No.32, No.31, No.30, No.29, No.28, No.27, No.26[7件]
マレリリ小話毎日更新企画中その4
(毎日とは言っていない)
意外にもリリアは好意を寄せられることが多い。ディアソムニア寮では一番と言っても過言ではないだろう。見た目だけなら美少女と見間違う容姿をしており、それでいて面倒見が良い。ディアソムニア寮では珍しい陽気──あれを陽気の一言で片付けて良いものかそれはまた別問題だが──な性格も好かれる理由の一つだろうか。また、それとは反対に底が見えないミステリアスさや強者の余裕が垣間見えるところも惹かれる理由だと聞いたことがある。
マレウスもリリアが告白されているところを見たことがあるくらいには、彼はモテていた。
もっとも、リリアの料理の腕を知った者や実はかなりずぼらであることを知った者たちが「アレだけはない」と口を揃えて噂していることはマレウスも与り知らないことである。
さらにリリアは告白の断り方も上手であった。暴力に訴えるような輩は別として、相手を傷つけないように言葉を選び、青春の一ページにあるようなほんの少しだけ切ない、それでいて良い思い出になるように断るのがコツじゃとは本人の談だ。どんな断り方だ、とマレウスは思うのだが振った人物と振られた人物が仲良く談笑している場面を見かけたこともあり相当上手くやったのだろうと推測出来る。
なお、リリアが「はーーーー甘酸っぱい青春は良いのう~~! 若返る気分じゃ!! 命短し恋せよ若人たち……」などと考えてることは誰も知らない。わしってモテモテじゃな~~! とテンションが上がったまま酒を飲んで二日酔いになっているなどということは当人以外気づいていないのだ。
閑話休題。
さて、マレウスは学園に来て、他者と触れあい、そこで漸く「もしかしてリリアはモテるのか?」という事実に直面することになった。城の中にいたときはリリアが恐れられていたり森の中の小屋に住んでいたこともあり気づかなかったのだ。
リリアがモテていてとても困る。困っている、とマレウスは思う。なぜならマレウスもまたリリアに惹かれている者の一人だったからだ。
リリアが告白を受ける度に彼が告白を受け入れたらどうしよう、などと考えて外が雷雨になったこともあった。ちょうどマジフトの練習中でキングスカラーがこのトカゲやろうが!!!! と殴り込んできたのは忘れられない思い出である。
リリアがこれ以上思いを寄せられないようにするのに手っ取り早い方法は恋人をつくることだ。完全にいなくなるわけではないが、恋人が出来たと知れば告白する者はぐっと数を減らすだろう。そしてその恋人にはマレウスがなりたいと切実に思っていた。
受け入れられるかどうかは一旦さておき、それならば告白すれば良いだろうと思うかも知れないが、マレウスにとって告白はするものではなくされるものという意識があった。
マレウスは次期王である。それがどういうことかと言えば、マレウスは自分から行動を起こすと言うことが滅多にないのだ。マレウスはリリアと恋人同士になりたい=リリアが告白するべきという図式が頭の中でつくられるくらいには無知故の傲慢な王の姿をしていた。
流石に学園に来て成長したマレウスは今はそんな風には(少ししか)思ってはいないが、いかんせん告白の仕方が全く見当もつかない。ゴーストの花嫁騒動の際に少しは見本になるかと寮内で観察していたがそれはもう酷いものだったと記憶している。
マレウスがうんうんとリリアへの告白で悩んでいるとは知らず、彼はいつものごとく呼び出しを受けていた。どうやら今回は他寮の下級生らしく、ディアソムニア寮の談話室でこれから用事があると席を立つところにマレウスは出くわしてしまった。
笑顔のリリアをマレウスは素直に送り出せない。言葉を飲み込み、立ち尽くしてしまったマレウスにリリアはどうした? と声をかける。
その瞬間のことだった。
マレウスはリリアの腕を取り、衝動のままに叫ぶ。
「リリア! 僕はリリアが好きだ!」
格好いい言葉も、雰囲気の良いシチュエーションでもない。ただただ純粋な愛の言葉をぶつけるだけの告白。しまった、とマレウスが我に返ったときには大勢の寮生で溢れていた談話室には沈黙が流れていた。リリアも俯いており、マレウスは今すぐ茨の谷に帰りたくなった。
「おや、リリア先輩……?」
「リリア様……?」
シルバーとセベクが微動だにしないリリアに声をかける。ちらり、とこちらを見た二人がマレウスに話しかけないのは優しさだろうか。
二人に話しかけられてバッと勢いよく顔を上げたリリアの表情は、マレウスが想像もしていなかったものだった。
「~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」
ボンッ! と効果音が聞こえてきそうなほどに顔を真っ赤に染めたリリアはぶんぶんと手を振りマレウスの拘束を解く。手が離れた瞬間にすぐさまマレウスから距離を取ったリリアは涙目だ。わなわなと身体を震わせて、リリアはマレウスに叫んだ。
「こ、こ、こんな場所で言う奴がおるかーーーーーーっっ!!」
心の叫びを上げたリリアは魔法で談話室から姿を消し、残されマレウスは呆然と立ち尽くす。
「……これは、振られたのだろうか」
マレウスの言葉に「いやどう見ても脈ありだっただろう!」と寮生の心が一致した瞬間だった。その中でも二人と交流の深いシルバーは、これから面倒ごとが起きそうな気配に深いため息を吐くのであった。
畳む
(毎日とは言っていない)
意外にもリリアは好意を寄せられることが多い。ディアソムニア寮では一番と言っても過言ではないだろう。見た目だけなら美少女と見間違う容姿をしており、それでいて面倒見が良い。ディアソムニア寮では珍しい陽気──あれを陽気の一言で片付けて良いものかそれはまた別問題だが──な性格も好かれる理由の一つだろうか。また、それとは反対に底が見えないミステリアスさや強者の余裕が垣間見えるところも惹かれる理由だと聞いたことがある。
マレウスもリリアが告白されているところを見たことがあるくらいには、彼はモテていた。
もっとも、リリアの料理の腕を知った者や実はかなりずぼらであることを知った者たちが「アレだけはない」と口を揃えて噂していることはマレウスも与り知らないことである。
さらにリリアは告白の断り方も上手であった。暴力に訴えるような輩は別として、相手を傷つけないように言葉を選び、青春の一ページにあるようなほんの少しだけ切ない、それでいて良い思い出になるように断るのがコツじゃとは本人の談だ。どんな断り方だ、とマレウスは思うのだが振った人物と振られた人物が仲良く談笑している場面を見かけたこともあり相当上手くやったのだろうと推測出来る。
なお、リリアが「はーーーー甘酸っぱい青春は良いのう~~! 若返る気分じゃ!! 命短し恋せよ若人たち……」などと考えてることは誰も知らない。わしってモテモテじゃな~~! とテンションが上がったまま酒を飲んで二日酔いになっているなどということは当人以外気づいていないのだ。
閑話休題。
さて、マレウスは学園に来て、他者と触れあい、そこで漸く「もしかしてリリアはモテるのか?」という事実に直面することになった。城の中にいたときはリリアが恐れられていたり森の中の小屋に住んでいたこともあり気づかなかったのだ。
リリアがモテていてとても困る。困っている、とマレウスは思う。なぜならマレウスもまたリリアに惹かれている者の一人だったからだ。
リリアが告白を受ける度に彼が告白を受け入れたらどうしよう、などと考えて外が雷雨になったこともあった。ちょうどマジフトの練習中でキングスカラーがこのトカゲやろうが!!!! と殴り込んできたのは忘れられない思い出である。
リリアがこれ以上思いを寄せられないようにするのに手っ取り早い方法は恋人をつくることだ。完全にいなくなるわけではないが、恋人が出来たと知れば告白する者はぐっと数を減らすだろう。そしてその恋人にはマレウスがなりたいと切実に思っていた。
受け入れられるかどうかは一旦さておき、それならば告白すれば良いだろうと思うかも知れないが、マレウスにとって告白はするものではなくされるものという意識があった。
マレウスは次期王である。それがどういうことかと言えば、マレウスは自分から行動を起こすと言うことが滅多にないのだ。マレウスはリリアと恋人同士になりたい=リリアが告白するべきという図式が頭の中でつくられるくらいには無知故の傲慢な王の姿をしていた。
流石に学園に来て成長したマレウスは今はそんな風には(少ししか)思ってはいないが、いかんせん告白の仕方が全く見当もつかない。ゴーストの花嫁騒動の際に少しは見本になるかと寮内で観察していたがそれはもう酷いものだったと記憶している。
マレウスがうんうんとリリアへの告白で悩んでいるとは知らず、彼はいつものごとく呼び出しを受けていた。どうやら今回は他寮の下級生らしく、ディアソムニア寮の談話室でこれから用事があると席を立つところにマレウスは出くわしてしまった。
笑顔のリリアをマレウスは素直に送り出せない。言葉を飲み込み、立ち尽くしてしまったマレウスにリリアはどうした? と声をかける。
その瞬間のことだった。
マレウスはリリアの腕を取り、衝動のままに叫ぶ。
「リリア! 僕はリリアが好きだ!」
格好いい言葉も、雰囲気の良いシチュエーションでもない。ただただ純粋な愛の言葉をぶつけるだけの告白。しまった、とマレウスが我に返ったときには大勢の寮生で溢れていた談話室には沈黙が流れていた。リリアも俯いており、マレウスは今すぐ茨の谷に帰りたくなった。
「おや、リリア先輩……?」
「リリア様……?」
シルバーとセベクが微動だにしないリリアに声をかける。ちらり、とこちらを見た二人がマレウスに話しかけないのは優しさだろうか。
二人に話しかけられてバッと勢いよく顔を上げたリリアの表情は、マレウスが想像もしていなかったものだった。
「~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」
ボンッ! と効果音が聞こえてきそうなほどに顔を真っ赤に染めたリリアはぶんぶんと手を振りマレウスの拘束を解く。手が離れた瞬間にすぐさまマレウスから距離を取ったリリアは涙目だ。わなわなと身体を震わせて、リリアはマレウスに叫んだ。
「こ、こ、こんな場所で言う奴がおるかーーーーーーっっ!!」
心の叫びを上げたリリアは魔法で談話室から姿を消し、残されマレウスは呆然と立ち尽くす。
「……これは、振られたのだろうか」
マレウスの言葉に「いやどう見ても脈ありだっただろう!」と寮生の心が一致した瞬間だった。その中でも二人と交流の深いシルバーは、これから面倒ごとが起きそうな気配に深いため息を吐くのであった。
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マレリリ小話毎日更新企画中その3
(毎日とは言っていない)
このあとR-18になる。そっちはちょっとだけ時間かかるかな?
R-18になるまでのお話
──なんて、いたわしい。
リリアが魔法を発動出来なかった姿を見てマレウスが真っ先に覚えたのは同情心だ。城の者で誰よりも強かったはずの彼が魔法一つ行使出来ない様子は痛々しさと同時に哀れみを呼び起こす。なんて可哀想なリリア。だからこそ、マレウスが助けなくてはいけない。
誰もが幸せになれる心からの贈り物を、と差し出した手をリリアは払いのけてこちらに咎めるような視線を向ける。まさか拒絶されるなどと考えてもいなかったため呆気に取られたマレウスに彼は畳み掛けるように声を荒げた。
「馬鹿者! お前は自分がなにをしているか、わかっておるのか!?」
リリアの怒号に我に返った他寮の生徒、寮長たちがマレウスに杖を向ける。批難する視線が煩わしいと苛立ちが腹の奥に積もっていくようだ。マレウスはこの場にいる全ての者に祝福を贈るつもりだったが、立ち塞がるのならば致し方ないだろう。
マレウスはたった一度だけ杖を鳴らし、地面から無数の茨を出現させる。リリア以外を拘束した茨の棘に大勢の者が苦痛の声を上げてその場に蹲った。流石に寮長クラスになると痛みに耐えてその場に立っているようだがこの茨は触れている者の魔力を奪う。クソが、と吐き捨てたキングスカラーは心底忌々しいという表情をしており、その様子に少しだけ気分が高揚する。
カツン、とヒールの音を立てリリアの前に立つ。鋭い眼差しを崩さない彼の頬に触れ、もう一度だけ優しく語りかけた。
「リリア、僕の手を取り、心からの贈り物を受け取ってくれないか?」
「──断るっ!! お主、こんなことをしてなんになる! いい加減目を覚ませ!!」
再び拒絶したリリアにマレウスはただただ落胆する。失わずにいて欲しいと願っただけなのに、どうして叶わないのだろうか。どうしてリリアさえもマレウスを拒絶するのだろうか。
最初からリリアを諦められるくらいならば、マレウスだって悩むことはなかった。
嗚呼、そうか。天啓に打たれたかのようにマレウスは気づく。自分はリリアを愛しているのだ。愛しているから失いたくない、諦めきれない。
「お前を失わずに済む!!」
感情のままに叫んだ言葉にリリアが息を飲み、隙が出来る。それは時間で言えば刹那の、けれども昔の彼では考えられないほどの大きな油断であった。そしてマレウスにとってはその一瞬の隙だけで充分だ。
リリアの腕を掴み転移魔法を使う。行く先は何処だって構わなかった、二人きりになれる場所ならば何処でも良いと場所を指定せずに魔法を行使した。
そのせいで二人が現れた場所はなにもない白い空間──おそらく無意識に他者の関わりを避けるために空間を創ったのだろう──だった。ただ空間があるだけで他にはなにも存在しておらず、何処まで続いているのかは術者のマレウスでさえ把握出来ていない。
もっともマレウスにとって重要な点は、この空間にリリアと二人きりということであり、他のことは問題にもならない些細なことであった。だが彼はそう考えてはいないようで急に知らない場所に連れてこられたこと、こちらの行動が問題だと糾弾する。
──そうやって囀る口に、マレウスは唇を重ねた。
「……は、おぬ、し……今……」
己の唇を触りながらリリアが呆然と呟く。なにが起きたのかわからないというような顔をしている彼とは正反対にマレウスの心は満たされていた。これをずっと望んでいたのだと、不思議とそうすることが正しいのだと心が、身体が喜びに打ち震えている。
リリアにもっと触れたい、とマレウスは再び唇を重ねた。
「んんんっ……!! んんっ、はっ、ぁ! んんんんっっ────!!」
リリアがマレウスを殴ろうと振りかざした手を掴み、今度は彼の口内へ舌をねじ込ませる。目を見開いたリリアは生理的な涙を零しながらも抵抗を続け、こちらの舌を噛み切ろうとする意思を見せた。
だがそれよりも早く、マレウスはリリアの四肢に茨を巻き付けた。この空間の自分の魔力で満たされているため魔法を使う動作をしなくとも思うだけで魔法が発動するのだ。そしてリリアを拘束している茨は先ほどとは違い棘がないものの、魔力を奪うことには変わらない。そうすれば失った魔力を得ようと生存本能が働き、空間に漂っている魔力を本能的に集めてしまう。さらに身体の接触から回収出来る魔力は相手が強者であればあるほど膨大であり、リリアは舌を噛み切るどころか腰が抜けたようにマレウスの胸元へもたれかかってくる。
「ふっ、ぁ……はっ、んっ……! んぁ……っ!」
甘えるような熱の籠もった吐息にマレウスはほくそ笑む。リリアの足は小さく震えているが茨の拘束によってなんとかその場に立っていられているようだった。
唇を離せば飲み込まなかった唾液がリリアの顎を伝って地に落ちる。次々と頬を流れる涙を唇で掬いながらマレウスは彼を抱きしめた。
「愛している、リリア」
歓喜に満ちあふれたまま想いを告げる。なんと幸福なのだろうか──このまま、死んでも良いくらいだ、とマレウスは笑う。
「お主、まさか、オーバーブロットして……! 馬鹿者、今すぐ魔法を中断せぬかっ! このままだと死んでしまうぞ……っ!!」
「構わない」
「────な、にを……」
「構わない、と言ったんだリリア。このまま二人でいること以上の幸福があるか? リリアを失わないで済むんだ、他の者なんていらない。リリア、お前もそうだろう?」
「違うっっ!! マレウス、お前は間違っておる! こんなお主を、わしは愛さぬっ!!」
マレウスを押しのけ、茨の拘束を解こうとがむしゃらに全身を動かして抵抗し始めるリリアの姿に、マレウスは深いため息を吐いた。
もうマレウスにはなにが正しくて、間違っているかの判断がつかない。わかることはリリアが愛していないというのならば、愛するようにすれば良いということだけだ。今のマレウスにはそれが出来る力がある。
「ならば、リリア。その身に教えてやろう、リリアが誰のものなのか。だってリリアは、僕を愛しているだろう?」
その言葉にリリアが息を飲む。奇しくもそれが自身の母親と同じ言葉だと知らないまま、マレウスは妖艶に微笑んだ。畳む
(毎日とは言っていない)
このあとR-18になる。そっちはちょっとだけ時間かかるかな?
R-18になるまでのお話
──なんて、いたわしい。
リリアが魔法を発動出来なかった姿を見てマレウスが真っ先に覚えたのは同情心だ。城の者で誰よりも強かったはずの彼が魔法一つ行使出来ない様子は痛々しさと同時に哀れみを呼び起こす。なんて可哀想なリリア。だからこそ、マレウスが助けなくてはいけない。
誰もが幸せになれる心からの贈り物を、と差し出した手をリリアは払いのけてこちらに咎めるような視線を向ける。まさか拒絶されるなどと考えてもいなかったため呆気に取られたマレウスに彼は畳み掛けるように声を荒げた。
「馬鹿者! お前は自分がなにをしているか、わかっておるのか!?」
リリアの怒号に我に返った他寮の生徒、寮長たちがマレウスに杖を向ける。批難する視線が煩わしいと苛立ちが腹の奥に積もっていくようだ。マレウスはこの場にいる全ての者に祝福を贈るつもりだったが、立ち塞がるのならば致し方ないだろう。
マレウスはたった一度だけ杖を鳴らし、地面から無数の茨を出現させる。リリア以外を拘束した茨の棘に大勢の者が苦痛の声を上げてその場に蹲った。流石に寮長クラスになると痛みに耐えてその場に立っているようだがこの茨は触れている者の魔力を奪う。クソが、と吐き捨てたキングスカラーは心底忌々しいという表情をしており、その様子に少しだけ気分が高揚する。
カツン、とヒールの音を立てリリアの前に立つ。鋭い眼差しを崩さない彼の頬に触れ、もう一度だけ優しく語りかけた。
「リリア、僕の手を取り、心からの贈り物を受け取ってくれないか?」
「──断るっ!! お主、こんなことをしてなんになる! いい加減目を覚ませ!!」
再び拒絶したリリアにマレウスはただただ落胆する。失わずにいて欲しいと願っただけなのに、どうして叶わないのだろうか。どうしてリリアさえもマレウスを拒絶するのだろうか。
最初からリリアを諦められるくらいならば、マレウスだって悩むことはなかった。
嗚呼、そうか。天啓に打たれたかのようにマレウスは気づく。自分はリリアを愛しているのだ。愛しているから失いたくない、諦めきれない。
「お前を失わずに済む!!」
感情のままに叫んだ言葉にリリアが息を飲み、隙が出来る。それは時間で言えば刹那の、けれども昔の彼では考えられないほどの大きな油断であった。そしてマレウスにとってはその一瞬の隙だけで充分だ。
リリアの腕を掴み転移魔法を使う。行く先は何処だって構わなかった、二人きりになれる場所ならば何処でも良いと場所を指定せずに魔法を行使した。
そのせいで二人が現れた場所はなにもない白い空間──おそらく無意識に他者の関わりを避けるために空間を創ったのだろう──だった。ただ空間があるだけで他にはなにも存在しておらず、何処まで続いているのかは術者のマレウスでさえ把握出来ていない。
もっともマレウスにとって重要な点は、この空間にリリアと二人きりということであり、他のことは問題にもならない些細なことであった。だが彼はそう考えてはいないようで急に知らない場所に連れてこられたこと、こちらの行動が問題だと糾弾する。
──そうやって囀る口に、マレウスは唇を重ねた。
「……は、おぬ、し……今……」
己の唇を触りながらリリアが呆然と呟く。なにが起きたのかわからないというような顔をしている彼とは正反対にマレウスの心は満たされていた。これをずっと望んでいたのだと、不思議とそうすることが正しいのだと心が、身体が喜びに打ち震えている。
リリアにもっと触れたい、とマレウスは再び唇を重ねた。
「んんんっ……!! んんっ、はっ、ぁ! んんんんっっ────!!」
リリアがマレウスを殴ろうと振りかざした手を掴み、今度は彼の口内へ舌をねじ込ませる。目を見開いたリリアは生理的な涙を零しながらも抵抗を続け、こちらの舌を噛み切ろうとする意思を見せた。
だがそれよりも早く、マレウスはリリアの四肢に茨を巻き付けた。この空間の自分の魔力で満たされているため魔法を使う動作をしなくとも思うだけで魔法が発動するのだ。そしてリリアを拘束している茨は先ほどとは違い棘がないものの、魔力を奪うことには変わらない。そうすれば失った魔力を得ようと生存本能が働き、空間に漂っている魔力を本能的に集めてしまう。さらに身体の接触から回収出来る魔力は相手が強者であればあるほど膨大であり、リリアは舌を噛み切るどころか腰が抜けたようにマレウスの胸元へもたれかかってくる。
「ふっ、ぁ……はっ、んっ……! んぁ……っ!」
甘えるような熱の籠もった吐息にマレウスはほくそ笑む。リリアの足は小さく震えているが茨の拘束によってなんとかその場に立っていられているようだった。
唇を離せば飲み込まなかった唾液がリリアの顎を伝って地に落ちる。次々と頬を流れる涙を唇で掬いながらマレウスは彼を抱きしめた。
「愛している、リリア」
歓喜に満ちあふれたまま想いを告げる。なんと幸福なのだろうか──このまま、死んでも良いくらいだ、とマレウスは笑う。
「お主、まさか、オーバーブロットして……! 馬鹿者、今すぐ魔法を中断せぬかっ! このままだと死んでしまうぞ……っ!!」
「構わない」
「────な、にを……」
「構わない、と言ったんだリリア。このまま二人でいること以上の幸福があるか? リリアを失わないで済むんだ、他の者なんていらない。リリア、お前もそうだろう?」
「違うっっ!! マレウス、お前は間違っておる! こんなお主を、わしは愛さぬっ!!」
マレウスを押しのけ、茨の拘束を解こうとがむしゃらに全身を動かして抵抗し始めるリリアの姿に、マレウスは深いため息を吐いた。
もうマレウスにはなにが正しくて、間違っているかの判断がつかない。わかることはリリアが愛していないというのならば、愛するようにすれば良いということだけだ。今のマレウスにはそれが出来る力がある。
「ならば、リリア。その身に教えてやろう、リリアが誰のものなのか。だってリリアは、僕を愛しているだろう?」
その言葉にリリアが息を飲む。奇しくもそれが自身の母親と同じ言葉だと知らないまま、マレウスは妖艶に微笑んだ。畳む
すき!ありがとうございます!
とっても嬉しいです!
とっても嬉しいです!
マレリリ小話毎日更新企画中その2
(毎日とは言っていない)
「んっ、むぅ、ふ、ぁ……っ」
マレウスはリリアの下唇を己のそれで甘く食み、開いた隙間からぬるりと生温かい舌を入れた。逃げる舌を最初から追いかけることはせずにまずは鋭く尖った犬歯をなぞればリリアの肩が跳ねる。弱点というよりも尖鋭な歯がマレウスの舌を傷つけないか不安なのだろうか、目を瞑ったまま眉を顰めていた。頭を後ろに引き、両手でマレウスの胸板を押しのけようと逃げる素振りを見せたためにリリアの後頭部に手を回して動けないように固定する。
「んんっ、んむっ、っふ……!」
必然的に深まるキスにリリアの口からは空気が漏れたような声が上がる。随分と熱の籠もったそれはリリアの頬を赤く染め上げていき、白い肌に良く映えていた。
ほんの少しの悪戯心で、マレウスはリリアの犬歯で自らの舌を傷つける。途端に広がる血の味にリリアは目を開いたようでこちらと視線が絡み合う。見られていたことを察したリリアがさらに羞恥で顔を紅潮させ、薄い水の膜が張った瞳で睨んでくる姿はたまらく愛しい。
背筋にえも知れぬ感覚が走り、舌から流れる血を塗り込むようにリリアの口内を蹂躙していく。
「んんんっ……!! んっ、んんっ、はっ、ふ、ぅ!」
リリアがぎゅっと瞼を閉じた拍子に頬に涙が伝う。それもまたマレウスにとっては馳走に見えたが、今夜はこのままキスを続けたい気分だった。
歯列をなぞり、上顎の形を確かめるように舌先で舐め上げる。それから逃げていたリリアの舌を捕らえた。
びくり、と震えるリリアに少しだけマレウスは笑いそうになる。もう何度キスや身体を交わらせてもリリアは慣れない様子で、それが余計にマレウスの加虐性を強くしていると知らないのだろうか。
舌の中央にある少し窪んだところを先端から奥までじっくりとねぶっていく。するとリリアの身体から力が抜け、全身をこちらに預けるようにもたれかかってくる。両手は縋りつくようにマレウスの背に回り、ふーっ、ふーっ、と獣のように呼吸を荒くしていた。
互いの舌を絡ませ、混ざり合った唾液を流し込む。飲み込めなかった体液はリリアの顎を伝い、服に濃い染みをつくったようだ。舌を擦り合わせた後に舌先をじゅっ、っと音を立てながら吸い上げればリリアの口からくぐもった悲鳴が上がる。
「んんんっっ! はっ、んぅぅ……っっ!!」
リリアの身体が一際大きく跳ねた。それからリリアが急に目を見開きマレウスを睨み付けたかと思えばこちらの両頬を軽く叩く。一瞬呆けたマレウスの隙をついて拘束から逃げ出したリリアは頬を涙で濡らし、顔を真っ赤に染めたまま口元を両手で押えた。
「ばかもの、キス魔、今度からお主をむっつりスケベと呼んでやる」
「リリア」
「ばか、ばかもの。わしがキスに弱いと知っていて、こんな、こんな……」
ぼろぼろと涙が止まらないリリアを見て、漸くマレウスは己がやり過ぎたのだと気づく。だが、正直に言ってしまえばキスで感じ入り羞恥に震えているリリアの姿はたまらなくそそるものであった。
「すまない、リリア」
謝罪と共にリリアを抱き寄せる。そこで抵抗を一切しないリリアは甘いのか、それとも彼もまたこの先を期待しているのかマレウスには判断がつかなかった。どちらにせよマレウスの傲慢とも言える立ち振る舞いを許しているのは、リリア本人だ。
「────だが、気持ち良かっただろう?」
リリアの耳に直接言葉を吹き込むように彼の耳元で囁く。間髪入れずに肩を震わせるリリアは、ばか! と叫びながらマレウスの胸ぐらを掴んだ勢いそのままに唇を重ねてくる。マレウスの舌に自ら舌を絡ませてくるリリアに自然と口角が上がった。
一度唇を離し、マレウスは濡れた唇を舌で舐める。
「窒息するまで、愛してやろう」
熱を孕んだ声にリリアが目を閉じたのを見届けてから、マレウスもまた瞳を閉じて再び唇を重ねたのだった。
畳む
(毎日とは言っていない)
「んっ、むぅ、ふ、ぁ……っ」
マレウスはリリアの下唇を己のそれで甘く食み、開いた隙間からぬるりと生温かい舌を入れた。逃げる舌を最初から追いかけることはせずにまずは鋭く尖った犬歯をなぞればリリアの肩が跳ねる。弱点というよりも尖鋭な歯がマレウスの舌を傷つけないか不安なのだろうか、目を瞑ったまま眉を顰めていた。頭を後ろに引き、両手でマレウスの胸板を押しのけようと逃げる素振りを見せたためにリリアの後頭部に手を回して動けないように固定する。
「んんっ、んむっ、っふ……!」
必然的に深まるキスにリリアの口からは空気が漏れたような声が上がる。随分と熱の籠もったそれはリリアの頬を赤く染め上げていき、白い肌に良く映えていた。
ほんの少しの悪戯心で、マレウスはリリアの犬歯で自らの舌を傷つける。途端に広がる血の味にリリアは目を開いたようでこちらと視線が絡み合う。見られていたことを察したリリアがさらに羞恥で顔を紅潮させ、薄い水の膜が張った瞳で睨んでくる姿はたまらく愛しい。
背筋にえも知れぬ感覚が走り、舌から流れる血を塗り込むようにリリアの口内を蹂躙していく。
「んんんっ……!! んっ、んんっ、はっ、ふ、ぅ!」
リリアがぎゅっと瞼を閉じた拍子に頬に涙が伝う。それもまたマレウスにとっては馳走に見えたが、今夜はこのままキスを続けたい気分だった。
歯列をなぞり、上顎の形を確かめるように舌先で舐め上げる。それから逃げていたリリアの舌を捕らえた。
びくり、と震えるリリアに少しだけマレウスは笑いそうになる。もう何度キスや身体を交わらせてもリリアは慣れない様子で、それが余計にマレウスの加虐性を強くしていると知らないのだろうか。
舌の中央にある少し窪んだところを先端から奥までじっくりとねぶっていく。するとリリアの身体から力が抜け、全身をこちらに預けるようにもたれかかってくる。両手は縋りつくようにマレウスの背に回り、ふーっ、ふーっ、と獣のように呼吸を荒くしていた。
互いの舌を絡ませ、混ざり合った唾液を流し込む。飲み込めなかった体液はリリアの顎を伝い、服に濃い染みをつくったようだ。舌を擦り合わせた後に舌先をじゅっ、っと音を立てながら吸い上げればリリアの口からくぐもった悲鳴が上がる。
「んんんっっ! はっ、んぅぅ……っっ!!」
リリアの身体が一際大きく跳ねた。それからリリアが急に目を見開きマレウスを睨み付けたかと思えばこちらの両頬を軽く叩く。一瞬呆けたマレウスの隙をついて拘束から逃げ出したリリアは頬を涙で濡らし、顔を真っ赤に染めたまま口元を両手で押えた。
「ばかもの、キス魔、今度からお主をむっつりスケベと呼んでやる」
「リリア」
「ばか、ばかもの。わしがキスに弱いと知っていて、こんな、こんな……」
ぼろぼろと涙が止まらないリリアを見て、漸くマレウスは己がやり過ぎたのだと気づく。だが、正直に言ってしまえばキスで感じ入り羞恥に震えているリリアの姿はたまらなくそそるものであった。
「すまない、リリア」
謝罪と共にリリアを抱き寄せる。そこで抵抗を一切しないリリアは甘いのか、それとも彼もまたこの先を期待しているのかマレウスには判断がつかなかった。どちらにせよマレウスの傲慢とも言える立ち振る舞いを許しているのは、リリア本人だ。
「────だが、気持ち良かっただろう?」
リリアの耳に直接言葉を吹き込むように彼の耳元で囁く。間髪入れずに肩を震わせるリリアは、ばか! と叫びながらマレウスの胸ぐらを掴んだ勢いそのままに唇を重ねてくる。マレウスの舌に自ら舌を絡ませてくるリリアに自然と口角が上がった。
一度唇を離し、マレウスは濡れた唇を舌で舐める。
「窒息するまで、愛してやろう」
熱を孕んだ声にリリアが目を閉じたのを見届けてから、マレウスもまた瞳を閉じて再び唇を重ねたのだった。
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マレリリ小話毎日更新企画中
(毎日とは言っていない)
マレウスはリリアに対して好き、という言葉を告げたことがない。
たとえばリリアが屈託なく笑うとき、シルバーやセベクと共にいるとき、ただ真っ直ぐにこちらを見るときに彼を好きだな、とマレウスは思うことがある。だがそのときに感じた想いをリリアに告げたことはなかった。
多分告げない方が良いのだと、理由はわからなくともそう思っていた。そのせいで心が苦しく思うことや悲しくなることがほんの少しだけあったが、それでも良いと思っていたのだ。
だって二人の関係はいつまでも変わらない。マレウスの隣にはリリアがいて、彼の隣には自分がいるのだとそう信じて疑わなかった。
そう、信じていたのだ。リリアの一言を聞くまでは。
「わしは、この学園を中退する」
リリが魔力を失いかけていることにマレウスは全く気づかなかった。また、リリアもマレウスに対して一言もそんなことを伝えなかった。
赤竜の国に行くのだとリリアは言う。残念です、とセベクが悲しそうに呟き、シルバーはなにかを堪えるようにぎゅっと手を強く握りながら親父殿が決めたことなら、と寂しそうに笑った。マレウスだけが、リリアのことを見送る言葉を言えずにいた。
どうして皆は別れの言葉を告げることが出来るのだろうか。ディアソムニア寮生だけではなく他寮の生徒、教師までもがリリアの中退を悲しみ、それでも別れの言葉を投げかける。
──もう二度と会えないはずなのに、だ。
赤竜の国など誰もがいける場所ではない。この学園がリリアの姿を見る最後の場所になるのに、誰一人彼を引き留める者はいなかった。
自分だけが間違っているのだろうか、とマレウスは大勢の人間がいるはずの学園で孤独を感じた。
だって想像もしていなかったのだ。リリアがマレウスの傍からいなくなるなど、もう二度と彼の笑顔も声もなにもかもがなくなってしまうなんて。
心が張り裂けるように痛い。その痛さが、リリアを好きということの証など知りたくもなかった。
「……マレウス、わしは、」
最後の夜だから、とマレウスの部屋に訪れたリリアに心境を吐露すれば彼は寂しそうに笑う。別れの言葉など聞きたくない、と抱きしめたリリアの身体はマレウスよりも小さく、それでもこんなにも自分にとって大きな存在だった。
「……傍にいてくれ、リリア。何処にも行かないで、ここにいてくれ……」
「マレウス……」
──好きだ、と禁忌にしていた言葉を告げる。その瞬間、リリアが息を飲んだ。
好きだ、愛していると今までいなかったときを埋めるようにマレウスはただひたすらリリアへの愛の言葉を囁く。そうすればリリアがマレウスの傍にいることを選んでくれると、そう思いたかった。
「すまぬ……マレウス。わしも、お主を愛している。だから、その望みは聞けぬ」
──さようなら、とリリアは頬を濡らしながら唇を重ねる。
それが決別のためのキスだとマレウスは気づいてしまった。この瞬間に、リリアは恋心を捨てたのだと。そして同時にマレウスの恋心を打ち砕いたのだ、と。
そうして部屋から出て行くリリアを引き留めることは出来なかった。もっと早く、想いを告げていれば良かったのだろうかと後悔だけが過ぎる。関係を変えることを恐れなければ、リリアは傍にいてくれただろうか。
どうすれば良かったのだろう。なにが正解だったのか、マレウスにはわからない。
だから、だから──。
「どうか受け取って欲しい……僕の心からの贈り物を」
正解を教えてくれないのならば、正解を作るしかないのだ。
『運命の糸車よ、災いの糸を紡げ。深淵の王たる我が授けよう』
──祝福を。
全ての者に。そして、マレウスとリリアの恋心に、永遠の祝福を。
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(毎日とは言っていない)
マレウスはリリアに対して好き、という言葉を告げたことがない。
たとえばリリアが屈託なく笑うとき、シルバーやセベクと共にいるとき、ただ真っ直ぐにこちらを見るときに彼を好きだな、とマレウスは思うことがある。だがそのときに感じた想いをリリアに告げたことはなかった。
多分告げない方が良いのだと、理由はわからなくともそう思っていた。そのせいで心が苦しく思うことや悲しくなることがほんの少しだけあったが、それでも良いと思っていたのだ。
だって二人の関係はいつまでも変わらない。マレウスの隣にはリリアがいて、彼の隣には自分がいるのだとそう信じて疑わなかった。
そう、信じていたのだ。リリアの一言を聞くまでは。
「わしは、この学園を中退する」
リリが魔力を失いかけていることにマレウスは全く気づかなかった。また、リリアもマレウスに対して一言もそんなことを伝えなかった。
赤竜の国に行くのだとリリアは言う。残念です、とセベクが悲しそうに呟き、シルバーはなにかを堪えるようにぎゅっと手を強く握りながら親父殿が決めたことなら、と寂しそうに笑った。マレウスだけが、リリアのことを見送る言葉を言えずにいた。
どうして皆は別れの言葉を告げることが出来るのだろうか。ディアソムニア寮生だけではなく他寮の生徒、教師までもがリリアの中退を悲しみ、それでも別れの言葉を投げかける。
──もう二度と会えないはずなのに、だ。
赤竜の国など誰もがいける場所ではない。この学園がリリアの姿を見る最後の場所になるのに、誰一人彼を引き留める者はいなかった。
自分だけが間違っているのだろうか、とマレウスは大勢の人間がいるはずの学園で孤独を感じた。
だって想像もしていなかったのだ。リリアがマレウスの傍からいなくなるなど、もう二度と彼の笑顔も声もなにもかもがなくなってしまうなんて。
心が張り裂けるように痛い。その痛さが、リリアを好きということの証など知りたくもなかった。
「……マレウス、わしは、」
最後の夜だから、とマレウスの部屋に訪れたリリアに心境を吐露すれば彼は寂しそうに笑う。別れの言葉など聞きたくない、と抱きしめたリリアの身体はマレウスよりも小さく、それでもこんなにも自分にとって大きな存在だった。
「……傍にいてくれ、リリア。何処にも行かないで、ここにいてくれ……」
「マレウス……」
──好きだ、と禁忌にしていた言葉を告げる。その瞬間、リリアが息を飲んだ。
好きだ、愛していると今までいなかったときを埋めるようにマレウスはただひたすらリリアへの愛の言葉を囁く。そうすればリリアがマレウスの傍にいることを選んでくれると、そう思いたかった。
「すまぬ……マレウス。わしも、お主を愛している。だから、その望みは聞けぬ」
──さようなら、とリリアは頬を濡らしながら唇を重ねる。
それが決別のためのキスだとマレウスは気づいてしまった。この瞬間に、リリアは恋心を捨てたのだと。そして同時にマレウスの恋心を打ち砕いたのだ、と。
そうして部屋から出て行くリリアを引き留めることは出来なかった。もっと早く、想いを告げていれば良かったのだろうかと後悔だけが過ぎる。関係を変えることを恐れなければ、リリアは傍にいてくれただろうか。
どうすれば良かったのだろう。なにが正解だったのか、マレウスにはわからない。
だから、だから──。
「どうか受け取って欲しい……僕の心からの贈り物を」
正解を教えてくれないのならば、正解を作るしかないのだ。
『運命の糸車よ、災いの糸を紡げ。深淵の王たる我が授けよう』
──祝福を。
全ての者に。そして、マレウスとリリアの恋心に、永遠の祝福を。
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リドエー&マレリリ没小説 いつかは続きを書きたい
エース、プラチナジャケットエピソードネタバレあり
黎明の国、国立美術館。様々な展示物があるなか、エースはトランプ兵が一糸乱れぬ姿で隊列している絵画の前でふと足を止める。入寮してから行った行進を思い出し、自分だけが褒められた記憶にほんの少しだけ頬が緩む。だが、すぐにその笑みはため息へと変わり、嬉しかった思い出が今の自分の心境に塗り替えされていく。
トランプ兵。ハーツラビュル。なんでもない日のケーキ。寮長。真っ赤なバラ。リドル・ローズハート。連想ゲームのように様々な物、場所、人物が頭の中に浮かび上がり、そこにはエースが考えないでいようと思っていた人物がいた。
未練がましい自分に苦笑いするしかなく、エースは早く立ち去ろうと一歩を踏み出す。その瞬間に背後から声をかけられた。
「ほう、なかなか壮観な絵画じゃのう」
「びっ、くりしたぁ……。リリア先輩、急に話しかけないでくださいよ~」
「くふふ、わしは神出鬼没な美少年じゃからのう。それは無理な相談じゃ」
気配もなく現れたリリアはエースの隣に立ち、顔を覗き込んでくる。
「それで? お主はずっとこの絵画を見ていたようじゃが、自分の寮でも思い出したか?」
何もかも見透かすような紅い瞳──まるでバラのようだ──から逃れるように視線を絵画に戻し、エースは「あー……」と言葉を濁した。
思い出したのは本当だが、その内容をバカ正直に言うことは出来ない。リリアならば言っても問題はないだろうが、彼だからこそエースは言いたくはなかった。
リリアは、エースと違い想いを成就させた人物なのだから。
「まあ、そうっすね。入寮して初めての行進を思い出したんですよ、ほんともう最悪な出来でこの絵のトランプ兵とは似ても似つかないカンジ。全員動きがバラバラで、めちゃくちゃ怒られて超ダサかった。ま、オレは褒められましたけどね♪」
「ほう……」
嘘は言ってはいない、初めての行進を思い出したのは事実である。だが含みのある視線を向けてくるリリアはエースが言葉に隠した裏の気持ちに勘づいているかのようににやりと笑った。
「その割には随分と切ない表情をしておったがな。まるで恋をしているかのように」
「……はっ、そんなわけ……」
声が震えながらも返した精一杯の強がりにリリアは穏やかに笑い、エースの頭を撫でる。よしよし、と親が子に向けるような仕草に胸の奥から複雑な感情が湧いて無性に泣き出したくなってしまう。手のひらをぎゅっと強く握りしめ涙を堪えながらリリアを睨み付けた。
エースの表情に呆けた顔を見せたリリアはすぐさま微笑んでその場からふわりと浮き上がる。そのまま絵画からエースを隠すように頭を抱えて「辛いのう」と呟いた。
「己の感情だというのに、全く言うことを聞かん。醜い感情や嬉しい気持ちが勝手に溢れて止められず、ずっと振り回されてばかりじゃ」
「────」
「お主もまた、辛い恋をしておるのじゃな」
慈しむような声色と抱きしめられているという温かさにエースの虚勢が壊されていく。ひくついた喉から漏れた声は意味を持たず、滲む視界を認識したくないと瞼を閉じる。
みっともない、泣くな、と涙を止めようとすればするほど感情が高ぶり、瞳から零れていく涙を止められない。ずっと一人で抱えていた感情が頬を伝う滴となって決壊してしまう。
寮長。リドル寮長。どうしてここにいるのがリドルではないのだろうか、と考えると同時にここにいるのが彼ではないことにエースは安堵を覚えていた。
好きです、と伝えたくて、けれども伝えないことを決めた感情が体の中を駆け巡っている。
いつからリドルを好きになったのかなどわからないくらいに、エースの視線は彼を追ってしまうようになった。出会った最初は融通の利かない、嫌な奴だと絶対に仲良くなんて出来ないと思っていたのだ。それでもリドルの環境を知り、望みを聞いて、王として立ち向かう姿を見てしまったときからエースの感情は次第に新たな感情を生み出してしまった。誰よりもリドルに褒められたくて柄にもなく勉学に励み、それが叶ったときの喜び。トレイと睦まじく談笑している様子を見たときの嫉妬と悲しみ。触れたい、触れて欲しいと願ってしまったときに、エースはリドルのことが好きなのだと認めてしまった。
絶対に叶わない恋を、エースはしてしまったのだ。
「くそ……っ、こんな、オレ、ダサすぎ……っ」
「ふふっ、良い良い。泣けば心も軽くなるじゃろ」
「そんな、のっ、リリア先輩に、頼んでないじゃん……っ!」
「まあそうなんじゃが、泣きそうな顔で立ち尽くすお主を見たら流石に放っておくことは出来ぬ。わしは優しい先輩じゃからのう!」
「どこが……こんな、可愛い後輩を泣かせておいて……っ!」
「くふふ、生意気な口じゃのう~。こうしてやるわい!」
エースの頭を離したリリアはそのまま指を頬へと滑らせて軽く左右に引っ張る。抗議の声を上げるエースを無視し、頬を左右だけではなく上下にも動かし始めるリリアに涙も止まっていく。少しだけリリアから逃れようと身動ぎすれば彼は意図を読み取ったかのようにぱっと身を離した。
「あ~もう、ほんとマレウス先輩って良くリリア先輩の手綱握れますね。尊敬するわ」
「長い付き合いじゃからのう。それに惚れた弱みもある」
「あっ、そう……。堂々と恋人ですって言えるのほんと羨ましい。オレの恋なんて絶対に叶わないし」
涙を拭いながら零した言葉にリリアは「そうなのか?」と驚いた表情を見せる。泣いたことで少しだけ気が晴れたエースは頷いてからもう一度羨ましい、と呟いた。
「オレの好きな相手って、ぶっちゃけるとリドル寮長なんですよね。ね、絶対に無理でしょ。あの真面目な人がオレみたいな奴を好きになるなんて絶対にあり得ない。あり得るとしたらトレイ先輩とか? ほら、トレイ先輩って寮長のこと甘やかしてるし、寮長も甘えてるなってわかるんだよね」
「それは、ずっと見てきたからか?」
質問のようで断言するかのような口調にエースはただただ苦笑する。
「リリア先輩って容赦ないっすね。そうですよ、好きって気がついてからずっとオレはリドル寮長だけを見ていました。でも向こうは一切気づかねえの、もうここまでくると笑える」
だから、諦めようと決めたんだ。か細く、自分に言い聞かせるような囁きのような言葉は、けれどリリアには届いたらしい。
想いを告げようとは思わないのか、と投げかけられた質問にエースは首を横に振る。
「困らせたくないし、正直、振られるってわかってて告白なんてしたくない」
「だから、諦めると?」
「それが正解でしょ? 誰も傷つかない、不幸にならないじゃん」
「……わしは、そうは思わん」
「リリア先輩は、想いが叶ったから言えるんじゃん。オレの気持ちなんて、叶わない恋をした奴の気持ちなんてわかんないよ」
卑怯な言い方だ、とエースは思う。少なくとも八つ当たりで先輩に投げつける言葉ではないと理解していたが滑り出た言葉は止められなかった。
「幸せな恋人同士なリリア先輩には、絶対にわからないよ」
「幸せな恋人同士のう……。ふふ、ではここでお主に問題じゃ」
「は?」
「赤ん坊はどうやって出来ると思う?」
「赤ん坊って、そりゃあ、もちろん男女が……」
いきなり変な問題を出すリリアに呆気に取られながらエースは答え、その回答に彼は良く出来ましたとばかりに満面の笑みを浮かべる。しかし視線はエースから絵画へと逸らされ、釣られるように自分もトランプ兵の絵画へと顔を向けた。
「そう、子は男女間の営みで出来る。それは妖精であるわしやマレウスも変わらない。どんなに願っても、わしは子を産めん。……じゃが、マレウスには跡継ぎが必要じゃ」
「……え? は、ちょっと意味が、」
「お主、わしとマレウスを幸せな恋人同士じゃと言ったな? じゃが、将来的にマレウスには跡継ぎが必要になる。そのとき、子を産めないわしは必要ない。……わしは、いつかマレウスと別れる。そしてマレウスは、誰かと結婚をして子を成す」
「…………」
リリアが告げた言葉はエースの想像を超えており、理解するのに少しばかりの時間を要した。言葉を咀嚼し、飲み込み認識した後にハッとリリアを見れば彼は寂しそうな笑みを浮かべているのが見えた。
「お主の言う幸せな恋人の姿は、きっと学生のうちだけじゃ。茨の谷に戻れば、わしはただの臣下になる。マレウスと結ばれることは、ない」
「それ、マレウス先輩も同意の上なんですか……?」
その言葉にリリアはただ曖昧に笑みを浮かべる。沈黙は肯定であると言ったのは誰だっただろうか、そんなことを思い出しながら見たリリアの微笑みにエースも胸が苦しくなった。
「そんな、じゃあどうしてリリア先輩はマレウス先輩と付き合ったんですか。別れるって、辛い思いをするってわかっていたんなら、最初から諦めれば良かったのに……!」
「……もう二度と、後悔をしたくなかったからじゃ。わしは一度、諦めて後悔したことがある。手を取れなかった、一緒に逃げたかった。行動をしなかった結果、わしは大切な人を失ってしまった。そのときの後悔を、わしは痛いほどに知っておる」
「…………」
「お主は、後悔のないようにな。少しばかりお主より長生きをしている年寄りからのアドバイスじゃ」
リリアは最後にもう一度だけエースの頭を撫で、去って行く。ただ一人残されたエースはその場に立ち尽くし、迷子のように途方に暮れた。
マレウスとリリアの問題はエースが抱えるには重く、けれど誰かに言うことも出来ないものだ。またリリアが最後に残した後悔のないように、という言葉もまた鉛のように心に積もっている。諦めると決断したことに後悔はない、ないはずなのだ。
──じゃあ、なんでこんなにも苦しいんだろう。
「……おや、そこにいるのはエースかい?」
「りょう、ちょう……」
なんて出来すぎたタイミングだろうか。会いたくなかったのに、会えて嬉しいと心が震えている。俯いてしまったエースの隣にリドルは並び、そっとハートのスートに触れた。
「りょ、寮長!!?」
大げさなほどに肩を震わせ、思わず後退りしたエースにリドルは眉を顰めながら腰に手を当てて体をぐっと前に出して二人の距離を近づける。
「……泣いていたのかい?」
「は!?!」
「メイクが乱れているし、触った頬は濡れていたよ。さあ、なにがあったのか話すんだ」
「あー……えっとぉ、別になにも……」
「ボクに隠しごとかい? 良い度胸だね、よほど首を刎ねられたいとみえる」
「暴君!! あ、ウソウソ、冗談ですって寮長! だからユニーク魔法だけは勘弁してください!!」
本気で首を刎ねようとしたリドルを慌てて制止する。だが依然とこちらをじっと見つめてくるリドルは何があったのかを聞かない限り立ち去ろうとはしないだろう。当然リリアの話をするわけにはいかない、欠伸をしましたと下手に誤魔化そうとしてもリドルには見破られるのだろうというのは過去の教訓から学んでいた。
「……あの、さ。リドル寮長には諦めるべきなのに、どうしても諦めきれないことってある?」
「なんだい、急に。まあ良い、その質問に答えてあげる代わりにちゃんとなにがあったか答えるんだよ、いいね? それで、諦めるべきなのに、諦めきれないことか……。あったよ、いっぱいね」
「……それって、やっぱり母親関係?」
「キミはデリカシーというものを忘れたのかい? 正解だよ。あの頃のボクはもっとトレイの作ったケーキを食べたかったし、もっといっぱい遊んでいたかった
ここまで。このあとリドルにキミが諦めないことを教えてくれたから今のボクがいる、と言われてエースは恋を諦めるのをやめるしマレリリはこの後二人で話してマレウスがリリアのことを諦めないと言うがリリアは自分の寿命に気づいているから泣きそうな顔をマレウスに見られないように抱きつき、どうか許してくれと願うオチ畳む
エース、プラチナジャケットエピソードネタバレあり
黎明の国、国立美術館。様々な展示物があるなか、エースはトランプ兵が一糸乱れぬ姿で隊列している絵画の前でふと足を止める。入寮してから行った行進を思い出し、自分だけが褒められた記憶にほんの少しだけ頬が緩む。だが、すぐにその笑みはため息へと変わり、嬉しかった思い出が今の自分の心境に塗り替えされていく。
トランプ兵。ハーツラビュル。なんでもない日のケーキ。寮長。真っ赤なバラ。リドル・ローズハート。連想ゲームのように様々な物、場所、人物が頭の中に浮かび上がり、そこにはエースが考えないでいようと思っていた人物がいた。
未練がましい自分に苦笑いするしかなく、エースは早く立ち去ろうと一歩を踏み出す。その瞬間に背後から声をかけられた。
「ほう、なかなか壮観な絵画じゃのう」
「びっ、くりしたぁ……。リリア先輩、急に話しかけないでくださいよ~」
「くふふ、わしは神出鬼没な美少年じゃからのう。それは無理な相談じゃ」
気配もなく現れたリリアはエースの隣に立ち、顔を覗き込んでくる。
「それで? お主はずっとこの絵画を見ていたようじゃが、自分の寮でも思い出したか?」
何もかも見透かすような紅い瞳──まるでバラのようだ──から逃れるように視線を絵画に戻し、エースは「あー……」と言葉を濁した。
思い出したのは本当だが、その内容をバカ正直に言うことは出来ない。リリアならば言っても問題はないだろうが、彼だからこそエースは言いたくはなかった。
リリアは、エースと違い想いを成就させた人物なのだから。
「まあ、そうっすね。入寮して初めての行進を思い出したんですよ、ほんともう最悪な出来でこの絵のトランプ兵とは似ても似つかないカンジ。全員動きがバラバラで、めちゃくちゃ怒られて超ダサかった。ま、オレは褒められましたけどね♪」
「ほう……」
嘘は言ってはいない、初めての行進を思い出したのは事実である。だが含みのある視線を向けてくるリリアはエースが言葉に隠した裏の気持ちに勘づいているかのようににやりと笑った。
「その割には随分と切ない表情をしておったがな。まるで恋をしているかのように」
「……はっ、そんなわけ……」
声が震えながらも返した精一杯の強がりにリリアは穏やかに笑い、エースの頭を撫でる。よしよし、と親が子に向けるような仕草に胸の奥から複雑な感情が湧いて無性に泣き出したくなってしまう。手のひらをぎゅっと強く握りしめ涙を堪えながらリリアを睨み付けた。
エースの表情に呆けた顔を見せたリリアはすぐさま微笑んでその場からふわりと浮き上がる。そのまま絵画からエースを隠すように頭を抱えて「辛いのう」と呟いた。
「己の感情だというのに、全く言うことを聞かん。醜い感情や嬉しい気持ちが勝手に溢れて止められず、ずっと振り回されてばかりじゃ」
「────」
「お主もまた、辛い恋をしておるのじゃな」
慈しむような声色と抱きしめられているという温かさにエースの虚勢が壊されていく。ひくついた喉から漏れた声は意味を持たず、滲む視界を認識したくないと瞼を閉じる。
みっともない、泣くな、と涙を止めようとすればするほど感情が高ぶり、瞳から零れていく涙を止められない。ずっと一人で抱えていた感情が頬を伝う滴となって決壊してしまう。
寮長。リドル寮長。どうしてここにいるのがリドルではないのだろうか、と考えると同時にここにいるのが彼ではないことにエースは安堵を覚えていた。
好きです、と伝えたくて、けれども伝えないことを決めた感情が体の中を駆け巡っている。
いつからリドルを好きになったのかなどわからないくらいに、エースの視線は彼を追ってしまうようになった。出会った最初は融通の利かない、嫌な奴だと絶対に仲良くなんて出来ないと思っていたのだ。それでもリドルの環境を知り、望みを聞いて、王として立ち向かう姿を見てしまったときからエースの感情は次第に新たな感情を生み出してしまった。誰よりもリドルに褒められたくて柄にもなく勉学に励み、それが叶ったときの喜び。トレイと睦まじく談笑している様子を見たときの嫉妬と悲しみ。触れたい、触れて欲しいと願ってしまったときに、エースはリドルのことが好きなのだと認めてしまった。
絶対に叶わない恋を、エースはしてしまったのだ。
「くそ……っ、こんな、オレ、ダサすぎ……っ」
「ふふっ、良い良い。泣けば心も軽くなるじゃろ」
「そんな、のっ、リリア先輩に、頼んでないじゃん……っ!」
「まあそうなんじゃが、泣きそうな顔で立ち尽くすお主を見たら流石に放っておくことは出来ぬ。わしは優しい先輩じゃからのう!」
「どこが……こんな、可愛い後輩を泣かせておいて……っ!」
「くふふ、生意気な口じゃのう~。こうしてやるわい!」
エースの頭を離したリリアはそのまま指を頬へと滑らせて軽く左右に引っ張る。抗議の声を上げるエースを無視し、頬を左右だけではなく上下にも動かし始めるリリアに涙も止まっていく。少しだけリリアから逃れようと身動ぎすれば彼は意図を読み取ったかのようにぱっと身を離した。
「あ~もう、ほんとマレウス先輩って良くリリア先輩の手綱握れますね。尊敬するわ」
「長い付き合いじゃからのう。それに惚れた弱みもある」
「あっ、そう……。堂々と恋人ですって言えるのほんと羨ましい。オレの恋なんて絶対に叶わないし」
涙を拭いながら零した言葉にリリアは「そうなのか?」と驚いた表情を見せる。泣いたことで少しだけ気が晴れたエースは頷いてからもう一度羨ましい、と呟いた。
「オレの好きな相手って、ぶっちゃけるとリドル寮長なんですよね。ね、絶対に無理でしょ。あの真面目な人がオレみたいな奴を好きになるなんて絶対にあり得ない。あり得るとしたらトレイ先輩とか? ほら、トレイ先輩って寮長のこと甘やかしてるし、寮長も甘えてるなってわかるんだよね」
「それは、ずっと見てきたからか?」
質問のようで断言するかのような口調にエースはただただ苦笑する。
「リリア先輩って容赦ないっすね。そうですよ、好きって気がついてからずっとオレはリドル寮長だけを見ていました。でも向こうは一切気づかねえの、もうここまでくると笑える」
だから、諦めようと決めたんだ。か細く、自分に言い聞かせるような囁きのような言葉は、けれどリリアには届いたらしい。
想いを告げようとは思わないのか、と投げかけられた質問にエースは首を横に振る。
「困らせたくないし、正直、振られるってわかってて告白なんてしたくない」
「だから、諦めると?」
「それが正解でしょ? 誰も傷つかない、不幸にならないじゃん」
「……わしは、そうは思わん」
「リリア先輩は、想いが叶ったから言えるんじゃん。オレの気持ちなんて、叶わない恋をした奴の気持ちなんてわかんないよ」
卑怯な言い方だ、とエースは思う。少なくとも八つ当たりで先輩に投げつける言葉ではないと理解していたが滑り出た言葉は止められなかった。
「幸せな恋人同士なリリア先輩には、絶対にわからないよ」
「幸せな恋人同士のう……。ふふ、ではここでお主に問題じゃ」
「は?」
「赤ん坊はどうやって出来ると思う?」
「赤ん坊って、そりゃあ、もちろん男女が……」
いきなり変な問題を出すリリアに呆気に取られながらエースは答え、その回答に彼は良く出来ましたとばかりに満面の笑みを浮かべる。しかし視線はエースから絵画へと逸らされ、釣られるように自分もトランプ兵の絵画へと顔を向けた。
「そう、子は男女間の営みで出来る。それは妖精であるわしやマレウスも変わらない。どんなに願っても、わしは子を産めん。……じゃが、マレウスには跡継ぎが必要じゃ」
「……え? は、ちょっと意味が、」
「お主、わしとマレウスを幸せな恋人同士じゃと言ったな? じゃが、将来的にマレウスには跡継ぎが必要になる。そのとき、子を産めないわしは必要ない。……わしは、いつかマレウスと別れる。そしてマレウスは、誰かと結婚をして子を成す」
「…………」
リリアが告げた言葉はエースの想像を超えており、理解するのに少しばかりの時間を要した。言葉を咀嚼し、飲み込み認識した後にハッとリリアを見れば彼は寂しそうな笑みを浮かべているのが見えた。
「お主の言う幸せな恋人の姿は、きっと学生のうちだけじゃ。茨の谷に戻れば、わしはただの臣下になる。マレウスと結ばれることは、ない」
「それ、マレウス先輩も同意の上なんですか……?」
その言葉にリリアはただ曖昧に笑みを浮かべる。沈黙は肯定であると言ったのは誰だっただろうか、そんなことを思い出しながら見たリリアの微笑みにエースも胸が苦しくなった。
「そんな、じゃあどうしてリリア先輩はマレウス先輩と付き合ったんですか。別れるって、辛い思いをするってわかっていたんなら、最初から諦めれば良かったのに……!」
「……もう二度と、後悔をしたくなかったからじゃ。わしは一度、諦めて後悔したことがある。手を取れなかった、一緒に逃げたかった。行動をしなかった結果、わしは大切な人を失ってしまった。そのときの後悔を、わしは痛いほどに知っておる」
「…………」
「お主は、後悔のないようにな。少しばかりお主より長生きをしている年寄りからのアドバイスじゃ」
リリアは最後にもう一度だけエースの頭を撫で、去って行く。ただ一人残されたエースはその場に立ち尽くし、迷子のように途方に暮れた。
マレウスとリリアの問題はエースが抱えるには重く、けれど誰かに言うことも出来ないものだ。またリリアが最後に残した後悔のないように、という言葉もまた鉛のように心に積もっている。諦めると決断したことに後悔はない、ないはずなのだ。
──じゃあ、なんでこんなにも苦しいんだろう。
「……おや、そこにいるのはエースかい?」
「りょう、ちょう……」
なんて出来すぎたタイミングだろうか。会いたくなかったのに、会えて嬉しいと心が震えている。俯いてしまったエースの隣にリドルは並び、そっとハートのスートに触れた。
「りょ、寮長!!?」
大げさなほどに肩を震わせ、思わず後退りしたエースにリドルは眉を顰めながら腰に手を当てて体をぐっと前に出して二人の距離を近づける。
「……泣いていたのかい?」
「は!?!」
「メイクが乱れているし、触った頬は濡れていたよ。さあ、なにがあったのか話すんだ」
「あー……えっとぉ、別になにも……」
「ボクに隠しごとかい? 良い度胸だね、よほど首を刎ねられたいとみえる」
「暴君!! あ、ウソウソ、冗談ですって寮長! だからユニーク魔法だけは勘弁してください!!」
本気で首を刎ねようとしたリドルを慌てて制止する。だが依然とこちらをじっと見つめてくるリドルは何があったのかを聞かない限り立ち去ろうとはしないだろう。当然リリアの話をするわけにはいかない、欠伸をしましたと下手に誤魔化そうとしてもリドルには見破られるのだろうというのは過去の教訓から学んでいた。
「……あの、さ。リドル寮長には諦めるべきなのに、どうしても諦めきれないことってある?」
「なんだい、急に。まあ良い、その質問に答えてあげる代わりにちゃんとなにがあったか答えるんだよ、いいね? それで、諦めるべきなのに、諦めきれないことか……。あったよ、いっぱいね」
「……それって、やっぱり母親関係?」
「キミはデリカシーというものを忘れたのかい? 正解だよ。あの頃のボクはもっとトレイの作ったケーキを食べたかったし、もっといっぱい遊んでいたかった
ここまで。このあとリドルにキミが諦めないことを教えてくれたから今のボクがいる、と言われてエースは恋を諦めるのをやめるしマレリリはこの後二人で話してマレウスがリリアのことを諦めないと言うがリリアは自分の寿命に気づいているから泣きそうな顔をマレウスに見られないように抱きつき、どうか許してくれと願うオチ畳む
その4のリリア視点
リリアは意外にも恋愛話が大好きだ。しかもミックスベリーをふんだんに使用したケーキのように甘酸っぱい青春の一コマのようなものを一番好んでいた。
だから下級生に告白をされたとき、リリアの胸はきゅんきゅんと高鳴ったのを今でも覚えている。リリアにしてみれば学園にいる者などまだまだ青二才も良いところで、そんな彼らが自分に恋愛感情を必死にぶつけてくる姿は可愛らしいと形容するしかない。といってもリリアが彼らに恋愛感情を持つわけもなく、穏やかに、彼らにとって良い思い出になるように告白を断ってきた。一部身の程知らずが暴行を働こうとしたこともあったが若造に後れを取るほどに耄碌しているわけもなく、そういう輩は返り討ちにして少しばかり魔法で記憶を封印させてもらっている。
告白をされるたび、リリアは胸を高鳴らせ「甘酸っぱい青春は良いの~~~~! はー、酒でも飲むかぁ!」と高まったテンションのままに酒を浴びることも多い。一応マレウスやシルバー、セベクにはバレてはいないようだ。特にシルバーにバレたら怒られることは確実なので彼が寝静まった頃にリリアは酒盛りをしている。
さて、ここまでリリアが恋愛話が好きなのには理由がある。リリアは恋愛に憧れていたのだ。
そもそもリリアは恋愛が出来るような環境にいたわけではない。いや、確かに昔プロポーズみたいなものはしたが、アレは二人に置いていかれたくないという気持ちもあったのだ。もっとも、今はそれは叶わぬ願いとなってしまったが。
その後妖精と人間たちの戦いが終わったと思えばリリアはシルバーを拾ったため、恋愛が出来る余裕などなく今に至る。とどのつまり、他人の恋愛話を見て、聞いて自分の青春を取り戻しているわけだ。
そんなわけでリリアは自分への好意に敏感である。なので当然、マレウスがリリアに向ける感情にも気づいていた。というかリリアが離れると寂しそうに天候を悪化させるマレウスは好意を隠すつもりがあるのかと言いたい。気づいていないんだろうな、と思いながらも言葉にして引き留められないマレウスの奥ゆかしさがたまらなく好きなので気づかせるような言葉を言うつもりはなかったりもする。
とはいえ、マレウスが万が一告白したとしてもリリアは受けるつもりはなかった。立場が異なるし、マレウスの母親の件もある。
憧れは憧れのままで。キラキラとした甘酸っぱい青春を傍観者のように見ている方がリリアは楽しい。
そんなことを、つい先ほどまで思っていたのだ。
「リリア! 僕はリリアが好きだ!」
リリアの腕を捉えたマレウスが叫ぶ。飾り気のない、真っ直ぐな言葉。そんなもの、今までも散々聞いてきたはずだった。
マレウスのリリアに向ける瞳は純粋で、そこには下心など全く見えず、ただただ愛に溢れている。
──触れたところが、熱い。じわじわと二人の熱の境界線がなくなっていく。その浸食されるような感覚にリリアの背筋にぞわぞわとした感覚が走った。
マレウスの顔をこれ以上見るのが怖くて思わず俯いたリリアは、今までにない鼓動の早さに狼狽えてしまう。なんで、こんなの、知らない。ぐるぐると頭の中で混乱が渦巻く。
シルバーとセベクに話しかけられて漸く我に返ったリリアは顔を上げてしまい、ばっちりマレウスと目が合う。その瞳には、リリアだけが映っている。
「~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」
顔から火が噴きそうだった。触れている箇所が火傷したかのようにじんじんと切なく疼き、リリアは大きく腕を振ってマレウスの手を解いた。
キラキラ、とマレウスが光って見える。いやマレウスだけではない、リリアの視界に映る全てがキラキラと色づいている。光の暴力に脳がクラクラとして、そしてなによりその中でも一等マレウスが輝いて見えるのが混乱に拍車をかけた。
いつものように断れば良い。傷つけないように、優しく、穏やかに。そう思うのに、リリアの口から出たのは全く逆のことだった。
「こ、こ、こんな場所で言う奴がおるかーーーーーーっっ!!」
それだけを叫んでリリアは魔法で自室に戻る。あれ以上談話室になどいられるはずもなかった。
胸の高鳴りが治まらずに息が苦しい。ちかちかと視界が眩しい。顔が赤くなるのを止められない。マレウスの告白を断るつもりだったのに、いざ想いを告げられればなにも言えなくなってしまった。
──恋に、落ちてしまった。
恋を自覚してしまったリリアはその場にしゃがみ込み、数時間後シルバーが扉をノックするまで一歩も動けなかった。畳む