒を飲んで二日酔いになっているなどということは当人以外気づいていないのだ。
閑話休題。
さて、マレウスは学園に来て、他者と触れあい、そこで漸く「もしかしてリリアはモテるのか?」という事実に直面することになった。城の中にいたときはリリアが恐れられていたり森の中の小屋に住んでいたこともあり気づかなかったのだ。
リリアがモテていてとても困る。困っている、とマレウスは思う。なぜならマレウスもまたリリアに惹かれている者の一人だったからだ。
リリアが告白を受ける度に彼が告白を受け入れたらどうしよう、などと考えて外が雷雨になったこともあった。ちょうどマジフトの練習中でキングスカラーがこのトカゲやろうが!!!! と殴り込んできたのは忘れられない思い出である。
リリアがこれ以上思いを寄せられないようにするのに手っ取り早い方法は恋人をつくることだ。完全にいなくなるわけではないが、恋人が出来たと知れば告白する者はぐっと数を減らすだろう。そしてその恋人にはマレウスがなりたいと切実に思っていた。
受け入れられるかどうかは一旦さておき、それならば告白すれば良いだろうと思うかも知れないが、マレウスにとって告白はするものではなくされるものという意識があった。
マレウスは次期王である。それがどういうことかと言えば、マレウスは自分から行動を起こすと言うことが滅多にないのだ。マレウスはリリアと恋人同士になりたい=リリアが告白するべきという図式が頭の中でつくられるくらいには無知故の傲慢な王の姿をしていた。
流石に学園に来て成長したマレウスは今はそんな風には(少ししか)思ってはいないが、いかんせん告白の仕方が全く見当もつかない。ゴーストの花嫁騒動の際に少しは見本になるかと寮内で観察していたがそれはもう酷いものだったと記憶している。
マレウスがうんうんとリリアへの告白で悩んでいるとは知らず、彼はいつものごとく呼び出しを受けていた。どうやら今回は他寮の下級生らしく、ディアソムニア寮の談話室でこれから用事があると席を立つところにマレウスは出くわしてしまった。
笑顔のリリアをマレウスは素直に送り出せない。言葉を飲み込み、立ち尽くしてしまったマレウスにリリアはどうした? と声をかける。
その瞬間のことだった。
マレウスはリリアの腕を取り、衝動のままに叫ぶ。
「リリア! 僕はリリアが好きだ!」
格好いい言葉も、雰囲気の良いシチュエーションでもない。ただただ純粋な愛の言葉をぶつけるだけの告白。しまった、とマレウスが我に返ったときには大勢の寮生で溢れていた談話室には沈黙が流れていた。リリアも俯いており、マレウスは今すぐ茨の谷に帰りたくなった。
「おや、リリア先輩……?」
「リリア様……?」
シルバーとセベクが微動だにしないリリアに声をかける。ちらり、とこちらを見た二人がマレウスに話しかけないのは優しさだろうか。
二人に話しかけられてバッと勢いよく顔を上げたリリアの表情は、マレウスが想像もしていなかったものだった。
「~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」
ボンッ! と効果音が聞こえてきそうなほどに顔を真っ赤に染めたリリアはぶんぶんと手を振りマレウスの拘束を解く。手が離れた瞬間にすぐさまマレウスから距離を取ったリリアは涙目だ。わなわなと身体を震わせて、リリアはマレウスに叫んだ。
「こ、こ、こんな場所で言う奴がおるかーーーーーーっっ!!」
心の叫びを上げたリリアは魔法で談話室から姿を消し、残されマレウスは呆然と立ち尽くす。
「……これは、振られたのだろうか」
マレウスの言葉に「いやどう見ても脈ありだっただろう!」と寮生の心が一致した瞬間だった。その中でも二人と交流の深いシルバーは、これから面倒ごとが起きそうな気配に深いため息を吐くのであった。
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マレリリ小話毎日更新企画中その3
(毎日とは言っていない)
このあとR-18になる。そっちはちょっとだけ時間かかるかな?
R-18になるまでのお話
──なんて、いたわしい。
リリアが魔法を発動出来なかった姿を見てマレウスが真っ先に覚えたのは同情心だ。城の者で誰よりも強かったはずの彼が魔法一つ行使出来ない様子は痛々しさと同時に哀れみを呼び起こす。なんて可哀想なリリア。だからこそ、マレウスが助けなくてはいけない。
誰もが幸せになれる心からの贈り物を、と差し出した手をリリアは払いのけてこちらに咎めるような視線を向ける。まさか拒絶されるなどと考えてもいなかったため呆気に取られたマレウスに彼は畳み掛けるように声を荒げた。
「馬鹿者! お前は自分がなにをしているか、わかっておるのか!?」
リリアの怒号に我に返った他寮の生徒、寮長たちがマレウスに杖を向ける。批難する視線が煩わしいと苛立ちが腹の奥に積もっていくようだ。マレウスはこの場にいる全ての者に祝福を贈るつもりだったが、立ち塞がるのならば致し方ないだろう。
マレウスはたった一度だけ杖を鳴らし、地面から無数の茨を出現させる。リリア以外を拘束した茨の棘に大勢の者が苦痛の声を上げてその場に蹲った。流石に寮長クラスになると痛みに耐えてその場に立っているようだがこの茨は触れている者の魔力を奪う。クソが、と吐き捨てたキングスカラーは心底忌々しいという表情をしており、その様子に少しだけ気分が高揚する。
カツン、とヒールの音を立てリリアの前に立つ。鋭い眼差しを崩さない彼の頬に触れ、もう一度だけ優しく語りかけた。
「リリア、僕の手を取り、心からの贈り物を受け取ってくれないか?」
「──断るっ!! お主、こんなことをしてなんになる! いい加減目を覚ませ!!」
再び拒絶したリリアにマレウスはただただ落胆する。失わずにいて欲しいと願っただけなのに、どうして叶わないのだろうか。どうしてリリアさえもマレウスを拒絶するのだろうか。
最初からリリアを諦められるくらいならば、マレウスだって悩むことはなかった。
嗚呼、そうか。天啓に打たれたかのようにマレウスは気づく。自分はリリアを愛しているのだ。愛しているから失いたくない、諦めきれない。
「お前を失わずに済む!!」
感情のままに叫んだ言葉にリリアが息を飲み、隙が出来る。それは時間で言えば刹那の、けれども昔の彼では考えられないほどの大きな油断であった。そしてマレウスにとってはその一瞬の隙だけで充分だ。
リリアの腕を掴み転移魔法を使う。行く先は何処だって構わなかった、二人きりになれる場所ならば何処でも良いと場所を指定せずに魔法を行使した。
そのせいで二人が現れた場所はなにもない白い空間──おそらく無意識に他者の関わりを避けるために空間を創ったのだろう──だった。ただ空間があるだけで他にはなにも存在しておらず、何処まで続いているのかは術者のマレウスでさえ把握出来ていない。
もっともマレウスにとって重要な点は、この空間にリリアと二人きりということであり、他のことは問題にもならない些細なことであった。だが彼はそう考えてはいないようで急に知らない場所に連れてこられたこと、こちらの行動が問題だと糾弾する。
──そうやって囀る口に、マレウスは唇を重ねた。
「……は、おぬ、し……今……」
己の唇を触りながらリリアが呆然と呟く。なにが起きたのかわからないというような顔をしている彼とは正反対にマレウスの心は満たされていた。これをずっと望んでいたのだと、不思議とそうすることが正しいのだと心が、身体が喜びに打ち震えている。
リリアにもっと触れたい、とマレウスは再び唇を重ねた。
「んんんっ……!! んんっ、はっ、ぁ! んんんんっっ────!!」
リリアがマレウスを殴ろうと振りかざした手を掴み、今度は彼の口内へ舌をねじ込ませる。目を見開いたリリアは生理的な涙を零しながらも抵抗を続け、こちらの舌を噛み切ろうとする意思を見せた。
だがそれよりも早く、マレウスはリリアの四肢に茨を巻き付けた。この空間の自分の魔力で満たされているため魔法を使う動作をしなくとも思うだけで魔法が発動するのだ。そしてリリアを拘束している茨は先ほどとは違い棘がないものの、魔力を奪うことには変わらない。そうすれば失った魔力を得ようと生存本能が働き、空間に漂っている魔力を本能的に集めてしまう。さらに身体の接触から回収出来る魔力は相手が強者であればあるほど膨大であり、リリアは舌を噛み切るどころか腰が抜けたようにマレウスの胸元へもたれかかってくる。
「ふっ、ぁ……はっ、んっ……! んぁ……っ!」
甘えるような熱の籠もった吐息にマレウスはほくそ笑む。リリアの足は小さく震えているが茨の拘束によってなんとかその場に立っていられているようだった。
唇を離せば飲み込まなかった唾液がリリアの顎を伝って地に落ちる。次々と頬を流れる涙を唇で掬いながらマレウスは彼を抱きしめた。
「愛している、リリア」
歓喜に満ちあふれたまま想いを告げる。なんと幸福なのだろうか──このまま、死んでも良いくらいだ、とマレウスは笑う。
「お主、まさか、オーバーブロットして……! 馬鹿者、今すぐ魔法を中断せぬかっ! このままだと死んでしまうぞ……っ!!」
「構わない」
「────な、にを……」
「構わない、と言ったんだリリア。このまま二人でいること以上の幸福があるか? リリアを失わないで済むんだ、他の者なんていらない。リリア、お前もそうだろう?」
「違うっっ!! マレウス、お前は間違っておる! こんなお主を、わしは愛さぬっ!!」
マレウスを押しのけ、茨の拘束を解こうとがむしゃらに全身を動かして抵抗し始めるリリアの姿に、マレウスは深いため息を吐いた。
もうマレウスにはなにが正しくて、間違っているかの判断がつかない。わかることはリリアが愛していないというのならば、愛するようにすれば良いということだけだ。今のマレウスにはそれが出来る力がある。
「ならば、リリア。その身に教えてやろう、リリアが誰のものなのか。だってリリアは、僕を愛しているだろう?」
その言葉にリリアが息を飲む。奇しくもそれが自身の母親と同じ言葉だと知らないまま、マレウスは妖艶に微笑んだ。畳む
(毎日とは言っていない)
このあとR-18になる。そっちはちょっとだけ時間かかるかな?
R-18になるまでのお話
──なんて、いたわしい。
リリアが魔法を発動出来なかった姿を見てマレウスが真っ先に覚えたのは同情心だ。城の者で誰よりも強かったはずの彼が魔法一つ行使出来ない様子は痛々しさと同時に哀れみを呼び起こす。なんて可哀想なリリア。だからこそ、マレウスが助けなくてはいけない。
誰もが幸せになれる心からの贈り物を、と差し出した手をリリアは払いのけてこちらに咎めるような視線を向ける。まさか拒絶されるなどと考えてもいなかったため呆気に取られたマレウスに彼は畳み掛けるように声を荒げた。
「馬鹿者! お前は自分がなにをしているか、わかっておるのか!?」
リリアの怒号に我に返った他寮の生徒、寮長たちがマレウスに杖を向ける。批難する視線が煩わしいと苛立ちが腹の奥に積もっていくようだ。マレウスはこの場にいる全ての者に祝福を贈るつもりだったが、立ち塞がるのならば致し方ないだろう。
マレウスはたった一度だけ杖を鳴らし、地面から無数の茨を出現させる。リリア以外を拘束した茨の棘に大勢の者が苦痛の声を上げてその場に蹲った。流石に寮長クラスになると痛みに耐えてその場に立っているようだがこの茨は触れている者の魔力を奪う。クソが、と吐き捨てたキングスカラーは心底忌々しいという表情をしており、その様子に少しだけ気分が高揚する。
カツン、とヒールの音を立てリリアの前に立つ。鋭い眼差しを崩さない彼の頬に触れ、もう一度だけ優しく語りかけた。
「リリア、僕の手を取り、心からの贈り物を受け取ってくれないか?」
「──断るっ!! お主、こんなことをしてなんになる! いい加減目を覚ませ!!」
再び拒絶したリリアにマレウスはただただ落胆する。失わずにいて欲しいと願っただけなのに、どうして叶わないのだろうか。どうしてリリアさえもマレウスを拒絶するのだろうか。
最初からリリアを諦められるくらいならば、マレウスだって悩むことはなかった。
嗚呼、そうか。天啓に打たれたかのようにマレウスは気づく。自分はリリアを愛しているのだ。愛しているから失いたくない、諦めきれない。
「お前を失わずに済む!!」
感情のままに叫んだ言葉にリリアが息を飲み、隙が出来る。それは時間で言えば刹那の、けれども昔の彼では考えられないほどの大きな油断であった。そしてマレウスにとってはその一瞬の隙だけで充分だ。
リリアの腕を掴み転移魔法を使う。行く先は何処だって構わなかった、二人きりになれる場所ならば何処でも良いと場所を指定せずに魔法を行使した。
そのせいで二人が現れた場所はなにもない白い空間──おそらく無意識に他者の関わりを避けるために空間を創ったのだろう──だった。ただ空間があるだけで他にはなにも存在しておらず、何処まで続いているのかは術者のマレウスでさえ把握出来ていない。
もっともマレウスにとって重要な点は、この空間にリリアと二人きりということであり、他のことは問題にもならない些細なことであった。だが彼はそう考えてはいないようで急に知らない場所に連れてこられたこと、こちらの行動が問題だと糾弾する。
──そうやって囀る口に、マレウスは唇を重ねた。
「……は、おぬ、し……今……」
己の唇を触りながらリリアが呆然と呟く。なにが起きたのかわからないというような顔をしている彼とは正反対にマレウスの心は満たされていた。これをずっと望んでいたのだと、不思議とそうすることが正しいのだと心が、身体が喜びに打ち震えている。
リリアにもっと触れたい、とマレウスは再び唇を重ねた。
「んんんっ……!! んんっ、はっ、ぁ! んんんんっっ────!!」
リリアがマレウスを殴ろうと振りかざした手を掴み、今度は彼の口内へ舌をねじ込ませる。目を見開いたリリアは生理的な涙を零しながらも抵抗を続け、こちらの舌を噛み切ろうとする意思を見せた。
だがそれよりも早く、マレウスはリリアの四肢に茨を巻き付けた。この空間の自分の魔力で満たされているため魔法を使う動作をしなくとも思うだけで魔法が発動するのだ。そしてリリアを拘束している茨は先ほどとは違い棘がないものの、魔力を奪うことには変わらない。そうすれば失った魔力を得ようと生存本能が働き、空間に漂っている魔力を本能的に集めてしまう。さらに身体の接触から回収出来る魔力は相手が強者であればあるほど膨大であり、リリアは舌を噛み切るどころか腰が抜けたようにマレウスの胸元へもたれかかってくる。
「ふっ、ぁ……はっ、んっ……! んぁ……っ!」
甘えるような熱の籠もった吐息にマレウスはほくそ笑む。リリアの足は小さく震えているが茨の拘束によってなんとかその場に立っていられているようだった。
唇を離せば飲み込まなかった唾液がリリアの顎を伝って地に落ちる。次々と頬を流れる涙を唇で掬いながらマレウスは彼を抱きしめた。
「愛している、リリア」
歓喜に満ちあふれたまま想いを告げる。なんと幸福なのだろうか──このまま、死んでも良いくらいだ、とマレウスは笑う。
「お主、まさか、オーバーブロットして……! 馬鹿者、今すぐ魔法を中断せぬかっ! このままだと死んでしまうぞ……っ!!」
「構わない」
「────な、にを……」
「構わない、と言ったんだリリア。このまま二人でいること以上の幸福があるか? リリアを失わないで済むんだ、他の者なんていらない。リリア、お前もそうだろう?」
「違うっっ!! マレウス、お前は間違っておる! こんなお主を、わしは愛さぬっ!!」
マレウスを押しのけ、茨の拘束を解こうとがむしゃらに全身を動かして抵抗し始めるリリアの姿に、マレウスは深いため息を吐いた。
もうマレウスにはなにが正しくて、間違っているかの判断がつかない。わかることはリリアが愛していないというのならば、愛するようにすれば良いということだけだ。今のマレウスにはそれが出来る力がある。
「ならば、リリア。その身に教えてやろう、リリアが誰のものなのか。だってリリアは、僕を愛しているだろう?」
その言葉にリリアが息を飲む。奇しくもそれが自身の母親と同じ言葉だと知らないまま、マレウスは妖艶に微笑んだ。畳む